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女性研究者の支援は何を犠牲にするのか

消えていく女性研究者たち

研究の世界で女性がどれだけ生き残れるかを追跡した調査は、国内外を問わずほぼ同じ像を描き出す。海外の追跡調査では、STEM分野に進んだ女性の半数以上が30代前半までに研究職を離れ、その理由として最も多く挙げられるのは仕事と家庭の両立の困難だとされる。妊娠・出産のタイミングと、キャリアの基盤を固めなければならない時期が重なることが、女性にとって特に厳しい選択を強いる構造になっている。

日本の状況はさらに際立っている。総務省の統計によれば、2025年3月末時点での日本の女性研究者比率は19%にとどまり、欧米の30%超えと比べて大きく見劣りする。男女共同参画学協会連絡会などが継続的に行ってきた実態調査でも、女性が研究現場を離れる理由として、出産・育児など家庭との両立の困難が一貫して上位に挙げられてきた。能力や意欲の問題ではなく、時間という資源をどう配分するかという、きわめて具体的な制約が離職を引き起こしている。

この事実を踏まえれば、女性研究者のライフスタイルの変化に合わせた支援体制の整備が急務であることに、異論の余地はない。研究時間の確保が難しくなる時期を制度的に支える仕組みがなければ、優秀な人材が構造的に押し出され続けることになる。


この制度は、その女性研究者を守れるのか

文部科学省は2027年度の概算要求に、女性研究者を支援する体制整備のための予算を盛り込む方向で調整している。全国の国公私立大学のうち10〜15校を対象に、1大学あたり年間最大5000万円、最長5年間の補助金を交付し、実験や事務作業を補助する仕組みの導入を促すという内容だ。出産・育児と研究を両立できるよう、実験補助員の雇用や事務作業の外部発注を通じて研究者の負担を軽減する狙いがある。

ここでまず確認すべきなのは、この制度が「研究者支援」と呼ぶとき、支援の対象として定義されているのが誰かということだ。過去の同種の制度の運用を見ると、支援を受けられるのは教授・准教授・講師・助教といった研究教育職員、特任教員・特任研究員、あるいは日本学術振興会特別研究員――つまり、すでに正規または準正規のトラックに乗っている人材に限られている。まだそこに乗れていない、あるいは一度外れた人材は、この制度における「支援されるべき研究者」というカテゴリにそもそも含まれていない。

加えて、この支援は大学の基盤的経費(運営費交付金)の拡充ではなく、時限付きの競争的資金によって行われる。恒久的なポストを新設する財源が大学側にない以上、政策として選び取れる手段は「時限付きの周辺ポストを増やす」ことに限られる。5年という期限は、労働契約法の無期転換ルールを回避するための設計ではない(研究開発補助者にはすでに10年の特例が適用されている)。単純に、補助金という財源そのものが5年で切れるからだ。

守られる側は、どうやって守られているのか

ここで一つ、見落とされがちな問いを立てる必要がある。出産・育児期にある女性研究者の研究が「継続」できるとして、その研究を実際に前に進めているのは誰なのか。

答えは明快で、実験補助員として配置される人材――多くの場合、学部生や大学院生――が、その研究の進捗を代行しているという事実だ。文献検索、データ整理・入力、実験補助といった業務は、単なる雑務ではなく、研究そのものを構成する作業である。つまりこの制度は、女性研究者本人の研究時間を守っているのではなく、代行者に研究を代わりに進めさせることによって、研究成果の産出を維持しているのに近い。

この「代行」という言葉には、見過ごせない含意がある。特許法における発明者の認定基準を考えるとわかりやすい。単に指示された通りにデータをまとめたり実験を実施したりしただけの者は、法律上「単なる補助者」とされ、発明者としての権利を持たない。論文の著者資格についても、実験補助者は謝辞の対象にとどまるのが通例であり、共著者として扱われることは少ない。つまり「代行」である以上、代行者の貢献は、それがどれほど研究の完成に寄与していたとしても、制度的にはほとんど評価の対象にならない仕組みになっている。

犠牲になるのは誰か

問題はここからさらに一段深くなる。代行者として動員される学部生・大学院生の多くは、指導教員自身の研究室に所属している。つまり、支援を必要とする女性研究者と、支援員として雇われる学生の関係は、しばしば指導教員と教え子の関係と一致する。

このとき何が起きるか。第一に、学生が支援業務に費やす時間は、彼ら自身の卒業論文や博士論文のための研究時間から削られる。制度上定められた勤務時間の上限は週20時間程度で、一般的なティーチングアシスタント業務の上限より緩く設定されている。第二に、指導教員の業務を手伝う中で得られた知見や進めた実験が、学生自身の研究テーマとしてではなく、指導教員の研究として扱われる可能性がある。指導教員と雇用主が同一人物である以上、学生の側に「これは自分の貢献だ」と主張する交渉力はほとんど残されていない。

この学生たちが、支援業務に費やした年月の後で、自分自身の研究業績を十分に積めていなかったとしたら、どうなるか。ポスドクや任期付きポストの公募は、業績の連続性によって評価される。研究時間を他人の研究に振り向けた分だけ、自分自身のキャリアの土台は薄くなる。しかもこの制度には、支援員として動員された学生のその後の学位取得状況やキャリアの帰結を追跡する評価の枠組みが見当たらない。何が犠牲になっているのかを測る仕組み自体が、制度の外側に置かれている。

結びに

女性研究者の離職率を下げることは、日本の科学技術政策にとって喫緊の課題である。この点に疑いはない。しかし、その課題への対処が、既存の資源配分を変えないまま、まだキャリアの土台を持たない若手――多くの場合、同じく女性である学生や大学院生――の時間を切り出すことによって行われているのだとすれば、それは問題の解決ではなく、問題の場所を移動させているにすぎない。

一人の女性研究者が研究現場に留まり続けられることと、その代わりに誰かが自分自身のキャリアを諦めることになるかもしれないという事実は、本来切り離して評価されるべきではない。私たちは、女性研究者支援の必要性を確認するのと同じ強さで、その支援が誰の時間と引き換えに成り立っているのかを、自覚しなければならない。

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大橋淳史 いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育