【noteでBL】とりあえず、ルマンド
今月もイカしたやつだぜ、noteでBL。
【お題】
「ルマンド」「初雪と一目惚れ」
「シングルベットの組み立て推奨人数が2人だった」
【登場人物】
鳴海遥
23歳、市立図書館勤務。
早坂理央
15歳、中学三年生。
こちらの作品↓で登場した二人の出会い編です。
なお、鳴海くんがモブ彼氏(前作に出てきた音羽くんとも別の人)に振られる描写から始まります。
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短い秋が通り過ぎた冬の始まり、鳴海遥は引っ越しをした。
職場である市立図書館と最寄り駅のほぼ中間にある、三階建木造アパートの二階角部屋。
こんな中途半端な時期に引っ越しなんて、理由は単純。
恋人に振られた。
付き合い初めて二年、同棲して一年目のことである。
『ごめん、やっぱり俺は女の子が良い』
どれだけ想い合っていても、どうしようもないところで終わってしまった恋だった。
「いやね、多様性とか、結婚や家族を成す事だけが幸せじゃないとか言うけど、それだって誰かに取っては価値観の押し付けになりかねないからね。仕方ないと思うし納得してるよ」
嘘偽りない自分自身を押し通す方が息苦しい人間だっているのだと、賢い鳴海は知っている。良いとか悪いとかではなく、“そういうもの”なのだ。
「だから良いんだ。理解もしてる。してるけどさ」
聞き分けの良い恋人として、切なくも最高の笑顔で別れたこのいじらしさに、神様はちょっとくらい同情してくれたってバチは当たらないと思うのだけど。
そんな恨み節とも取れる独白の目下には、やけに大きな段ボール。中身は本日届いたばかりのシングルベッド。スチール製のシンプルなデザインが気に入って注文した品だが、うっかりしていた事実が一つ。
『組立推奨人数:二人』
シンプルに辛い。鳴海の心象はこれに尽きる。
「ヒロくんに頼もうかなぁ……」
腐れ縁の友人であれば、厳しくも温かい慰めの一言くらいは掛けてくれるかもしれない。だめだ、たぶん泣いちゃう。組立作業どころじゃない。
未だカーテンもない窓に映った、見慣れた自分の顔もかつて無い程の憐憫さを背負っている。朝から降り止まない今年最初の雪空に浮かんだ灰色の顔。
タレ目のせいかポンコツたぬき、なんてあだ名をつけられた時期もある、悲劇なんて似合わない呑気な顔である。
「……とりあえず段ボール開けよ」
とりあえず、は良くない口癖だと指摘された事もあったなぁ。カッター片手にぼんやり思い出すのも、かつての恋人の言葉だ。
とりあえず、は思考停止と先送りの言葉だから、と彼は続けた。成るように成るという楽観性の表れでもあり、運命論者のような一種の諦めでもある、と。理屈っぽい男であった。そういうちょっと面倒な性格も好きだった。
「まだ過去形には出来ないけどさ」
そんな呟きとほぼ同時に、湿った落下音と甲高い悲鳴が響き渡った。
「ぎにゃあああああっ!」
「!?」
物思いに沈んでいた鳴海は、文字通り飛び上がった。反射的に放り投げたカッターは段ボールに刺さった。
「え、何、誰、誰か落ちた?」
おそらく悲鳴の発生源だろう自室の外、アパートの共同階段へ向かう。上着も羽織らず飛び出してしまったが、そのまま一階と二階の中間にある踊り場まで駆け下りた。
案の定、床に平伏す雪まみれの人影が視線に入り、はっとする。
「大丈夫ですか!?」
「っあー……はい」
いや大丈夫じゃないだろう。
変声期途中らしき声が答えるも、未だに姿勢は伏したまま。いわゆるヤムチャポーズ、と言ったら分かりやすいだろうか。
「どこか痛みます? 頭打ってませんか? 身体触れますよ?」
近所でよく見かける学生服の肩ごしに触れた身体にけいれんや出血は無さそうだが、素人判断は禁物だ。救急車って119だっけ?
「いや本当、大丈夫なんで……」
ようやく上げた顔が赤いのは、羞恥のせいか寒さのせいか。
可愛い子だな、というのが率直な感想。
ぽかんと見開いた目が吸い込まれそうなくらい大きくて、赤面していても分かるレベルで色素が薄い。ハーフかクウォーターかもしれない。あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ。
「……雪に滑っただけで、尻打った程度なんで」
「そ、そう?」
内心慌てた鳴海だったが、少しばかり棒読みだったが流暢な日本語が返ってきて事無きを得た。
鳴海の手を借りはしたがしっかりとした足取りで立ち上がるのを見て、ようやく安堵の息も漏れる。
「あ、荷物大丈夫? こっちの鞄だけ?」
「えーと……あ゛っ」
「え、どうしたの、どこか壊れてた?」
美少年には似つかわしくない汚い半濁音後、しばらく沈黙。今更取り繕っても仕方ないだろうに。
「……鍵がない」
絶望を擬人化したら、こんな顔をしているのだろうか。
ちょっと笑ってしまった鳴海は、その笑顔を凝視する少年に、思考停止と先送りを提案しようと口を開いた。
「とりあえず、うち来る?」
少年は、同じアパートの上の階に住む中学生で、早坂理央と名乗った。
「すみません、着替えにコーヒーまで」
フローリングの床に座布団直置きのリビングと、そこに散らばる大小いくつかの段ボール。
殺風景な部屋で、自分のスウェットを着た初対面の子どもとお茶する機会などもう訪れないだろうなぁ、とぼんやり思う。招いておいて何だが、ちょっと気恥ずかしい。
「どういたしまして。惰性で買っちゃったお菓子だから、むしろ食べてくれたら助かるよ」
実は鳴海はブルボンより不二家派なのだが、元カレが好むので常備するようになった菓子類である。習慣というのは難儀なものらしい。
ちら、と少年の姿勢が部屋の段ボールに向けられ、刺さったままのカッターに動きが止まる。
「えーと、荷解き中でした?」
「あはは、そうなんだけどね」
どうにも世間というものは、独り身には手厳しいらしい。知らず遠い目になる鳴海は、罠にかかって「もう駄目です……」と全てを諦めたたぬきのような、なんとも物悲しい雰囲気を醸し出していた。
「お手伝いしましょうか」
「え?」
「お礼と言うのもなんですが、組み立て」
捨てる神あれば拾う神あり。たぬきよ生きろ。
「初対面の相手に寝具触られるのが嫌なら全然断ってもらっていいですけど」
「や、それは構わないし有り難いけど……じゃあ、えっと、お願いします?」
「なんで疑問形?」
笑うとまだ子どもだなぁ、なんて思いながら、初めての共同作業は始まった。
「えーと、まず柱に固定する金具を……」
「高さ調整出来るみたいですけど、どうします?」
「そっち抑えててね。でネジをとめ……たら余るんだけど?予備?」
ちなみにベッドの組み立て作業、人数やベッドサイズ等でも変わるが、おおよそ1時間が目安らしい。
ああだこうだと1時間。終盤には気も緩んだのか、単純に慣れない作業で疲れが出たのか、口も滑る。
「引っ越し前はベッド使ってなかったんですか」
「んー、前はダブルサイズだったからもう要らないかなぁって」
「ああ成る程」
言ってから、余計なことを言ったと気付いたが、後の祭り。
「……成る程?」
「大人にだって色々あるんですー」
多感な中学生がちょっと困惑してるのも居た堪れない。
言い訳のように告げたが、我ながら本質を付いた台詞だとぼんやり思う。
鳴海だって、別に嫌いで別れた訳ではないのだ。
只々、将来性も生産性もない、“こうありたい”から逸脱してしまった関係に耐えられなくなった気持ちも理解出来てしまっただけなのだ。
「つまり今現在はフリーと」
「うん?」
ぼんやりしていて、ちょっとした違和感をスルーしかけた鳴海であった。
「それってどういう意図……」
「あ、それで最後ですね。完成しました」
しかしタイミングが悪かった。
スチール製のシンプルな、どんな部屋にでも合いそうなシングルベッド。
「たぶんこれで大丈夫だと思いますけど、実際使ってみて変なとこあるなら調整しましょう。近いうちに見に来ても良いですか?」
自然に当然とばかりに告げられた次の約束に、可愛らしい顔をまじまじと見つめてしまった鳴海は悪くない。可愛らしいと言っても男の子の顔。何故だかそんな感想が頭をよぎる。
そんな成長期の少年が、途端に捨て犬のような「だめなの?ボク可愛いのに?」とばかりの眼差しを向けてくるものだから、笑って出たのはいつもの口癖。
「とりあえずルマンドでも用意しておくね」
ーーそんな会話を経て別れた後日。
改めてお礼の菓子折りを持って訪れた、未だカーテンすらない部屋を見て憤慨した理央に近所のニトリまで連行されるのだが、それはまたのお話。
以上、本文3230字。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
ちなみにこれの理央くん視点がこれ↓
一目惚れを“される側”視点で書いちゃったので分かり辛くなっちゃったのが残念ポイント😞
