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文字起こしの修正時間が9割減って記事の品質も高まった話——Claude Codeで何が変わったか

テック系メディアの取材記者として、現場を歩いて30年以上になります。いまは株式会社アンジーという編集プロダクションを経営しながら、毎週のように海外スタートアップから国内SIerまで、いろんな取材音源を抱えて帰ってくる日々です。1969年生まれ、2029年に還暦。年々、聴力よりも先に「修正作業の集中力」が落ちていく自覚があります。だからこそAIを積極的に仕事に取り込むようになりました。老いに任せるのではなく、テクノロジーの力を借りて成長を続ける——そんな実験を続けている人間です。

前回の記事 で紹介したAI編集部OS(ai-editorial-os)には、`transcriber`というロールがあります。文字起こしとクレンジングを担当するエージェントです。今回は、そのtranscriberの中身——つまり音声から記事に使えるテキストにするまでの工程で、Claude Codeを導入したらどのくらい楽になったのか、をお話しします。

結論から書くと、修正時間が体感で9割減りました。1本のインタビューの文字起こし整理にかかっていた2時間が、いまでは最短15分前後で終わります。ただ時短されたのではなく、素材の質も高まっています。何が変わったのか、順番に説明していきます。


取材後の文字起こしクレンジングは、長年ずっと地味にしんどい工程だった

文字起こしのクレンジングというのは、AIが認識・出力したテキストを精査して、誤変換や必要のない情報を整理していく作業です。音声認識AIは年々賢くなっていますが、誤変換は完全には消えません。

私は2021年からAI文字起こしを本格的に使い始めました。当時の手順はこんな具合です。

音源を再生する。文字起こしテキストを横に並べて見る。間違っている箇所を止めて直す。外来語、固有名詞、専門用語、同音異義語、言い淀み。英語インタビューの場合は、私がネイティブではないので「uh,」が大量に入る。テキストエディタで誤変換のパターンを見つけて一括置換することもありましたが、全体を通して読みながら直していくと、音声を止めては直し……の繰り返しで、気がつくと2時間も経っていることもあります。

議事録なら「だいたい意味があっていればいい」という割り切り方もできると思います。ただ、発言を引用したり事実関係を整理したりする取材記事では、言っていないことや事実に反することを書くわけにはいきません。


英語と日本語で、まったく違う問題がある

前提として、英語と日本語の文字起こしでは課題が少々異なります。

英語音声認識AIについては、2021年ごろからAmazon Transcribeを使っています。これが最初から精度が高い。アメリカ英語はもちろん、フランス訛り、インド訛り、東欧訛り、いろんなアクセントできれいに書き起こしてくれます。英語ネイティブではない海外スタートアップの創業者・経営者にインタビューしても、ほぼそのまま記事素材として使えるクオリティです。

一方、日本語は別の話です。日本語の文字起こしで問題になるのは、ざっくり3つ。

同音異義語:「きかく」が「企画」なのか「規格」なのか「機械」なのか、文脈がないと判断できません。日本語は同音異義語の宝庫です。

外来語・専門用語:IT系の取材だと「クラウドネイティブ」「Kubernetes(クーバネティス)」「MITRE ATT&CK(マイターアタック)」のような用語が頻出し、新しい言葉も次々と現れます。音声認識AIにとっては結構な難敵です。

フィラー:これは英語の「uh,」と同じで、「あのー」「えー」「そのー」「まあ」といった話し言葉特有の言い淀みですね。記事には残さないことが多いので削除したいのですが、エディタの一括置換みたいなのに頼っても、なにげに時間を食います。


AmiVoiceのAPI導入で、日本語フィラー問題は解決した

日本語の文字起こしには、アドバンスドメディア社の音声認識「AmiVoice」のAPIを採用しています。暗号化通信・AI学習不可モード選択可能というセキュアな仕様で、アンジーのAWS環境と連携させています。取材音源には未公開情報が含まれることが多いので、ここはセキュリティ要件で選びました。

AmiVoiceのAPIにはフィラー除去機能があります。「あのー」「えー」を自動で消してくれる。読みやすいテキストをほぼ自動で出してくれるので、非常に助かる機能です。

ただしこれも完璧ではありません。IT系の取材では「AI」という単語が頻出しますが、日本語で「エーアイ」と発音したとき、最初の「エー」をフィラーと誤認識して削除し、「アイ」だけを残してしまうことが稀にあります。

AI活用を推進します」が「愛活用を推進します」になる、という具合です。最初に見たときは「なんだこれ?」と思いました。頻度は低いですが、こういったAI出力の癖は把握しておく必要があります。

フィラー除去後も、同音異義語・外来語・専門用語の問題は残ります。ここが長年の手作業ゾーンでした。


Claude Codeで、何が変わったか

このクレンジング工程は、Claude Codeのワークフローに移行して、最も変化が大きかった工程のひとつです。

先ほども説明しましたが、文字起こしテキストだけを見ながら音源を聴いて、一箇所ずつ手動で修正していました。専門用語が出てくるたびに止めて、調べて、直す。これが積み重なると、1本のインタビューで相当な時間がかかります。

Claude Codeでは、Macに保存した取材資料のPDFと文字起こしファイルを、ターミナルにドラッグ&ドロップして一緒に渡せます。これが、WebブラウザでのチャットUIの操作と決定的に違う点です。

事前にクライアントから受け取ったサービス資料、製品説明書、質問票、インタビューのテーマ、対象企業概要——これらを表記統一辞書としてClaude Codeに渡すことで、AIが「このインタビューで登場する固有名詞・専門用語・外来語」を事前に把握した状態でクレンジング処理を行います。

実際の取材音声で起きた誤変換の例を挙げると、「PDCAのサイクル」が「PCIのサイクル」に、「小ロットの部品を調達」が「小学校の部品を調達」になったケースもありました。一瞬「?」と止まる誤変換ですが、関連資料を参照したClaudeが自動で補正してくれるようになりました。

さらに、Claudeが判断できなかった箇所は疑問点として一覧で挙げてくれます。

「以下の箇所は音源確認が必要です:23分41秒『クラウドネットワーク』→『クラウドネイティブ』で合っているか不明」

この疑問点リストを横に置きながら音源を聴けばいい。もちろん、全体を通して聴いて確認すること自体は変わりませんが、誤変換のたびに再生を止めて修正をするという非常に面倒な作業がなくなりました。1.6倍速〜2倍速で流しながらチェックするか、トータルの時間が劇的に短くなります。「2時間が最短15分」まで減ったのは、音声認識AIモデルの選定に加え、この仕組みによるものが大きいですね。


Claude Codeと一緒に、パイプライン自体を作った

ワークフローを整えるために、Pythonスクリプトをつくりました(といってもClaude Codeに相談しながら)。

2021年に社内エンジニアに作ってもらった文字起こしWebアプリ「Mojio(モジオ)」を、2026年3月にローカルで動くPythonスクリプトとして再実装したのです。最初は`interview.py`という名前で、Claude Codeのカスタムコマンドから呼び出せる形にしました。音声ファイルと参照PDFなどを渡すと、クレンジング済みのテキストファイルが出力される。それだけのシンプルなツールです。

実装の大半はClaude Codeに指示しながら進めました。「AmiVoiceの非同期APIで話者分離を使いたい」と伝えると、ドキュメントを参照しながらコードを書いてくれます。エラーで止まっても、エラーメッセージをそのままコピペして渡せば、何が悪いのかを教えてくれます。APIのレスポンス構造が想定と違えば、実際のレスポンスを渡してパース処理を修正してくれる。

「何が起きているか」を言葉で説明して、コードを直してもらい、動作確認して、また説明する——この繰り返しでツールを完成させました。数年前は忙しい社内エンジニアに頼むしかなかった作業が、2時間ほどで自分のMacに実装できました。これも、振り返るとちょっとした革命です。ジジイでも自分のツールを自分で作れる時代になっていました。

その後、AI編集部OSのなかで`transcriber`ロールに統合し、スクリプト名は`transcribe.py`に変えました。

実際の使い方はシンプルです。Claude Codeのターミナルでスラッシュコマンド(`/transcribe`)を呼び出して、音声ファイルと参照PDFを渡す。それだけ。AI編集部OS化してからは、オーケストレーター役のClaude Codeに「音声を文字起こしして」と話しかけると、適切な言語を判断してスクリプトを動かしてくれるようになりました。さらに草稿の執筆とレビューまで一気にすすめる、という流れもできています。

すでに文字起こし済みのテキストファイルがあれば、関連資料を渡してクレンジングだけやり直すこともできる。「過去のインタビューを最新の資料で精度改善したい」というケースに重宝しています。


通訳ありインタビューにも対応する

もうひとつ、再実装で解決した課題があります。英語と日本語が混在するインタビューへの対応です。

英語話者へのインタビューに通訳が入る場合、音源には英語の発言と日本語の訳が交互に入ってきます。AmiVoiceは日本語専用、Amazon Transcribeは英語専用なので、以前は2本のファイルを別々に出力して手動で突き合わせていました。これがまたちょっとした苦行でした。

そこで`--lang mixed`オプションを追加しました。AmiVoiceで日本語を、Amazon Transcribeで英語を同時に処理し、タイムコードで突き合わせて一本にマージしたうえでClaudeがクレンジングします。誰が話したかは`speakers.txt`で事前に定義しておくと、クレンジング後のテキストに話者名が入る仕様にしました。

日英が混在しつつ、タイムコードで振り返りやすい文字起こしができあがります。


それでも、人が確認する工程は残る

ひとつ誤解してほしくないのは、「文字起こしを読まなくていい」という話ではない、ということです。

クレンジング済みのテキストは必ず通して読みます。Claudeが疑問点を挙げた箇所は音源で確認します。発言者のニュアンスや温度感は、テキストだけでは伝わらないことがあります。「ここで一瞬間が空いた」「強い口調で言い切った」「冗談めかして言った」——そういう非言語の情報は、人が音源を聴かないと拾えません。

変わったのは、「修正のたびに止めて書き直す」という繰り返し作業の時間です。全体を聴き直して確認する時間は残りますし、残すべきだと思っています。AI編集部OSのワークフローでも、「人が確認する工程は省かない。むしろ強化する」という原則は変わりません。AIが効率化してくれた時間ぶん、人は本来集中すべき判断・確認に時間を使う。ストレスも減って、インタビュー内容を受け止める頭はスッキリするので、仕上がる原稿の質も高まると思っています。


ワークフロー全体像

ここまでの工程を一枚の図にすると、こんな具合です。


緑がAIによる処理、オレンジが人による作業、白枠オレンジが人の入力操作。Step 1〜3で音声と関連資料を渡して、Step 4〜5でAIが文字起こしとクレンジングを行い、最後のStep 6で人が音源を聴き直して最終修正する——6つのステップで完結します。


ジジイの仕事を続けるための、地味な革命

毎週何本もインタビュー記事制作を抱える身としては、この地味な変化が積み重なって、最終的に「ジジイになってもこの仕事を続けていけそう」という自信につながっています。

体力は落ちる。集中力も短くなる。でも、AIがこまごまとした作業をひとつずつ引き受けてくれるなら、人間が本気で頭を使うべきところに時間とエネルギーを集中できる。サイボーグジジイになりたい私としては、こういう細かい工程の改善こそが、長く現場を歩き続けるための実装なんだと思っています。

次回は、ライター〜レビュアーエージェントによる執筆・レビューパイプラインを紹介します。文字起こしを終えた素材から草稿を書き、別人格のレビュアーが照合する——この仕組みを組み立てたときに起きた失敗や設計上の悩みも一緒にお話しする予定です。その先はリサーチャーとプランナー、最後にオーケストレーションするエディター、noteづくりのためのインタビュアー(私自身に話を聞きにくる、内向きエージェント)の話で、AI編集部OSのロール巡りを一周しようと思います。

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アンジー森(森 英信) 面白い、役にたったと思ったら、応援をおねがいします。手首もげ、老眼、浅い睡眠……ジジイに愛の手を〜