『28歳のクリスマス』1話〜3話。
※こちらの作品は、昨年の11月末~12月
25日までに配信した、矢田和也初の恋愛小説
です。
今回、創作大賞応募用に一部編集して、新たな
作品としてお届けいたします。
(あらすじ)
この物語は、
冬の空気の中で静かに始まりました。
主人公・桃香は、派手でもなく、
特別でもなく、ただ日常の中で、小さく
揺れながら生きている28歳の女性です。
恋愛をドラマとしてではなく、人の心の
動きとして丁寧に描かせてもらいました。
過去の想い、言えなかった言葉、
ふとした沈黙、心がほどけたり、
閉じたりする瞬間。
誰の中にもある「感情の揺れ」や
「冬のゆっくりとした時間」を、
静かに、そっとすくう描写を意識しました。
主人公・山川桃香(28)
奈良から大阪に出てきて数年。
仕事と日常に追われながらも、「変わりたい」と
いう小さな気持ちを胸に冬を迎える。
そんな桃香の前にあらわれるのは——
● 純粋でまっすぐな後輩・陽斗
● 大人の余裕を見せる先輩・神谷亮介
● そして、高校時代の本命…高橋悠也
恋と日常が、静かに動き出していきます。
桃香は、忙しい毎日の中で、冬の朝焼けや
散歩の時間に少しずつ自分を取り戻していく。
陽斗の不器用な優しさ、
先輩のさりげない気遣い、
そして——母からのLINEに背中を押されながら、
高校の本命だった悠也との再会が決まる。
「会う前の時間ほど、心臓は静かに嘘をつく」
約束の日が近づくにつれ、桃香の心は静かに
揺れ始める。
悠也から届いた短いメッセージ。
高校以来の再会。
少し大人になったけれど、変わらない笑い方。
悠也の声を聞いた瞬間、時間がゆっくり巻き
戻る。
高校時代から止まっていた距離が、
ようやく今の二人として動き始めます。
最後は、高校時代の二人が無事、結ばれ
ます。
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【第1話】
28歳の冬、1人ぼっちから未来の2人へ
〜朝焼けと、桃香のはじまり〜
山川桃香、28歳。
奈良県出身、大阪で1人暮らし。
派手でも華やかでもない、どこにでもいる
普通の女性。
でも、ひとつだけ誰にも言っていない
密かな楽しみがある。
──朝焼けの散歩。
父の「朝だけは早く起きろ」という口癖の
名残。
それ以上に、この時間の静けさが桃香は
好きだった。
まだ街が起きていない。
車の音も少ない。
薄い青の空に、オレンジ色がふわっと
にじんでいく。
そのわずかな数分だけ訪れる、やわらかい
世界。
通勤前の10分、桃香はその景色の中で、
言葉にできない何かがそっと整っていくのを
感じていた。
(ああ…今日も、綺麗…。)
最近、桃香にはもうひとつ習慣ができた。
──「今の気分を素直に味わうこと。」
(コレは、矢田和也さんが note で書いていた
メッセージ)
仕事、恋愛、母からのプレッシャー、未来への
不安。
全部いったん置いといて、
ただ綺麗やなぁと感じる自分を大切にする。
それは、桃香にとって小さなご褒美に
なっていた。
会社では、いつもの朝が始まる。
コピー機の音、電話のベル、営業さんが走る
気配。
そんな中、桃香だけほんの少し軽かった。
同僚の美穂が言う。
「桃香、最近なんかええ顔してへん?
朝になんかしてるやろ?」
桃香は笑って答える。
「え? 朝焼け見るだけやで」
「いや、それだけでそんな変わる?
なんか…雰囲気柔らかくなった気がするで」
(そうなんかな…)
矢田さんのメッセージ。
「心がふっと明るくなると、未来も明るくなるヨ」
その言葉が、最近よく桃香の胸に残る。
桃香は28歳。
恋愛はうまくいかへんことも多い。
クリスマスの予定も、もちろん空欄。
だけど、今朝の空を見て思った。
(今年の冬は……なんか、ちょっと違う気がする。)
ほんの少しだけの予感。
これが──静かに幕を開ける、
桃香のクリスマス物語の第一歩だった。
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第2話:新人・陽斗の「おはよう」
朝焼けの散歩から帰り、桃香は静かに
お茶を飲んでいた。
まだ少しオレンジ色が残る冬の空。
(今日も、悪くない気分。)
会社に着くと、ちょっとした違和感があった。
「おはようございますっ!!」
やたら声の大きい新人、
──中村陽斗(はると)が勢いよく挨拶
してきた。
小柄で丸メガネ、すこしオドオドしているのに、
なぜか人の懐にスッと入る不思議な子。
「あ、桃香さん、これ……差し入れです!」
小さなお菓子の袋。
いつものことだけど、今日はなんだか表情が
違う。
「ありがとう。どうしたん?
なんか良いことあった?」
「えっ……あ、いえ、その……
桃香さん、最近すごく雰囲気変わったので……
なんか、渡したくなっただけです……」
(え? なんなんそれ。 )
不意打ちの言葉に、桃香の胸がふわっと
揺れた。
そこへ同僚の美穂が、小声で近づく。
「なぁ桃香……あの子、アンタのこと
絶対好きやろ」
「やめてって、美穂……!」
「ほら見てみ、陽斗くんの耳、真っ赤やで」
横を見ると、本当に真っ赤だった。
(なんでやの……)
そんなやり取りをしていると、
オフィスの空気がふっと変わる。
「おはよう」
低めで落ち着いた声。
イケメン先輩──神谷亮介が入ってきた。
今日も完璧なネクタイ。
スッとした立ち姿。
桃香の周りの女性社員が一斉にそわつく。
「山川君、昨日の資料ありがとう。助かったよ。」
(ちょ…なんでわざわざ言いに来るん)
少しだけ、心がジワッと温かい。
だけど同時に、なんとなく落ち着かない。
そこへ陽斗が再び近づく。
「桃香さん、もしよかったら……
あの……今度の金曜日、
ちょっと話したいことが……」
「えっ?」
美穂が横でニヤニヤしている。 (*^^*)
(ちょ、待って……え、どゆこと?)
わからないまま昼休憩に入った桃香は、
お弁当を開きながらため息をついた。
(はーっ……、なんか疲れた……。)
(なんか、今日は落ち着かへん……)
ふと思い出す。
朝の空、
あの静かな綺麗さ。
(あれ見てなかったら、もっと揺れてたかも)
そして夕方、仕事の帰り。
ビルのガラスに映る自分が、ほんの少しだけ
明るく見えた。
(……今年の冬、やっぱりなんかあるかも)
心の奥で、そっと予感が膨らんでいた。
──そして金曜日。
陽斗の話したいことが、桃香の冬をまた
揺らし始める。
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【第3話】
クリスマスが近づくたび、心はなぜ揺れるのか
金曜日。
朝の空は薄い青に少しだけオレンジが
混じっていて、
(今日は何か起こりそう)
そんな予感が桃香の胸にあった。
会社に着くと、陽斗(はると)がいつも
より落ち着かない。
デスクの前でソワソワして、
こっちを見ては目をそらし、また
見てはそらし。
(なんなん、それ……)
お昼休み。
覚悟したような顔で陽斗が近づいてきた。
「桃香さん、今日……少しだけ、話せませんか?」
相変わらず耳は真っ赤。
その不器用さが逆にまっすぐで、
桃香の胸がほんの少し、キュッとなった。
「うん。いいよ」
約束をして席に戻ると、
同僚の美穂が肘でつついてきた。
「やっぱり告白ちゃう? あの感じ」
「やめてよ……」
「じゃあ神谷先輩は? あの人も最近なんか
優しいやん」
「だからやめてって……!」
美穂の茶化しを聞き流しながら、
桃香はふとスマホを開いた。
そこで目に入ったのが、
矢田さん(=矢田和也)の最新noteメッセージ。
──人生は、ほんの少し心が明るくなるだけで
動き出すヨ
その一文で、胸がすっと軽くなった。
(ああ……こういう事なんかな)
矢田さんの文章は、
背中を強く押すんやなくて、
少しだけ肩の力が抜けるような不思議な
温度がある。
(焦らんでいいんや。ちゃんと流れがある)
そう思うだけで、
陽斗の話を聞くのが怖くなくなった。
そして、夕方。
空がオレンジ色に染まる頃、
世界は一瞬だけ、やさしくなれる。
そして、会社の外では、陽斗が待っていた。
「桃香さん……ちょっとだけ歩きませんか?」
冬の風が冷たいのに、
陽斗の声はやけに温かかった。
しばらく沈黙が続いたあと、
陽斗が立ち止まった。
「桃香さん……
ぼ、僕……桃香さんのこと……」
その瞬間。
「……え、ここにいたんだ。山川君」
神谷先輩が姿を見せた。
コートの襟を立て、
まるで映画のワンシーンみたいに立っていた。
「さっき言いそびれたから……これ、渡したくて」
差し出されたのは、
桃香が担当した企画書の控え。
「今度、良かったら、二人でゆっくり話そうよ。
……時間、大丈夫でしょ?」
陽斗の表情が固まる……。
桃香の胸も、ぎゅっと揺れる。
(え、なんなんこれ……
三角関係って、こういう感じなん……?)
でもその混乱の奥で、
矢田さんのnoteの言葉がふっと浮かぶ。
──焦らなくてもいい。
流れは、いつも静かに始まるヨ。
(そうよね……流れにお任せしよう)
自分でも驚くほど落ち着いていて、
桃香は小さく息を吸った。
冬の風が冷たくて、
だけど心の奥はほんの少し暖かかった。
──この冬、まだ何かが動き出すのかもしれない。
次回作品は、こちらから
🩵ここまでです。
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