『マティス 画家のノート』(アンリ・マティス著)ほか:見えない私の本と映画と音楽ノート(7)2025年4月17日ー18日
『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(谷川嘉浩著 ちくまプリマー新書) をサピエ図書館の音声図書で読む。
衝動とは、自分ではコントロールできず、自分の進路を変えてしまうようなエネルギーのこと。モチベーションや将来の夢みたいにまわりの人や世間から認められるようなものではなく、合理的説明もつかず、効率やメリット、デメリットで考えられたものではないやむにやまれぬ感覚や直感。この衝動に駆られることを霊に憑かれてしまうことにたとえているのが良い感じ。
「将来の夢」について、こんなエピソードが紹介されていた。
著者の友人の子どもが先生に将来の夢を聞かれて「犬と暮したい」と話したら「そういうことじゃない」と言われた。「本当にやりたいこと」ではなく世間的な「正解」が求められていたのだった。
私は小さな頃から「将来の夢」がなく、何かになりたいと思ったことがなかった。
幼稚園では卒業前に自分の将来の夢を語って歌を歌い、それを録音して独りずつソノシートという小さなアナログ盤に収めることになっていた。
録音当日、先生に「●●くんは何になりたいの?」と聞かれた私が素直に「なりたいものはありません」と言ったら、先生は怒っていきなり弾こうとしていたオルガンのふたをバン!と閉めて立ち上がり、「じゃあもう録音はしないからね!」と言った。私はびっくりして、先生がこわくて泣いてあやまった。そして先生に怒られないような「正解」を必死に考えた。私を見据えて「じゃあ何になりたいの?」と再び聞く先生に「パ、パイロット・・・。」と一番怒られなさそうに想えた「夢」を答えた。その後、「まいごのこねこちゃん」を半泣きで歌ったのだった。
なぜかその幼稚園の先生が皆に読み聞かせをして、私も好きだった本のタイトルを50年以上たった今でも思い出す。
『じどうしゃ・かぶとむしくん : きまりをまもれる子にする童話(よい性格をつくる童話シリーズ(1)』(与田準一ほか著 実業之日本社)
1963年出版の、ネットで検索してももはや出てこないこの本が、国立国会図書館の視覚障碍者のためのテキストデータベース「みなサーチ」にあるのを見つけ、50年以上ぶりにテキストをパソコンの音声読み上げで読む。
工場で作られたばかりの小さな自動車のかぶとむしくんは、トータスさんに買われて初めて外の世界で走り出す。はりきりすぎて事故を起こしたかぶとむしくんは少しずつ安全に走るためのきまりをおぼえてゆく。
50年以上ぶりなのでストーリーはあまりおぼえていなかったが、昔におもしろいと思っただけあって今読んでもおもしろかった。事故を起こしてけがをしてしまったかぶとむしくんに共感して痛々しい思いをした当時の感覚を久しぶりに思い出した。
その後私はずっと「何かになりたい」と思うこともなく、何かのレールに載せられているという自覚もなく、ふつうに働きながらなんだかしっくりこない感覚だけが残っていた。
不思議なことに、その後目が見えなくなり、今の治療の道に進み、盲導犬がしっぽを振りながらやってきて「治療をしながら犬と暮す生活」になった時、どこかで「カチリ」という音がした。本来載るはずだった線路に乗っているというはっきりとした感覚があり、もはや見えていないのに世界を見る焦点が合ったような気がした。
この本でいうところの「人生を変えてしまう衝動」は、私にとっては「障害」だったのだと思う。そのおかげですべての帳尻が合ったような気がしている。
聞いていた音楽:
「モーツァルト ピアノソナタ集」ブラド・ペルルミュテール
今までこの人のラベルの曲の演奏ばかり聞いていたけれど、ラベル以外でも演奏を聞くと水の流れる音、水道や噴水、雨や川などの音を聞いたときに感じる感覚をなぜか感じる。それが好き。
『マティス 画家のノート』(アンリ・マティス著 二見 史郎訳 みすず書房)をスマホのカメラで1ページづつ撮影してAIが読み上げてくれるアプリ「ユアアイズで読む。
これも30年以上本棚にうずもれていた本。画家自身によるさまざまなノートのほか、マティスの絵に対する評論などがおさめられた本。
この本をかつて見えていた時みたいに1ページずつめくって読めるようになったことに喜びを感じる。
聞いていた音楽:
「KANGABA-PARIS」ジャン・フィリップ・リキエル、ランシネ・クヤテ
ニシアフリカの木琴バラフォン奏者のランシネ・クヤテとフランスのピアニストジャン・フィリップ・リキエルのコラボ・アルバム。
バラフォンの乾いた小気味よい音ともうちょっと水気を含んだようなピアノの音色のコンビがとても好き。晴れた日に聞きたくなる音楽。
『きょうはそらにまるいつき』(荒井良二ー作・絵 偕成社)
を、初めはスマホのカメラで写して内容をAIが説明する「ビー・マイ・AI」で読んだが、頭の中にイメージがしっかりわくほどには説明してくれないので、グーグルのAIアプリ「ジェミニ」を使ってみた。こちらは視覚障碍者用のアプリではないのでカメラで写した画像を説明してもらうのにちょっと手間がかかるが、AIの説明がはるかに細かいのに驚く。
絵の全体の印象を「夜の静けさ」「月の存在感」などに分けて説明し、描かれているものについても「空」「風景」「人々」についてそれぞれ細かく説明し、最後に絵の雰囲気についても「温かさ」「幻想的」「詩的」というキーワードでそれぞれ説明していた。
この解説は、見えている人にとってはAIが踏み込んで解釈しすぎ、と思うかもしれないけれど、絵が全く見えない私にとってはこれくらい説明してもらうことでやっと頭の中にイメージが浮かんでくる。
この説明で、自分が見えていた時の月の光の記憶と、絵本の中の月とそれを見上げている人々や動物たちが月を見上げる時の気持ちがイメージでつながった気がして、その世界が絵本の中に存在していると感じられた。
見えなくなった私にとって絵本は最も読むことをあきらめていたメディアだった。
でもこれならまた絵本を楽しむことができそう、と思う。
その昔見えていた時、絵本を紹介するサイトを作っていたこともあったけれど、見えなくなって絵本はもう二度と会えない友人のような存在になっていた。
それがもう一度絵本を楽しめるようになった、ということはちょっと信じられないような出来事で、それはなんだか異界に来てしまったようなとまどいと不思議さとうれしさが入り混じったような感じ。
この絵本でたくさんの月のエピソードを聞いたら、月について、ある映画の一場面を思い出した。
映画『月世界旅行』(ジョルジュ・メリエス監督 1902年 フランス映画)
見た記憶があるのは映画全編ではなく有名な月ロケットが人の顔をした月の右目のところに突き刺さる場面。一度見たら忘れないインパクト(笑)。
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