ストラスブールの記憶から
ストラスブールはフランスで唯一行ったことのある街です。2003年と2010年の2回出かけています。記憶には鮮明に残っています。
かつての「ドイツ日記」を紐解いてみたのですが、どちらもストラスブールの記述はほとんどありませんでした。
でも、その印象は強く残っています。ライン川を渡ってドイツからフランスへ。パーク&ライドと格好いいトラム、水辺の街。
2003年1月 市民参加手法の調査
最初の訪問は、2003年に名古屋で循環型社会に関する参加型会議の社会実験を行うにあたり、市民参加の技法を調査する出張の一環でした(水野ら, 2003)。プロジェクト統括の柳下正治氏(名古屋大学環境学研究科教授、当時)、加藤三郎氏・藤村コノヱ氏(NPO法人『環境文明21』)、デンマーク技術委員会(DBT)、前田洋枝氏(現・南山大学教授)らで、デンマーク技術委員会(DBT)、およびドイツ・シュツットガルト大学社会学部のRenn教授へのインタビュー調査がメインでした。コペンハーゲン、ハンブルク、ミュンスター、シュツットガルトを巡り、その最終宿泊地がストラスブールでした。




2010年6月 市民参加の事例調査から人間環境会議(IAPS)へ
2回目の訪問は、ドイツ・ライプツィヒで開催された人間環境会議(IAPS)への参加・発表に合わせ、私の指導教員でもあった広瀬幸雄先生、大沼進氏と出かけました。
科研の調査の一環として、EUにおける環境関連の係争的事例における市民参加が活用された事例の調査を2008年12月に行なっており、そのフォローアップとしてドイツのノイス市の路面電車の存続・移設の事例、シュツットガルト中央駅の駅舎改装と地下化の事例、さらにカールスルーエ市の路面電車地下化の事例のその後も見てまわっていました。
そのカールスルーエを拠点に、日帰りでストラスブールまで足を伸ばして交通政策の視察を行いました。



対照的な2つの訪問
最初の2003年の訪問は、柳下正治先生が統括された、欧州での最初の市民参加に関する調査として北欧を起点とする厳冬期の長旅の最後、加藤三郎氏・藤村コノヱ氏らとの、その時点の総括の場でした。
それに対して、2度目の2010年の訪問は、広瀬幸雄先生の科研プロジェクトによる一連の調査の道中でした。振り返れば、私が初めてドイツを訪れた2002年も、広瀬先生、大沼さんとの3人旅でした。オランダのアイントホーフェン工科大学でケース・ミヅン教授を訪問した後、ドイツに入り、最初に訪れた都市がカールスルーエでした。
広瀬先生、大沼さんとは、その後もドイツでご一緒する機会がありました。しかし、この3人だけで各地を回ったのは、2002年の私にとって最初のドイツ訪問と、ストラスブールを含む2010年の調査および学会参加でした。
FIFAワールドカップ南アフリカ大会の開催期間中のドイツ訪問、2008年12月での調査のフォローアップを含む、ノイス市の路面電車の単線化の確認、シュツットガルト中央駅のその後、カールスルーエの路面電車の地下化工事の確認。
このように、2度目のストラスブール訪問は、私が初めてドイツを訪れた際の最初の都市、カールスルーエからの日帰り訪問でした。
ストラスブールからカールスルーエに戻って夕食に入ったレストランは、偶然にも、ドイツを最初に訪れた2002年に入ったお店であったことに、その時に気づきました。南山大学で環境政策の公募が出ているよ!といったことが話題になったのも鮮明に憶えています。
ライプツィヒで発表した「ステークホルダーズ:循環型社会編」
2度目のストラスブールの訪問を終え、向かったのが2つ目の目的であるIAPS(International Association for People-Environment Studies) 会議に参加するライプツィヒでした。
今になって何という巡り合わせだろう!と思えるのは、その時に発表したのが合意形成ゲーム「ステークホルダーズ:循環型社会編」の実践に関する速報データだったのです(Sugiura, 2010)。このゲームは、「なごや循環型社会・しみん提案会議」(2006-2008年開催)の会議デザインとそのコンテンツをゲーミング化したものです。
この「ステークホルダーズ・循環型社会編」は、つい先日の2026年7月8日、私が担当する慶應義塾大学での「環境行動論」において、「20年後の未来を生きるゲーミング」として実施しました。
2006年に開催した「なごや循環型社会・しみん提案会議」では、20年後の名古屋の循環型社会を想定し、そこから逆算して今何が出来るか、というバックキャスティング・アプローチが取られました。その20年後というのが、まさに「今」なのです。
2006年にステークホルダー会議と市民会議のハイブリッド型会議を行い、2010年にそれを初めてドイツ・ライプツィヒで発表し、2026年に20年の歳月を経て東京に所在する大学でゲーミングを行う。
何という巡り合わせでしょうか!
南山大学の前田洋枝先生は卒業論文の指導を通して、「しみん提案会議」から展開した研究と教育を現在も支えてくださっています。

集団形成における包摂、そしてPTA心理学
今日、ストラスブールに思いを馳せたのは、知人から在外研究についての相談を受け、当時の日記(あんまり記述がなかった)、そして写真のフォルダーを開いてみたことから、今回の記事として書き留めておこうと思ったのでした。
それでこの記事を書いていたら、2002年にドイツに最初に訪問したことから、まさに現在取り組んでいる「集団形成における包摂と役割変容に関するゲーミング」まで、一本の線として繋がってきたことに格別の感慨にひたっています。
循環型社会の市民参加による会議のゲーミングは今、「不在者の声を聴く」という研究となって、新たな第一歩を踏み出しています。集団形成における包摂についての課題は、大阪大学の家島先生が提起されている「PTA心理学」(例えば、家島ら, 2026)とも接続し、2026年9月に開催される東洋大学での日本心理学会のワークショップへと展開してきています。
ストラスブール、それは私にとっては2003年と2010年にちょっとだけ訪れた都市に過ぎませんが、今振り返ると、私自身の研究につながる大きな伏線だったことに気づきます。
見出し画像は…
2003年1月31日、ストラスブール市内を走る低床式トラム。当時、日本ではまだ珍しかったパーク&ライドと一体となった都市交通システムは、強く印象に残りました。
引用文献
家島明彦・竹尾和子・尾見康博(話題提供),杉浦淳吉(指定討論),荘島幸子(司会).(2026年3月3日).発達の場としてのPTAを語る――PTA心理学の展開[他学会等共催シンポジウム].日本発達心理学会第37回大会,福岡国際会議場,福岡.
水野洋子・柳下正治・杉浦淳吉・前田洋枝・松野正太郎 (2003). 市民参加型手法に関するDBTへのヒアリング報告. 科学技術社会論研究, 2, 120-126.
Sugiura, J (2010). The process of balancing conflicts on environmental planning using the educational game “Stakeholders”. 21.IAPS Conference 2010 – , Leipzig, Germany. (Abstracts of presentations, Pp.307-308).2010/06/29.
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