見出し画像

席のあなたは、花子さん|毎週ショートショートnote|隣席の富士山

駅近の大衆居酒屋がお気に入りだ。
昼は定食屋使いできて、週2、3は行く。
夜も仕事帰りに飲みで使ったりする。
昼も夜もずいぶん賑っている。

ある夜同期のTと飲んでいたら、男女2人客が隣に座った。
「富士山わさびカンパニー」の人たちだ。
弊社ウチと隣接するビルに入っていて、フロアの高さが同じ。
お互いの職場がよーく見える。
女性の顔にも見覚えがある…どころではない。僕は営業で多くの時間、外にいるけど、自席で仕事する時にはつい、向かい合う位置に座る彼女の姿を目で追ってしまう。
さりげなく。ガン見して警戒されぬよう。
これまで数度、目線がばちんと合ってしまった……中学生みたいにふいっと目を逸らした。
ガラスや空気越し、ほんの5、6メートル先に座る、名も知らぬ彼女。
心の中で「花子さん」と呼んでいる。
高嶺も高嶺な「富士山の花子さん」。
窓越しに見るだけ。現実、何もできない。

Tと話しながら、隣席の富士山の二人が気になって仕方がない。
僕と花子さんは壁側に並んで座るため、ここでは目線は合いづらい。
斜向かいの男性を見る。
僕と同い年ぐらいか。
(二人で飲みにこられるとか…、羨ましいったらないな…。)
嫉妬心がうずく。
耳を澄ます。どんな会話しているんだろう、彼女の情報も知りたい。
けど店内のざわめきで、話の中身までわからない。
狙って、トイレに立ってみる。
席に戻る時、見る。
彼女と目が合う。
けど職場でみたく、さっと逸らす。

21時前、Tが「そろそろ…」と帰ろうとした。
僕はとっさに「あ、了解。俺はもう少し、残る」と言った。
敢えて大きな声で。
テーブルに居続けても、変に思われないように…花子さんだけには。

一人になって、少し隣の様子や会話がわかる。
「○○ちゃん、きみは日本一美人!」とか言ってビールをひとり一気飲みして「すいませ〜んおばちゃん!」とか呼びかけてしまう、なかなか残念な奴だった。
あげく、上半身がふらついてきた。
(酔い潰そうとして、自分が潰れる情けないパティーンだ…)
僕は察する。
とうとう、ガコン!と大きな音を立てて、机に突っ伏してしまった。
これはもうただ一度のチャンスな気がして、賭けに出た。
右を。花子さんを、向く。
目線が合う。
いつもの癖で目を逸らしかけて、とどまる。

「お連れの方、お潰れになっちゃいましたね?」、笑顔で話しかける。
「はい」、彼女も笑顔になってくれた。
「あのぉ、よく……」
花子さんと僕が、同時に発した。


(998文字)

※2025.9.27  思いつきでタイトルを「富士山の花子さん」から変更しました。本文は変更無しです。


たらはかにさんの企画に参加します。

#隣席の富士山
#毎週ショートショートnote

いいなと思ったら応援しよう!

山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑