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【noteでBL】胡蝶のまどろみ

今年もラストスパート、noteでBLの時間ですよ!

今月のテーマ:「激重感情仄暗不穏」「耽美」

【登場人物】
音羽総一郎:美貌の小学校教師。
八雲千鳥:音羽の同僚。音羽が大好き。
八雲青波:千鳥の双子の兄。弟を全力で応援する小説家。

以前、noteでBLや100字でBLで書かせて貰った人達です。時系列でいうと、これ↓のちょっと後。

今回は、音羽先生がお兄ちゃんに小説のモデルを頼まれるお話。
最初から最後まで音羽先生が女装しています。和服は色々隠せるから良いですね。

本文文字数は4,941字。今回は一万字までOKなので頑張ってみたけれど、色々と力尽きた感がすごい。


胡蝶のまどろみ

昏い朱色の長襦袢を肩にかけ、鏡台の中の娘が紅を指す。
少女とも少年とも受け取れる程痩せた身体で、小さく歌うような声が溶けていく。

鶴と鳳凰、松竹梅。貝桶、橘、熨斗目に御所の、今宵の蝶は一夜妻……

不意に、娘の動作が止まる。少女の、少年の、男の腕が白い首筋をなぞるように伸ばされそして。
何処かで火種の上がる音がした。

「おはようございます音羽さん」
「昨夜はよく眠れましたか」

雪見障子の向こうでは、薄暗い朝日が顔を出していた。
枕元から見下ろしてくるシンメトリーな二つの顔に、夢で見た少年か少女の成れの果てかなとぼんやり思う。

「音羽さん?夢の時間はもう終わりですよ?」
「一緒に朝ごはん食べましょうよー」

起きてくれなきゃ音羽さんを食べちゃいますよ。はしゃぐ恋人の台詞に、あれ、と思う。どっちが俺の恋人だっけ。
髪を撫でる手は悪戯に下腹を突付く手と爪の形まで同じで、寝ぼけ眼では区別が付け難い。

「音羽さん?」
『良かったら、今度書く小説のモデルになってくれませんか』

半月前の台詞が脳裏をよぎり、ああこっちがお兄さんか、とようやく目が醒めた心地がする。
音羽総一郎がそういう仲・・・・・である八雲千鳥の双子の兄、八雲青波に紹介されたのが二月前。
ようやく打ち解けて来たかな、という頃にされたお願いが思いの外嬉しくて、誘われるまま訪れたのが、この山間の僻地。
元は林業で細々と暮らしていた集落の成れの果てだという。
電気や水道など最低限のライフラインこそあるものの、昭和で時間が止まっていると言われても納得せざるを得ないような、陸の孤島という表現がぴったりの場所であった。電波があまりに悪いスマホも、充電すらせずに放ったらかしだ。

「なんだか不思議な夢を見ました」
「夢?」

しゅるりと寝間着が床に落ち、肩に掛けられた肌襦袢に腕を通す。
次に重ねる長襦袢を手に待機していた千鳥がこてんと首を傾げている。どうにも、この屋敷に来てからの千鳥は少しばかり動作が幼くなったように思えてならない。身内の前だからだろうか。

「こんな着物を着ている娘さんの夢ですよ、昨日の説明のせいでしょうか」
「おや、作家冥利につきますね」

慣れた手つきで着付けを施していた青波が微笑む。彼自身も藍色の着流し姿。隣の千鳥も同じ紬の袷であるが、こちらは襦袢の代わりに詰襟のシャツを着込んでいるようだ。

「さてさて、仕上げはどうしよう」
「女郎さんスタイルなら絢爛豪華な打掛と前結びの帯じゃないの」
「俎板帯と打掛は花魁級の高級遊女の専売特許だからね。“彼女”は新造か振袖新造……まだ見習いの立場だから、小袖を重ねるか初々しい振袖ってところかなぁ」

ああでもないこうでもないと、男の身である音羽を着飾る兄弟は真剣そのもの。取材と称した二泊三日、初日の昨日で鑑賞に対する羞恥など、もうとっくに麻痺している。自身の役割は着せ替え人形と早々に割り切った音羽には理解し難い、こだわりのすり合わせは続く。

「……振袖と言えば」

まどろむような、何処か舌っ足らずな声が出た。二対の腕がそれぞれ深紅と瑠璃の振袖を抱き留めたまま停止する。

「古典柄というのでしたっけ、紋様にも意味とかあるのでしょう」

鶴、鳳凰、松竹梅。貝桶、橘、熨斗目、御所車。
どれも晴れ着である振袖の意匠としてよく見かける吉祥の紋だ。

「ああ、そうですね。こと遊女の場合は花嫁衣装を模しているともされますし」
「花嫁衣装?」
「今夜だけはワタシが貴男のお嫁さん、ってこと?」

うえ、と苦虫を噛み潰したような顔になった千鳥の眉間を、青波の指が弾く。

「いじらしい胡蝶の夢じゃないか。未来の旦那に本当に見初められれば苦界から飛び立てるのだから、あながち夢物語でもないだろう」
「控えめにいって地獄だと思う」

お洒落に興味がない愛しい人を着飾る機会に関しては嬉々として便乗した千鳥であるが、青波の作風については好みが合わないらしい。

「胡蝶の夢……」

夢を見たのは音羽か、あの娘か。
だとしたらあの娘は、音羽に何を見たのだろう。
低血糖気味の視界がぐにゃりと歪みかけて、すかさず抱き留めてくれたのは誰の腕だったのか。

「先に朝食にしましょうか」

  🦋🦋🦋

「昨日も説明しましたが、まずこの小説の主役は女郎屋に売られた娘さんとそこの若い衆です」

白米と味噌汁。がんもどきと手綱蒟蒻の煮物に鱈の西京漬、小松菜のお浸し。
お新香まで付いた美しい朝の食卓を前に、青年作家は本日の予定でも告げるように語り出す。

「その若い衆は娘さんが逃げ出さないように見張りをしている役回りだけど、檻越しに日常会話を交わすくらいには打ち解けていきます」
「何度も言うけど、地獄にほのぼのパート挟むのやめない?」
「娘さんは器量良しだから、末は花魁も夢じゃないと目をかけられていて。若い衆も店主のお気に入りというか、養子に入って跡を継がないかって言われている」
「フラグか? なぁ、フラグだよな?」
「最終的にこの女郎屋は塵も残さず炎上します」「炎上(物理)!」

千鳥の突っ込みがその都度入るせいでコミカルに思えなくもないが、どう解釈しても悲恋もの。良くて、周囲の全てを巻き込んだ駆け落ち劇。
結局長襦袢の上に彼シャツならぬ彼羽織のままご相伴に授かった音羽も、改めて聞く悲劇の予感に渋い顔が隠せない。

「僕としてはメリバのつもりだけど」
「出たよメリバ」

メリーバッドエンド。愉快な不幸。
読者を含む第三者から見れば不幸な結末でも、本人達にとっては幸せだという究極の自己完結。
本当にお互いが了承済みなのか否かによっては、更に地獄が深まるとも言える。

「なるほど分からん。あ、音羽さん、ちょっと」

兄弟談義をよそに一足早く食事を終えた音羽に、千鳥の手が伸びた。4本の指が顎に添えられ、残った親指が濡れた唇をなぞる。

「ちゃんと拭わないと、唇が荒れちゃいますよ」
「紅をのせる前にリップクリームも塗っておきましょうか」

これをさも当然の行為とばかりに流すから、兄弟って凄いな……と、一人っ子の音羽に要らぬ偏見が育まれつつあった。こいつらが大概なだけだ、と事実を告げる者はこの場にいない。
軽くフリーズしているうちに保湿用のリップクリームまで塗りたくられる。甘い、バニラのような香り。

「これ、女性用ですか」
「全身女の子になってもらいますから」

軽く、リップが落ちない程度の口付けを最後に開放された。
何もなかったかのように食事を再開した双子も大概だが、この空気に適応しだした音羽だって大概だ。流されやすい男、音羽総一郎。

「美味いね、この魚」
「丁寧に下拵えしてるからね」
「……片付けてきます」

食器をまとめて席を立つ。
古民家ならではの間取りなのか、ダイニングとして使用している板の間からは一度廊下へ出ないと台所にはたどり着かない。
ひんやりとした薄暗い廊下を抜けた先にある台所も、元はかまどが置かれた土間の勝手場だったそうだが、不便過ぎるからとシステムキッチンにリフォームされている。
使い勝手は良いのだが、何と言ったらいいのか。某キュキュッと落ちる食器洗剤を手に、しばらく考える。

そう、違和感だ。

何かが根本的にちぐはぐで、どうにも屋敷全体との違和感が凄まじい。
洗い終わった食器を水切り籠に置き、一息つく。
作業前に一度脱いでいた羽織を肩に掛けると、ほのかに煙草の匂いが立ち込めて、どうにも落ち着かない。

「まな板の上の鯉……いや、注文の多い料理店の気分だな」

全身お好み通りに塗りたくられて作り替えられて、あとは美味しくいただかれるだけ。
ぞくりと背筋を這い寄る悪寒は、生存本能からくる恐怖だけではないのが厄介だ。花も実も成さぬこの身には不相応な生殖本能。

「……頭冷そう」

勝手口から外に出る。
趣味は園芸と語るだけあって、八雲邸の庭は見事なものだ。
椿や蝋梅、南天。花の盛りでこそないものの、こんもりと丸く茂った紫陽花の大株も可愛らしい。バランスよく配置された木々の根元には水仙や、音羽は知らない花であったが、コーヒーカップをひっくり返したような素朴な形の白や黒や黄色掛かった薄緑の花が植えられていた。
手水舎にも同じ植物の花の部分だけが浮かべられていて、お気に入りの花なのだろうかとぼんやりと思う。

ここに来てからぼんやりしてばっかりだ。

その気付きは花散らしの風に誘われ、実を成さないまま霧散する。考えてはいけない、と頭の何処かで警報が鳴り響く。気付かなければ、分からないままならば、

「音羽さん?」
「ーーっ!!」

不意に肩を掴まれ、咄嗟に振り払うように身を翻してしまった。
いつの間にか側にいたのは、鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情の青年が一人。藍色の紬のかっちりとした着流し、青波だ。

「えっと、青波さん?」
「中々戻られないので探しましたよ」
「すみません」

千鳥も心配していました、と微笑みながらまとう雰囲気はどこまでも優しげなのだが、勝手に気まずさを感じてしまうのはどうしてだろう。

「少しだけ見て戻るつもりでしたけど、そんなに時間が経っていましたか」
「ああ、庭の花ですか」

ふっと、笑顔に無邪気さが増す。

「はい、特にこの……」
「綺麗でしょう、初雪起こし……クリスマスローズと呼んだ方が分かりやすいかな」
「ああ、それなら聞いた事があります。受験の験担ぎに贈るとか」

なんでも、花びらに見える部分が実はガク片なので、“絶対に落ちない”のだとか。確か紫陽花も同じで、装飾花と呼ばれる部分らしい。

「本来はクリスマス頃に咲く原種だけをこう言うのだけど、日本だと春先まで咲く改良種もまとめてクリスマスローズと呼んでいるね」
「へぇ……」

音羽自身は花の名前など、チューリップやパンジーといった誰もが知っているようなものしか分からない。人並みに綺麗だとは思うのだが、それだけ。それ以上の興味が無いのだ。
青波の解説はまだ続く。

「色も形も多種多様でね。僕は素朴なシングル咲きが好きだけど、まさに薔薇のようなダブル咲きもお勧め」

ひょいとしゃがみ込み、うつむき加減に咲く黄色掛かった薄緑の花を手折った青波がまた微笑う。

「学名のヘレボルスは“殺す植物”という意味。毒にも薬にもなる祝福の花だよ」

ふっと、柑橘類のような香りが鼻をついた。
ぽてっとした花びら、否、ガク片が音羽の唇に押し付けられる。
まるで口紅でも塗りたくるように左右へ撫でつけられ、始まりと同じくらい唐突に離され。
ぐにゃりと歪んだ視界を知らない腕が抱き留める。

(知らない、知ってる同じ、違う、違う腕、違う人ーー千鳥さんじゃないひと)

ズルズルと崩れ落ち、膝にすがりつくような体勢になる。どうして、なんで、と意味を成さない言葉が混乱に拍車をかけるが、青波の微笑みは変わらない。
手首を掴まれ、花でも手折るように近づいた相貌は仮面でも被っているかのように無機質だ。

「ーーや、」

男の腕が白い首筋をなぞるように伸ばされそして。

「音羽さーん? 兄さーん?」

不意に聞こえた声に肩がはねる。
とっさに乱れた胸元を隠すように襟口を掴んだのは無意識で。そんな音羽の動作を揶揄するように小さく笑った青波も、何事も無かったように立ち上がる。

「立てますか?」

まるで幼子を見つめる母のような、慈愛にすら見える笑顔を浮かべて青波は手を差し伸べる。
つい先程までの背徳めいた雰囲気など霧散したかのようで、罪悪感もなくさも普通の事だと言わんばかりの態度。

(……罪悪感?)

「あ、いたいた。もう探しましたよ。兄さんも見つけたなら早く連れて戻ってきてよ」
「ごめんごめん」
「ほら音羽さんも……音羽さん?」

音羽は考える。
何かが根本的にちぐはぐで、どうにも全体との違和感が凄まじい。
そう、違和感だ。
俺たちの関係に、罪悪感を感じる必要性などあっただろうか。

「……ここに来てから、忘れていた事があります」

音羽を映す二対の瞳ーー泣き出しそうな愉快そうな剣呑なような無邪気なような残酷で優しいその色に、いつかの警報が鳴り響く。
気付かなければ、分からないままならば、蛹の中で眠る胡蝶のように夢を見ていられる。
思い出してしまえば、まどろみの世界にはもう居られない。
それでも起きるの、と昏い朱色の長襦袢に笑われた気がしたけれども。

「俺に恋人なんていましたっけ」

胡蝶の夢は、これにて終い。



注意事項

クリスマスローズには精神安定作用や強心作用もありますが、非常に毒性が強く、誤って摂取すると嘔吐やめまい、意識障害や意識混濁を含む深刻な中毒症状、最悪の場合心肺停止を引き起こす可能性があります。

あくまで観賞用として愛でましょうこのお話はフィクションです

ついでに柑橘系の香りがするのは原種のごく一部だとか。なんだかんだ十年以上育てているけど、出会ったこと無いタイプ。


蛇足というあとがき(雰囲気ぶち壊していくスタイル)


答え合わせは要りますか?







ヒント:前作『ピグマリオンの夢を見る』の二人は「君が好き」「付き合ってください」という意味の言葉は一切口にしていません。







体の関係はあるけど、恋人になったとは考えてもいない音羽さん + 既に恋人としてお付き合いしてると思っていたのにセフレ扱いだった千鳥くん ✕ メリバも大好きお兄ちゃん =??

 監 禁 洗 脳 コ ン ボ ご 案 内

100字でBLの方で「なんやかんやあって一度は別れる」と軽く書いてた部分が、こんな犯罪まがいな展開になるなんて誰が思う? 少なくとも私は思ってなかった。(待てこら作者)
違うんだ……うっかり耽美に全力そそぎ過ぎて、激重感情も仄暗も不穏も空気になりかけたから、どんでん返しでぶっ込んだろーって思いついちゃっただけなんだ。

もー耽美も不穏も難しいっすよーギブギブ〜!
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたのならありがとうございました!


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