聖地の熱狂を支える。JTB社員3人が語る「高校野球」への熱い想いと知られざる舞台裏
阪神甲子園球場――高校球児たちにとって聖地であり、人々を魅了する青春の象徴です。実はそれぞれのドラマの舞台裏で、全国から集まる代表校の選手たちの宿泊や移動の手配、さらには生徒応援団や保護者、時には一般の応援客への対応も行っている“黒子”がいるのをご存知でしょうか。今回は、強豪校の担当経験者から、この業務を担当し始めたばかりの若手まで、3人の社員による座談会を開催。表舞台からは見えない、泥臭くも熱い「高校野球の裏側」を語り合ってもらいました。

2015年入社。千葉支店などで長年教育営業に携わり、千葉県内の強豪校を担当し、
数多くの甲子園斡旋業務を経験。今年2月に広報チームへ異動。
『信頼関係構築』をモットーに、監督や学校関係者とのコミュニケーションに注力してきた。

2017年入社。横浜支店所属。神奈川県内の強豪校を担当し、昨夏の甲子園や今年のセンバツなど、緊迫感のある現場を支え続けている。担当校のファンの方から声をかけてもらったことも。

2024年入社。教育第二事業部所属。今年、初めて甲子園斡旋を担当し新人ながら、
120名の中学生応援団の帯同を担当。現場で「青春」の熱量に触れ、高校野球に魅了される。
監督と語らい、練習を見守る。チームの伴走者という役割

――まずは、皆さんがどのように高校野球に関わっているのか教えてください。
森田:私たちの役割を一言で言えば、「選手が野球だけに集中できる環境をいかに整えるか」に尽きます。単に宿やバスを手配するだけではありません。私の場合は、千葉支店時代に担当校にがっつりと伴走させていただいたのですが、日ごろから心がけていたのは「信頼関係を築くこと」ですね。練習場にも足繁く通うようにして、監督や関係者の皆様と深くコミュニケーションを取らせていただいていました。
西川:私も同じですね。甲子園常連校になると、学校側との「阿吽の呼吸」が求められるように思います。いつ、どこで、どのようなことを詰めなければならないのか。何を想定しておかなければならないのか。学校関係者の方とは何度も綿密に打ち合わせをし、予算や日程の調整を行っています。
今橋:私は今年の春のセンバツで、初めて甲子園出場高校さんを担当させていただきました。先輩から引き継ぐことになったときには「あの高校を担当するんだ…!」と緊張したことを覚えています。先輩方の教えを仰ぎながら、選手団だけでなく、中学生の応援団や学校の後援会としての保護者など、多岐にわたる手配を経験しました。
森田:選手団に帯同すると、僭越かもしれませんが、もうマネージャーのような感覚になりますよね。たとえば、移動中や練習の合間に「選手がお腹を空かせているな」と思えば、車を出してドーナツや牛丼を大量に買いに走ったり。
西川:それはすごい(笑)。でも、常に「何かできることはないだろうか?」と考えてしまう気持ちはすごくよく分かります。
森田:選手の皆さんは本当によく食べるので、宿の食事だけじゃ足りないときもあるんですよね。練習風景を見ながら「あ、この選手はバナナをよく食べるな」とか「今日はおにぎりよりゼリーの方が良さそうかな」と観察して、差し入れの内容を考えるようにしていました。
今橋:なるほど!そうした細かい気配りが、信頼に繋がっていくんですね。
準備期間はわずか一週間!?求められるスピード感

――通常の団体旅行と比べて、高校野球ならではの業務の難しさはどこにありますか?
今橋:とにかく時間がないことです。通常、修学旅行などは2年ほど前から準備を始めますが、甲子園は出場が決まってからが勝負。選抜大会の場合、1月末に出場が決まって、そのわずか数日後に学校側から旅行会社などに向けた 業者説明会があり、約一週間で全てのプランを固めなければなりません。
西川:そうなんですよね。日程が固まってから、全てが一気に動き出すので、タイトなスケジュールのなか同時並行でいろいろなことを進めなければならないんです。学校によっては、対戦相手によって応援団の規模が変わることもあるので、1月末になると毎日ドキドキしていました。
今橋:私が担当した高校さんの場合、応援団のツアーは学校側にとって「準・修学旅行」的な位置づけ。しかも中高一貫校なので、中学生も応援に行くんです。120人の中学生が、慣れない環境で体調を崩さないことを最優先に、食事のメニューから部屋割りまで、分刻みのスケジュールを立てる必要があるのですが、与えられた期間はたった一週間。まさにマルチタスクの極みでした。
森田:あとは天候ですよね。ある年の夏の大会では、台風や線状降水帯が重なり、試合が8日間も順延したことがありました。ニュースでは「一日順延」と一言で流れますが、そうなると私たちは新幹線を取り直し、宿泊を延期し、練習場を確保し直さなければならない。裏側では正直なところ、穏やかな気持ちではいられないこともありました。
でもそうなっても慌てないよう、予備のプランを用意しておくのが、我々の腕の見せ所でもあります。
西川:宿泊先の確保は本当に戦いですよね。特に京都や神戸あたりのホテルや旅館は、全国から集まる学校で取り合いになります。JTBには他校を担当している社員もいるので「あそこの宿が空いたらしい」「いや、うちが先に押さえた!」といった具合に、情報交換をしながらなんとか宿泊先を確保していました。まさに「舞台裏の熱闘」といった勢いですよね(笑)。
今橋:私も現場で、「明後日120人泊まれますか?」と、何十軒ものホテルに電話をし続けたことがあります。最後の最後で何とか確保できましたが、あのときは本当にひやひやしました。
森田さんがいうように、試合結果によって予定がガラッと変わるので、Aパターン、Bパターン、Cパターンと、常に複数のシナリオを用意しておく必要がある。担当校の勝利を信じながらも、私たちは冷静に備えておかなければなりません。
――そうして迎えた試合当日、現場ではどのようなことを行っているのでしょうか。
今橋:選手たちを球場に無事に送り届けるために、私たちが現場で一番気にしているのは、“分刻みのルール”です。甲子園は注目度が高く、メディアも含めてさまざまな関係者が関わっています。そのため、例えば駐車場の到着時間や入場時間も非常に厳密に決まっていて、15分以上前に着いてはいけないなどといった細かいルールがあるんです。このあたりはいくら備えておいてもあとは「現場勝負」になるので、直前までひりひりしますね。
西川:あと意外と知られていないのですが、アルプススタンドの座席割りも、「チアリーダーはここ」「吹奏楽はここ」と、実はすべて学校側と事前に決めて、私たちが誘導させていただいているんです。一糸乱れぬ応援のためにも、またスムーズな入退場のためにも、間違いがあってはいけないので、気を抜けません。でも現場で生徒たちの高揚した表情を見たときは、思わず顔がほころんでしまいました。
聖地で流れる涙と、駅の改札で見せる誇り

――流動的で、マルチタスクが求められる…とても大変な現場のように思いますが、皆さんの支えになっているものは何でしょうか?
西川:私は、大会前の「出発式」が一番印象に残っています。甲子園に携わる原動力になっているといっても良いかもしれません。駅の改札前で行われるのですが、注目選手たちが並ぶなか、私たちが先頭に立って、彼らを駅のホームへと先導させていただくんです。その瞬間は、この大きなプロジェクトを支えているという誇りと、責任を感じますね。同時に「絶対に成功させるぞ」と背筋が伸びます。
今橋:私は現場で見た、選手たちや応援の生徒たちの姿です。日頃から見ていた選手たちが、東京から離れた地で、勝ったときに肩を抱き合って喜び、涙を流す姿を目にしたり、スタンドの生徒たちが声を枯らして応援しているのを見たときに「これこそが青春なんだな」と心が震えました。自分が裏側で必死に手を動かしてきたのは、この瞬間のためだったんだなと。自身のやってきたことが少しでも役に立ったと思えて、本当に本当に嬉しかったです。
森田:選手たちにずっと帯同していると、だんだん彼らが我が子のように思えてくるんですよ(笑)。彼らが3万人の大観衆の前で堂々とプレーしている姿を見るだけで目頭が熱くなるし、接戦ではハラハラするし、勝てば自分のことのように嬉しい。私自身は高校球児ではなかったのですが、青春を追体験させてもらっているというか。この感覚は、なかなかほかの仕事では味わえないと思います。
私自身がこの出場高校、野球部の営業担当者でもあり、ファンになっています。残念ながら人事異動で営業担当を離れてしまいましたが、予選の結果は追いますし、休日に試合を見に行くこともあります。それほど魅力のある学校関係者の皆さま・選手ばかりで、心から応援したくなるんです。
西川:担当校のファンの方との繋がりを感じることもあります。私の担当校には毎年のように応援ツアーに参加してくれるファンの方がいらっしゃるのですが、現場で「また次も申し込むね」と声をかけてくれることがあります。私はあくまで“黒子”ではあるのですが、やはり顔を覚えてくれているのは嬉しかったですね。
森田:学校に戻ってから、先生方に「JTBに頼んで良かった、また次も一緒に行こうな」と言っていただけたことは忘れられません。その一言のために、大変な日々も乗り越えられるんだと思います。
これから甲子園を観る方へ。行程表の向こう側にある想い
――最後に、今年の大会を楽しみにしている方々へ、JTB社員ならではの視点からメッセージをお願いします。

森田:選手たちは、慣れないホテル、いつもと違う食事、そして緊張感のなかで戦っています。彼らがベストを尽くせるように、私たちだけではなく、宿の方やお弁当屋さんなど、本当に多くの人が見えないところで汗を流しているんです。そんなことにも思いを馳せていただくと、より甲子園が尊いものに思えるかもしれないですね。
西川:私たちも、単なる手配業者ではなく、その学校の一ファン、一団員として現場に立たせていただいています。今年も、球児たちが悔いなく「燃え尽きる」ことができる環境を全力で整えていきたいと思います。
今橋:選手たちが全力を出し切る姿と、それを支える多くの方々の思いが重なるからこそ、甲子園には特別な感動があるのだと思います。その時間を、選手の皆さんにも、応援する皆さんにも安心して過ごしていただけるよう、私たちも現場を支える一員として丁寧に伴走し、取り組んでいきたいです。
