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上位10%の富裕層のCO2排出を削減すると、1.5℃目標達成までの猶予時間が倍増する

 この記事は

  1.  所得が世界上位10%に入る人がCO2排出をやめたら、世界全体の年間のCO2排出量は半減できる。のこり90%にはほとんど影響がない。

  2. この情報を皆さん広めましょう。拡散の威力が社会を動かします。

です。

 たいして新しくない話だとは思うのですが、すこしでもこの件が多くの人の目に触れたらと思い、書きました。

1.カーボンバジェット(炭素収支)

 カーボン・バジェット(炭素収支)とは、1.5℃目標を達成するために排出して良いCO2の総量です。*1) , *2)

 2024年時点の残量は、世界全体で250~275 Gt(ギガトン)(1ギガトン=10億トン)です。*3)

 世界が排出しているCO2は年間で約40 Gtなので、2025年を過ぎた今、あと5〜7年のうちに許容量を使い切ることになります。つまり1.5℃目標が未達となり、人間の幸福が著しく損なわれる可能性がより一層高まることを意味します。*4)

 幸福が損なわれるとは、災害の激甚化や食糧不足、政情の不安定化などでもたらされると考えます。

2.どうすればカーボンバジェット内に収められるか

 ではどうすればカーボン・バジェット内に収めるかを考えてみました。
 そこでおなじみの気候変動の3要因である、人口、物質的豊かさ、技術の3つに単純化して検討しました。

(1) 人口削減

 1) 富裕層の人口を減らす

 後ほど述べるように、世界上位10%の富裕層がいなくなれば、排出量は半減します。
 その人数はおよそ8.2億人です。上位10%の富裕層は当然先進国に偏在していますので、日本で該当する人々も7年以内にいなくなる必要があります。
 ちなみに日本における上位10%とは、男性は年収900万円以上、女性は同600万円以上です。*5)

 富裕層の人口を減らすというのは、意図的に存在を消し去る、という恐ろしい考え方もあれば、所得を人並みに下げるという考え方もあります。
 所得を人並みに下げる、は「(3)物質的豊かさを減らす」で説明しています。

 存在を消し去る選択肢はあり得ません。なぜなら1.5℃目標とは、人間本来の幸福追求のひとつの課題だからです。特定の人間の生存そのものを否定するのは、人間の幸福を奪う行為であり、矛盾した手段です。

 また自然減は意味がないと思われます。一般的には富の所有者が移るだけだからです。

2) 不特定多数の自然減を期待する

 世界全体の人口が自然に減ることを期待するのも非現実的です。
 まず世界人口は2080年ごろまで増加すると予測されています。*6)

 所得上位10%の縛りをなくすと、削減すべき人口はずっと多くなり、実現性はさらに低下します。

(2) 技術向上と普及

 仮に現時点でCO2排出ゼロにできる技術があるとします。課題は、あと7年で世界中に展開することです。

 年々増加の一途を辿る電力需要と、その電源構成比率に占める再生エネルギーの割合がごく微少であり続けているという事実から、技術で全面解決を期待するのは、あまりにも無謀な賭けだと思われます。下のグラフを参照してください。*7)

(3) 物質的豊かさを減らす

 物質的豊かさ、つまりGDPを減らすという方法です。

 過去記事で述べているように、気候変動対策として最も容易で効果が期待できるものです。*8)
 先進国は人間本来の生活に必要な量以上の生産を行い、無駄にCO2を排出しています。ですのでGDP削減は無駄が減るのであって、(悲劇的な意味での)貧乏になるわけではないと考えることができます。

4.所得上位10%の排出量をゼロにする

 物質的な豊かさ(GDP)を削減するというのは、人それぞれのイメージが異なると思います。
 そこで共通認識をもつため、情報の整理を行います。

 下図はCO2排出量と、所得別の排出割合を示した図です。
 灰色と黒の部分が、所得上位10%の富裕層です。彼らが世界の総排出量の52%を占めていることがわかります。*9), *10), *11), *12)

“Carbon Inequality”, Oxfam, 2020、2023年取得

 言い換えれば、この上位10%の富裕層の排出量をゼロにすると、年間のCO2排出量は現在の半分の約20 Gtになるということです。
 カーボンバジェットの考え方に基づくと、1.5℃目標達成に残された年数は、5〜7年だったのが10〜14年に延長できます。

 注目したい点は、ほとんどの人に大きな影響を与えずに、CO2排出を半減させることは思ったよりも可能性が高そうだ、ということと、対象者が絞り込めるので、比較的手間が少なく大きな効果が見込める、ということです。

 6.どうやって実現するか

 上位10%の生活のために、残り90%がそれに付き合う必要性はありません。90%の人がこの事実を知るのが、非常に大きな一歩になると思います。
 そうすれば数の力で社会は変えられます。それには情報の拡散です。

 一般的な所得水準の人が特に何もしなくても、過剰な所得を得ている人たちの生活レベルを一般的なレベルにすれば、ひとまず1.5℃目標に残された期間は倍になる、という話は受け入れ可能ではないでしょうか。*11)

 なおこの活動では、常に妨害者の存在を意識し、彼らの力を削ぐ活動も続ける必要があります。
 これは主に、所得上位10%を生み出している金融機関とそれに従属する大企業、およびそこから広告収入を得ているマスコミ、そして、高所得者のなかでも将来世代へのツケまわしを気にせず、自らの利益のみを要求して上記機関・企業に隷属する者です。

 彼らは様々な手段で気候変動懐疑論を広めますし、共産主義や社会主義のレッテルを貼り付け、問題から目を逸らさせようとします。

7.おわりに

 気候変動問題を日常生活と地続きにさせなければ、単なるインテリの戯言で終わるでしょう。
 その点、所得上位10%のCO2排出を削減するだけで、現状の総量の半分になること。言い換えれば、一般的な人の生活に影響を与えずとも実現可能である、という事実は、一般生活と気候変動が両立する、安心材料になるのではないかと期待します。

おわり

*1) 「1.5度目標とは、パリ協定で定められた平均気温上昇を抑えるための目標です。パリ協定では、地球温暖化を防ぐための目標として産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を2度未満に、できる限り1.5度に抑えることが求められています。」、ASUENE MEDIA、「1.5度目標とは?改めて振り返る1.5度目標のこと」、https://asuene.com/media/1744/ (2025年12月取得)

*2) 「カーボン・バジェットとは?」、国立環境研究所、https://www.nies.go.jp/event/cop/cop20/20141204.html (2025年12月取得)

*3) 「誰がどのように<炭素の負債>を返済すべきなのか?」、朝山 慎一郎(社会システム領域 主任研究員)、国立環境研究所、https://www.nies.go.jp/social/navi/colum/bg14.html (2025年12月取得)

*4) 「ウェルビーイング」「善き生」の方が正確な表現かも知れない。「日本型ウェルビーイング」、佐伯啓思(著)、異論のススメ、朝日新聞朝刊、2025年12月20日より

*5) 「日本の「上位10%」にあたる年収はいくら?」、前佛朋子(著)、Moca、https://fpcafe.jp/mocha/4210 (2025年12月取得)

*6) Department of Economic and Social Affairs, Population Division, United Nation(国連),https://population.un.org/wpp/graphs?loc=900&type=Demographic%20Profiles&category=Line%20Charts(2025年12月取得)

*7) “Global direct primary energy consumption”, Our world in Data, https://ourworldindata.org/grapher/global-primary-energy?time=1800..2023  (2023年8月取得)

*8) https://note.com/juan5665/n/n34da104b49e0

*9) 「資本主義の次に来る世界」、ジェイソン・ヒッケル(著)、野中香方子(訳)、東洋経済から、“Carbon Inequality”, Oxfam, 2020を引用(2023年取得)

*10) 厳密に言えば、人並みの生活をするために多少のカーボンバジェットを彼らに割り振り、その分は全人類で負担する必要はあります。

*11) 富裕層のCO2排出量がなぜ突出しているかは、プライベートジェット機を所有する、燃費の悪いSUVに乗りたがる、やたらと広くて光熱費のかかる家に住んでいる、というちょっとした事実で想像できますね。

*12) 直接の関連性はありませんが、1000万ドル(約15億円)以上の資産を持っている富裕層は、その人数の上位10カ国で191万人です。

日本だけでみると12万2千人です。

2025年に世界人口はおよそ82億人なので、世界で15億円以上の資産を持っている人は0.02%です。

(The Wealth Report, Knight Frank, https://www.knightfrank.com/wealthreport から2025年12月にダウンロードした情報に基づく)

改訂履歴)
2025/12/24
1. 参考リンクの修正
2. 1項「幸福が損なわれるとは、災害の激甚化や食糧不足、政情の不安定化などです」を「などがもたらすと考えます」に修正
3. 2項 (1), 2):「4項で詳しく述べていますが、所得上位10%の縛りをなくすと、削減すべき人口はずっと多くなり、実現性はさらに低下します。」→「4項で詳しく述べていますが、」を削除
4. 引用文献 *9)の情報に、最初に参照した書籍を追加