創作大賞感想 『寿司マン』 (東京ローカル 岩男さん作)
「人生のじぶんでこしらえた部分、非現実的なところだけが好きなんだ。ぼくらにはいろんなことが起きるーー病気とか誕生とか、ゼルダのプランジャン入院とかパトリックのサナトリウムとか義父ウィボーグの死とか。それらが現実だ、どうにも手の出しようがない」。すると、スコットが、そういうものは無視するってことかい、と聞いてきた。だからこう答えた。「無視はしないが、過大視したくない。大事なのは、なにをするかではなくて、なににこころを傾けるかだとおもっているから、人生のじぶんでつくりあげた部分しか、ぼくには意味がないんだよ」

読みやすさであったり、ダメージを負った主人公がリベンジに向かう、というフォーマットにおいて、この小説はライトノベルに分類されるのだろう。
つかどうしても「女体盛り」とかで、ギャグもの?って反応になりますよね…笑
だが、どうしてだろう。評者はこの小説に、何か切実なものを感じずにはいられない。
ライトノベルの書き方を使ってのウケ狙いバリエーションverを書いてみました〜40代が!テヘペロ!ウケるでしょ?というものではなくて、自身の魂を「少しばかり削って、少しばかり痛みを感じながら」の精神的営みの中、書かれたものではないか?そう推量している。
「実際に、手汗で他者からいじめの対象になり、傷ついたし古傷だ」
「手汗は寿司に結びつけるネタ昇華だが、別の何らかの身体的要因(例 ワキガ、毛深い等……ちなみに岩男さんノーコメントで構いませんよ!)により、学生時代イヤな目にあった」
といった何かが滲み出ているのを、感じる。
この題材にしなければならない切実さを、そこはかとなく感じてしまうのだ。
そして切実なればこそ、同様に身体的コンプレックスで悩む・苦しむ読み手へ、あるいは担任教師までもいじめに加担しているとしか思えないような地獄の状況にある読み手へ、届いていくーーそうした創作として有ることに成功している。
主人公が「ミチルアミノ酸」という究極の武器ーーファンタジー系ライトノベルでいうところの「聖剣エクスカリバー」的なーーを手にして、物語に最初の光明が差し込む。
主人公に、人生という自身の物語を切り開いていくとんでもない推進力、爆発威的力強さが備わる。人生、勢いは大事で、恋愛だって成就させる。
もちろん忘れてはならないのは、その気づき以前も、「バイトで50万貯める」、「高校中退」、「変装して生きる」そして「過去一切を捨てての寿司職人入門」など、彼はラノベ的に他者からラッキーにも与えられるのではなく、復讐心に根ざした自分の努力によって、人生を切り拓き続けてきたこと。
ある時、恋人の女性がとある資質を見出され、それを契機にふたりの関係性は変わっていく。個人の内面や人生の目標も変わるし、人間関係も変わっていく。
この、人生の真理が活写されるのは、著者の人生経験によるもの大であろう。
個人的ツボというか身につまされたのは、主人公の、恋人女性に対するある願望が、ずーっと反省も改心もなく消えちゃわず、ラストまで有り続けること。
男の本質であるそのバカさ加減、大変よく描けました!ですわな…笑
真田正之さんの感想でも触れられていたが、物語にひとつでも複数の伏線が置かれていると、読後の快い余韻が深まったかもしれない(例えば、冒頭の、おそらく山中が描いている遺影のイラストの中に、彼がいじめに走った秘密が描きこまれているなど)。
だが、爽快さに寄せたこのエンディングだって、もちろん悪くない。
(2025.5.12追記→)読み返したら、一つ大きな「伏線装置」がちゃんと置かれていて、読後のカタルシスを味わうのに貢献していました。
「ロープ」だ。人の命を奪うものに、なりきらなかったアイテム。
この物語だからこそ、主人公が彼だからこその理由が、そこにはある。
冒頭に引用した本の表現で言うなら、主人公は「人生のじぶんでこしらえた(つくりあげた)部分」でいろいろを成し遂げ、じぶんの人生に「意味」を与えることに成功した。
王道のラノベより、読者の絶対数は少なくとどまるかもしれない。
けれど、筆者の「切実さ」をも込みでこの物語が深く刺さり、自分のものとして今後、心の拠り所になる。そうした読み手が必ず日本のどこかにいるはず。
「ん?自分かも」ともし思った方は、まずは読んでみていただきたい。
ちょっとクセ強だが、これはもしかすると……、
身体的コンプレックスに憂い、努力に対してつい斜に構えがち。
そんな「あなたのための」物語かもしれないです。
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