なんだ、私はもう持っていたんだと気づく
「もっと頑張らなきゃ」
「まだまだ足りない」
「あれがないから幸せになれない」
そんなふうに思いながら、日々を過ごしている方は少なくないと思います。私もその一人でした。
介護の仕事をしていると、「もっと専門的な知識が必要なんじゃないか」「もっと上手にコミュニケーションをとれなければ」と自分を追い込んでしまうことがあります。
仕事だけでなく、日常生活でも「もっと○○できなきゃ」という思いにとらわれ、足りないものばかりに目を向けてしまうのです。
けれど、あるとき私はふと気づきました。
「なんだ、私はもう持っていたんだ」と。
それは新しい知識や技術ではなく、もっとシンプルで、当たり前すぎて見落としていたものだったのです。
入居者様に教えていただいた気づき
私がそのことに気づかされたのは、入居者様とのやり取りの中でした。
ある日、一人の方の食事介助をしていたときのことです。
私は「こぼさないようにしなきゃ」「スムーズに口に運ばなきゃ」と一生懸命になっていました。
すると、その方がふっと私の顔を見て、「あなたがそばにいてくれるだけで安心するよ」と言ってくださったのです。
その瞬間、ハッとしました。
私は「もっと上手に」「もっと完璧に」と考えるばかりで、自分がすでに持っている“存在そのものの価値”を忘れていたのです。
技術やスピードももちろん大切です。でも、それ以上に「ただそばにいて安心を与える」ということも、介護士としての大切な役割。しかもそれは、特別な努力をしなくても、すでに自分の中にあるものだったのです。
「足りない」に目を向けすぎると苦しくなる
私たちはつい「持っていないもの」にばかり目を向けてしまいます。
もっと収入があれば、もっと時間があれば、もっと能力があれば…。
しかし、足りないものを追い続けるほど、心はどんどん苦しくなります。
まるで底のないバケツに水を注ぎ続けるように、どれだけ手に入れても「まだ足りない」と感じてしまうのです。
私自身もそうでした。介護の現場で経験を積んでも、「まだ知識が浅い」「もっとコミュニケーションが上手な人がいる」と、自分を認めることができませんでした。
でも、入居者様の一言で気づいたのです。
「完璧じゃなくてもいい。私にはすでに“安心を与える存在”という力があるんだ」と。
すでに持っているものに気づくと心が軽くなる
それ以来、私は「すでに持っているもの」に目を向けるように意識しています。
たとえば、笑顔。
誰かに向けて微笑むだけで、その人の心を温められる。これは特別な訓練がなくても、すでに持っている力です。
たとえば、優しさ。
誰かの話を黙って聞くだけでも、「この人は自分を大切にしてくれている」と感じてもらえる。それも私たちがすでに持っているものです。
たとえば、経験。
日々積み重ねてきた出来事は、すべて自分の財産です。「自分には大した経験なんてない」と思っていても、他の人にとっては大きな学びや励ましになることがあります。
こうした「すでに持っているもの」に気づくだけで、心が驚くほど軽くなるのです。
介護の仕事は「すでにあるもの」を活かす場
介護の現場は、実は「すでに持っているもの」を発揮できる場でもあります。
明るさ、人懐っこさ、几帳面さ、体力、聞き上手…。どんな性格や特性でも、介護の現場では活かせる瞬間があります。
私の同僚で、人前で話すのが苦手な人がいます。でもその人はとても丁寧で、細かい変化に気づく力があるので、入居者様の体調の変化をいち早くキャッチしてくれます。
また、冗談が得意な職員は、場を和ませるムードメーカーとして欠かせない存在です。
「介護士にはこういう能力が必要」という決まった正解はなく、誰もがすでに持っているものを、そのまま活かせるのです。
「もう持っていたんだ」と気づくためにできること
では、どうすれば自分がすでに持っているものに気づけるのでしょうか。私が実践している方法をいくつか紹介します。
1. ありがとうの言葉を受け取る
入居者様や同僚からの「ありがとう」を素直に受け取るようにしています。その言葉は、自分がすでに持っている力を教えてくれるサインだからです。
2. 小さな成功体験を振り返る
「今日はあの方が笑ってくれた」「自分の声かけで安心してくれた」など、日々の小さな出来事を書き留めると、自分が持っている力に気づきやすくなります。
3. 他人と比べない
「自分にはないもの」を探すのではなく、「自分にはこれがある」と視点を切り替えることが大切です。
人生は「すでにあるもの」を味わう旅
介護の仕事をしていて強く感じるのは、入居者様の多くが「すでに持っているもの」を大切にされているということです。
若いころの思い出、家族とのつながり、これまで積み重ねてきた経験。
新しいものを追い求めるよりも、「すでにあるもの」を振り返り、味わい直すことに大きな価値を見いだされています。
その姿から学べるのは、「幸せは何かを手に入れて初めて訪れるものではない」ということ。
幸せは、すでに持っているものに気づいたとき、自然にあふれてくるものなのだと思います。
おわりに
「もっと頑張らなきゃ」「まだ足りない」と思っていた私が、入居者様との日々の中で気づいたこと。
それは――
「なんだ、私はもう持っていたんだ」ということでした。
笑顔、優しさ、経験、人とのつながり。
それらは特別な努力をしなくても、すでに私たちの中にある宝物です。
もし今、「自分には何もない」と感じている方がいたら、どうか立ち止まって、すでに持っているものを思い出してみてください。きっとその瞬間、心がふっと軽くなり、前に進む力が湧いてくるはずです。
今日も私は、介護士として、入居者様との関わりの中で「もう持っていたんだ」と気づかされながら歩んでいます。
そしてその気づきが、私の人生を豊かに彩ってくれているのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
