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【noteでBL】Do It Mysel


今年度最初のnoteでBL。張り切っていきましょか。

【お題】
地獄・土壇場でキャンセル・オタク×オタク

【ジャンル】
ホラー風味コメディ(ブロマンスより)

【本文文字数】
4,187文字

【あらすじ】
楽しみにしていたスイーツビュッフェを友人にドタキャンされた、大学生の松井とその先輩宇佐見。
実は松井にほのかな恋心を抱いている先輩は突然の二人きりデートかと内心浮かれ気味だったのだが、そんなことは知らない松井は怒髪天。
落とし前をつけようと向かった友人のアパートへの道すがら、友人が何やら妖しげな都市伝説に関わっていると分かり……?

都市伝説ホラー×食い物の怨み=様子のおかしいホラークラッシュ!
そうはならんやろって? なっとるやろがい。

【登場人物】
松井孝まつい こう:主人公。健全なオタク。
宇佐見うさみ先輩:松井の学生寮のお隣さん。松井の事が気になっている。古代史オタク。
鳥居彼方とりい かなた:松井の漫研仲間で同級生。ゆるふわ系オカルトオタク。



鳥居彼方はオタクである。
オタクとはDIY宗教である、と彼方は定義する。
彼方の言う宗教とは、人生のなぐさめであることだ。魂の盾となり、精神の剣となることだ。
すなわち、心に自分だけの神さまを祀る民はすべからく何かしらのオタクなのである。
不謹慎?怨霊だって奉れば神仏だ。多神教国家の闇鍋上等精神を舐めるべからず。
では、そんな絶対的な神さまを持たない者はどうしたら良いのか。
「僕の考えた最高の神さま」を作ってしまえばいいじゃない。

 🐻🐻🐻

「やっぱり既読もつかないッスね」

駅の改札口を出てすぐ、鞄から取り出したスマホへ向けた顔をしかめ、松井孝は苦々しくため息をついた。
出入り口が一つしかない、各駅停車の普通電車しか止まらない辺鄙な駅。今となってはそれなりに見慣れた、友人が住むアパートの最寄り駅での一幕だ。
どうしたんだろうね、と本日何度目かも分からない困惑が隣から振ってきて、松井も首を傾げるしかない。

「急に家を空けられなくなった、なんて、体調不良ではないんだよね?」
「昨日までピンピンしてましたし、アイツならはっきり言うでしょ」

友人の鳥居彼方と、松井、そして二人の先輩である宇佐見。三人で出かける予定を立てたのが、二週間程前。以前から大学生らしく飲み会だったり、お互いの趣味に付き合う形での鑑賞であったりと付き合いは長いが、当日、それも理由が不鮮明な状況でのドタキャンは初めての事だった。

「なんか最近付き合い悪いッスね、あいつ」
「あーうん、まぁね。あはは……」

不自然に言い淀む宇佐見であったが、未だ憤慨している松井は気付かない。一回どつく、と剣呑な色をにじませる眼差しをこっそり見つめていると、年明けに鳥居から耳打ちされた言葉が蘇る。

ーーうさみん先輩、まっつんの事好きでしょ?

ゆるふわ系だの、オタクに優しいギャル(ギャルではない)だのと呼ばれる鳥居だが、案外観察眼に優れているタイプらしい。宇佐見自身でさえ「もしかして僕って松井くんの事好きなのでは……いやまさか、でも」と、自覚したかも怪しい時期での発言であった。

ーーなにそれ知らん、怖。

反射的にそんな返事をした宇佐見を指さしてケラケラ笑った鳥居は、確実に愉快犯の顔をしていた。
それからというもの、何かにつけては二人きりにしてくれたり、松井の好物をリークしてくれたりと、犯行協力は続いている。

(だからって、流石にスイーツビュッフェで男二人きりはキツいよ鳥居くん……)

今回もそういう意図であったのなら、気持ちは有難い。気持ちは。内心、まるでデートみたいだと浮かれたのも事実。
宇佐見も松井も甘いものは好きだ。まして、甘いものを口いっぱいに頬張って破顔する好きな子、なんて、約束された勝利ではないか。
だが、だとしても、正直な話。
かろうじて僅差ながら、どうしたって羞恥心が勝つ。
特に松井からしてみれば、一見ギャル男もどきな鳥居もいるグループでの来店であればまだ平気だろう、などとはしごを登らせた上での裏切りだ。
松井は激怒した。

「だいたいあいつ、最近ハマってるレトロゲームにのめり込み過ぎなんすよ。サークルもちょくちょく休むし」
「あれ、そうなんだ」
「あいつはオカ研も兼部してるんで元からいない日もありましたけど、そっちも顔出してないって」

松井と鳥居は漫研に所属している。

「ゲームっていうか立体パズルかな。見た目は丸いルービックキューブみたいって言ってました」
「ああ、レトロってそういう」

なんだ、と拍子抜ける気分だった。
別に、自分の為じゃなかったのか、と残念に思う筋合いなどないのだが。面白半分と分かっていても、案外振り回される応援されるのも嬉しかったらしい。
そんな、自身の胸の内を自覚して苦笑していた宇佐見に気付かず、松井の話も止まらない。

「なんか一部じゃ有名らしいッスよ。確かリンフォンとかって名前で」
「ーーえっ」

 🦅🦅🦅

リンフォン。
インターネットの掲示板から広まった都市伝説の一つ。またはその都市伝説に登場する、手のひらサイズの正二十面体のオブジェのような物体の名前である。
またの名を、地獄の門、濃縮された地獄。
熊や鷹の形に変形する立体パズルで、形を進めていくうちに様々な怪奇現象に見舞われるという代物だ。特に、最終形態だとされる魚を完成させた暁には、門が開いて地獄が溢れ出すのでは、という説が有力だとか。

「とっととと、鳥居くーん!?」

宇佐見は走った。
高校の体育祭以来の、全力ダッシュであった。
宇佐見は文学部の学生である。専攻は古代ローマをメインとした世界各地の神話や伝承。教授に推薦され、今春からは大学院へ進む事となった。
端的に申して、体力はナメクジレベル。

「大丈夫っすか?」
「あんまり……ウエッ」

学生向けの単身者用アパートである。エレベーターもないので、鳥居の住む三階まで駆け上がった時には、息も絶え絶え、満身創痍といった有様だった。

「え、そんなヤバいやつ?」
「マジモンだったら特級呪物」
「うえぇ……」

民俗学にも師事している宇佐見としては、都市伝説とは現代の伝承であり、迷信の類と軽視していい領域では断じてない。
まだ「魚の形にする前に手放せば助かる」とされるリンフォンだから良かったものの、一度手に触れただけ、一度目が合っただけでもアウトな、初見殺しなフェティッシュだって多いのだ。

(魚……まだ完成してない……よね?)

完成してしまったら、もはや一介の学生には同仕様もない。
急激に血の気が引いた脳みそが、警告音のように脈を打つ。手持ち無沙汰に突っ込んだ上着のポケットの中、入れっぱなしだった煙草の箱が乾いた音を立てる。

「先輩、」

松井の、どこか半信半疑でありながら真剣な、緊張感溢れる声が呼びかける。

「鍵、空いてます」

 🐟️🐟️🐟️

少し時間を遡る。
まぁるい『地獄』を握りしめ、鳥居彼方は考えたのだ。
ソフトボール程の球体を初めて手に取ったとき、鳥居はとある好奇心を抱いた。
熊、鷹、魚。地獄なんて大層な代物が、たった三つの定められた形に収まっていられるのだろうか。

ワンチャン、作れるんじゃないの、僕の考えた最高の神さま規定外の形

何せ鳥居の座右の銘は、「素晴らしきものは地獄から生まれる」。地獄への道は善意で舗装されているものだし、そもそも仏教において地獄道と人間道この世は同格だ。地獄から最高最強の神さまが爆誕したって不自然ではないはずだ。ないんじゃないかな。
そんなよく分からない天啓を得てからは、まさに無我夢中。人生最愛の神ゲームが十数年の時を経て完全新作続編を発売した時の如く、のめり込んだ。解釈や考察は十八番である。
例えば、オリジナル版の熊は大熊座を表している、という説がある。つまり子持ちの母熊。由来
となった神話では元人間なので、母なる者と言っても良いだろう。鷲はラテン語では「喜んで取る、受け入れる」という意味も併せ持つそうで、つまり受容性、包容力と受け取れる。そして最後に魚。母なる者で、受け入れる者で、魚。

「人魚でママ? ニッチかよ、最高」

不老不死を授ける存在と言っても過言ではない人魚。アマビエだって疫病退散の神さま(?)みたいな存在だし、良いじゃん人魚でママで女神様。ちょっと祟り神みもあって性癖に刺さる。実際に妖怪は「零落した多神教の神」説があるので、あながち的外れでもないと思う。
結果。熊はケモ度の高い擬人化マダムベア(妙齢のシングルマザー)となったし、鷹は、いやこれハーピーじゃん、マダムよりはケモナー上級者向けではなくなったけどハーピーじゃん。ぶっちゃけ、鳥でママっぽく見えなくもない、というこじつけだが、ハーピーは良いぞ。
最後の魚は神秘的でありながら母性を感じさせる幼妻ならぬ幼母、いわゆるバブみ溢れる人魚のおねえさん……と、なる予定であったが、これが中々難しい。背びれの流線がどうしても納得いく仕上がりにならない。人魚の曲線美やぞ?こんな凡庸さで妥協なぞ出来ると思うのか?
パズルを進める毎に発生するという怪奇現象こそ沈黙を貫いているが、リンフォンにも譲れぬ一線でもあるのだろうか。

ーーそうして、誰が為かの救いは訪れる。

「……!………………!」
「ーー、ーーーーー!」

なんだろう、地獄に声が届いた。
徹夜にも慣れている鳥居だが、この時はやけに五感がぼんやりとしていた。まるで水の中から見上げているみたいだった、とは後日談。水面越しかのように揺れる人影が、聞き慣れた声が、発する音が自分の名前だと気付くのに、少し時間がかかった。
戻ってきた音が、どこか生臭い海水のような匂いを伴い、手の中の『神さま』が質量を主張するように重くなる。

「鳥居くん」

確かに耳朶へ届いた声に顔を上げた。荒かった画像にピントが合うように、視線に入り込む二人の友人。
その片割れ、その手には、制汗スプレーと使い捨てライター。

「えっ」
「待って待って先輩、本当に待て」

にっこり。普段のおっとりとした温厚な笑顔のまま目だけが据わった、恐怖心が天元突破した人間特有の一次的狂気。そんな、一切の慈悲を感じさせない動作で、隣に立ったドン引きする想い人すら眼中にない様子で両手が掲げられ。
ーーカチ。着火スイッチの音が嫌に大きく響く。

「悪霊退散ー!」
「「ア゛ァー!!」」

 🔥🔥🔥

「二人とも、何か言い訳は?」
「古代から炎には浄化の力があると言われてて……もうこれしか勝たんと思って……」
「これ僕悪くなくない?」

若干焦げ臭いアパートの一室で、正座した二人の男子大学生と、その前で仁王立ちする大学生。
即席火炎放射器をぶっ放しても小火にもならなかったのだから、改めて異様な状況だったのだろうな、と肝が冷える。

「一緒に燃やされるのかと思ったよ、ウケる」
「受けてる場合か!」

手の上の地獄、鳥居の『神さま』ことリンフォンは、炭すら残らず燃え尽きた。炎を自ら飲み込むように受け入れたその姿は、子を思う母のような偉大さすら感じさせる最期だった。リンフォンさんはそろそろ泣いていい。
一方で、そんな状況を作り出しておきながら、どこまでもケロッとしているのが鳥居という男である。
後輩に叱られ、うなだれる宇佐見を指さしてケラケラ笑った鳥居は、確実に愉快犯の顔をしていた。
神さまなんていやしないクソゲーのような現実は、しかし時々、鳥居の考えた最高を軽々と超えていくのだから、たまらない。

「ホントうさみん先輩っておもしれー男」


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