浅草寺は末吉だったが、財布には凶だった
我が家の子どもが「ちょっと浅草に用事があるから、帰りに浅草寺でも寄ってくるわ」と、軽い足取りで出かけていった。
……そう、あの時はまだ知らなかったのだ。
東京屈指の観光地・浅草が、いまや「日本円が通じる異国」と化していることを。
帰宅するなり、玄関のドアが開いた瞬間の開口一番がこれである。
「浅草、マジでやばい」
ほう。何がやばいのか。
息も絶え絶えに語る子どもの話を、私は「フムフム、それで?」という顔(実際はただの野次馬根性)で聞いてみた。
まずは浅草寺に参拝し、名物のおみくじを引いたらしい。
浅草寺のおみくじといえば、容赦なく「凶」が飛び出すことで有名だ。確率30%とも言われる「凶」の嵐の中、子どもが引き当てたのは……
「末吉」
うん、セーフ。
凶じゃなかったことに全力で胸をなでおろす、なんとも言えない引きの強さである。
しかし、ここからが「マジでやばい」の本番だった。
とにかく、境内は右を向いても左を向いても外国人観光客でごった返している。
歩いているだけで、なぜか2組の外国人グループから写真撮影を頼まれたそうだ。
しかし、1組目は背景がただの壁。
2組目はただの階段の踊り場。
「浅草要素、どこ?」
心の中で何度も突っ込みながらも、子どもは親切にシャッターを押したらしい。
おみくじは末吉だったが、人助けの徳は確実に積んでいる。
さて、問題はここからだ。
たくさん歩いてお腹が空いた子どもは、ごった返す仲見世通りで何か食べようと目を光らせた。
そこへ容赦なく襲いかかる**「インバウンド価格」の波。**
「何か冷たいものでも……」と目を向けた抹茶ソフトクリーム。
お値段、なんと800円。
「……え?」
一瞬、脳内の計算機がバグる。
ソフトクリームって、お小遣いの小銭で買うものじゃなかったっけ?
気を取り直して、飲み物を探そう。
おしゃれなカフェの看板に書かれた「抹茶ラテ」の文字。
お値段、なんと1500円。
1500円。
子どもはその価格表示の前で、完全に時間が止まり、呆然と立ち尽くしてしまったらしい。
脳裏をよぎるのは、昨日飲んだゴンチャの思い出。
「昨日あんなに満足したゴンチャ、570円だったよな……? 抹茶ラテ1杯でゴンチャが2.6杯飲めるってどういうこと?」
時空が歪んでいる。
浅草の物価は、日本の高校生・大学生の財布を容赦なくすり潰しにきている。
しかし、何か食べたい。このままでは行き倒れる。
必死に探して、少し歩いたところで見つけた「アイス最中」。
お値段600円。
「サーティワンのアイス、ダブル注文できるじゃん……」
そう思いながらも、子どもは震える手で600円を支払い、アイス最中をかじった。
味は美味しかった。
美味しかったが、脳内では、同じ600円で食べられたダブルのサーティワンのアイスでいっぱいだった。
恐るべし、インバウンド価格。
そんな怒涛の「浅草サバイバル」を生き抜いて帰ってきた子どもに、私はふと気になって聞いてみた。
「ちなみに、そのおみくじの『末吉』って、英語でなんて書いてあったの?」
子どもが差し出したおみくじ。
そこには、力強いアルファベットでこう書かれていた。
「GOOD FORTUNE IN FUTURE」
(未来に幸運あり)
未来。
そう、「未来(FUTURE)」である。
「今」は、抹茶ラテ1500円に白目を剥き、サーティワン換算でアイスを食べるような過酷な現実だけど。
未来には、きっと1500円の抹茶ラテを「安〜い!」と言ってガブ飲みできるような大富豪の未来が待っている。……かもしれない。
末吉だけど、やたらと壮大なスケールで励ましてくれた浅草寺。
とりあえず我が家は、今日も堅実に、箱入りアイス5〜6本入りを分け合って食べようと思う。
ご覧くださりありがとうございました。
