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虚空蔵求聞持法

【こくうぞうぐもんじほう】

夜は深く、山は言葉を持たず
海は忘れることを示し
空は、何も留めなかった。

若い僧は、岩の上に座っていた。
背筋を伸ばし、目を閉じ、闇の中に身を置く。
祈りは願いではなく、取引でもなかった。
ただ、繰り返すためにある。

「ノウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ…」

声は最初、喉から出ていた。
数日が過ぎると、胸から。
さらに日が進むと、腹の奥から自然に立ち上がってくる。

五十日。
世界は驚くほど単純になった。
空腹と眠気、冷えと痛み。
それ以外のものは、すべて剥がれ落ちていった。

七十日を越えた頃、
言葉は意味を失った。
真言は「覚えよう」とするものではなく、
そこに在る状態になっていた。

百日目の夜、
空を見上げると、星が落ちてくるように感じられた。
いや、違う。
自分が、空の中に落ちていた。

経典は、暗記するものではなかった。
文字は川のように流れ、
意味は風のように通り抜け、
必要な時に、自然と手の中に戻ってくる。

彼は悟った。
これは奇跡ではない。
選ばれた者の特権でもない。

人間の意識が、本来持っている構造を
極限までシンプルにした結果なのだと。

修行を終え、山を下りるとき、
世界は変わっていなかった。
変わったのは、
「覚えようとしなくても、
すでに在るものに気づく身体」だけだった。


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