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表現する言葉と立証する言葉

 五月はnoteの更新にこだわらず、この穏やかな気候を目一杯楽しもうと思い、物語を書いたり、読んだりして過ごしていた。が、思うところがあって「やはり随筆を」と筆をとったその晩、何の前触れもなく、突如、時季外れの風邪をひいてしまい、ここ数日間ふせっていた。
 書きかけのままになった原稿は「言葉」のこと、「表現」についての随筆だった。


 文章を書き始めたころから、ずっと継続して私の中にあるのが、いわゆる言論的な言葉や文章への疑いで、最近は、その疑いがますます強い。
 それは、私がこれまで感動してきたものが、大地から離れて語られる言葉ではなく、一個人の表現の言葉、随筆であり、物語であり、詩であったから、というところにある。

 それらは、私をただ思考のうちに捕まえて頭を悩ませたり、論の中で窮屈にしたりする言葉ではなく、その人の心の躍動や生命から表現された言葉、理屈ではなく、まず感動を与えてくれるものだった。物語、ロックンロール、旅…思えば私は昔も今もずっとそんな世界に憧れている。
 私が随筆にこだわるのも、それが言説や論ではなく、ひとえに筆に随っての表現だからだ。

 考えることは大切だが、ただ単に言葉を複雑にしたり、定義したり、難解にしたりして、頭を抱えさせることを、考えることと間違っていはしないか。考えることが、そこにもともと”ある”ものを無視することになりかわっていはしないか。

 たとえば、スローガンの如く打ち出された「自由」や「平和」。それは本当に良い言葉なのか、穏やかなものなのか。打ち出された言葉の余白では、常に不自由が同居し続け、止むことのない戦争状態が続いている。
 自由や平和、それらはまるで、ここにはないものとして扱われ、ここにはないものだからこそ、あえて言葉にされ、求められるのだと思う。しかし、それらの言葉が、真に世に与えているのは「それらがない現状、不自由と戦争」という暗いイメージである。言葉ではなく、余白に潜んでいるイメージは否応無しに、自由で平穏な生をも取り込み、覆い尽くしていく。自由や平和を語り続けるための不自由と戦争を、知らず知らずのうちに、求めていはしないか。

 現実に感じたことを表現する言葉よりも、考え方の正しさを立証しようと、強く打ち出された言葉は往々にして、この瞬間、日常から人々の目を閉ざし、頭の中の世界へと人々を引きずり込んでしまう。
 そこに私は言葉を使った巧みな支配、自由や平和とは程遠いものを感じる。

 自由や平和など、一般に左派的ととられる言葉ばかりを例にとったけれど、このことは右派にしても保守にしても同じことだ。
 言論によって現実から目を背けさせ、その上に論を組み立て、自分達の持って行きたいような考え方や計画へと、世論を靡かせるならば、どちらも論や立証の言葉を使った、革新的な暮らしの破壊者にほかならない。
 暮らしから生まれる表現ではなく、暮らしに対して何かを立証していくような言葉ばかりが、世を覆い尽くしていく。
 それは、結局、言葉の広さや混沌を嫌い、四角四面を好むやり方で、そうでなければ言葉と言うものを扱い切れない、ということにほかならない。立証の言葉を目にするたび、そして、自分ががそのような考え方にとらわれてしまうとき、私は虚しくなる。個々の好みや空想、思索や想像に立脚できないそのようなもの…

 立証ではなく、その人のふとした気づきこそが、私には言論さえ含む、一つの表現として、生活にも良い響きを与えてくれる。そして私も、そのような言葉を紡いでいたい。

 私にとって、表現とは日々の些細な気づき、ひらめき、思いつきを筆に乗せて、表してみるという、それだけのことである。表現は、みんなにとって正しいことではなく、自分の見た景色であり、気づきであり、疑問であり、思いであって、決して一般的なものを立証することではない。
 そんなことは、大勢が分かりきっていることのはずなのに、いつしか表現する人も観る人も、一様の正しさを求めて、表現物が正しさを立証するものでなければならないような空気にのみ込まれてしまっているような感じがする。

 日々の暮らしから生まれる「表現する言葉」を、「立証の言葉」に奪われてなるもんか。

 そんなことをときどき考えながら、心地よい五月の風に、私は随筆を書いたり、物語を作ったりしている。一時は物語を作るのは自分のしたいことではない、と思っていたこともあったけれど、最近は物語の登場人物たちの生き生きとした姿、表現に目の覚めるような思いがする。彼らはどうしてこんなにも雄弁に、生き生きと、あらゆることを表現してくれるのだろう。
 そこに、物語という空想の、けれども、私の随筆よりも遥かに雄弁な表現があるおかげで、私は「表現」を見失わずに、感じること、考えること、筆をとることができる。


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