今年の脱炭素祭り(COP29)ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第十二回)再エネ拡大だけではどーにもならない温暖化対策
年に一度の脱炭素祭りが11月に
私が元ESG調査担当だったりしたことの知見が、このNoteにもかなり反映されているわけですが、そのうちの「E」、つまり環境対応を政府レベル、企業レベルで考えるとき、年に一度の脱炭素祭りが毎年11月あたりに開催されます。ワインを考えるうえでも気候変動問題や脱炭素への取り組みは知っておかねばなりません。
今年のお祭り(通称COP29)はアゼルバイジャンのバクーで11月11日からの開催なので、そろそろ書いておきましょう。今回は、今後この場で話を展開するためのステップでもあるので、専門家のみなさまには圧倒的に物足りないレベルになりますが、お許しください。
(さらに言えば、生物多様性のCOP16開催中なのですが、こちらはまた改めて)
COP29ってやつです
COP29は、国連気候変動会議、またはUNFCCC締約国会議の第29回会合のことです(一応、UNFCCCは「気候変動に関する国際連合枠組条約」です)。歴史的経緯とかは置いておきます。とにかく世界の温室効果ガスの排出量を減らさないと地球の気候変動(温暖化とそれに伴う異常気象)に歯止めがかけられないので、みんなで話し合って気候変動(地球の温暖化)を止めましょう、というのが主旨です。
脱炭素目標の改定に注目
この条約締約国に求められているのが、脱炭素目標の設定と実行です。今回は、各国がそれぞれの目標(NDC :Nationally Determined Contributionと言われます)を改定して発表する期限が2025年2月に控えていますので、それぞれがどの程度のやる気を見せて脱炭素に貢献するかのせめぎあいなんかもあったりするんでしょう。
とりあえず二つのトピックでまとめます
ただ、そんなせめぎあいをつぶさに見ていたら、細か過ぎてワイン片手のお話はできません。なので、ここではCOP29を軸とした世界の地球温暖化対策に関連して、大きく二つのトピックでお話をまとめておきます。
その一:おカネの話
今回のCOP29では、15年ぶりにグローバル金融目標(NCQG:Collective Quantified Climate Finance Goal)に合意する必要があります。極論して言えば、「南北問題」です。
南北問題を複雑化している気候変動問題
先進国(と中国など新興工業国)がボンボン化石燃料燃やして二酸化炭素出して温暖化を進展させる一方で、途上国はそれの被害を受けるばかり。海面上昇対策とか洪水対策しようとしてもカネがない。何とかしろ!!ってことです。連綿と続いている先進国と途上国の経済力の格差に対する問題意識の上乗せとしてこの話があるので、大変です。
先進国の支援額は足りない
前回2009年に設定された目標では、先進国が2020年までに年間1,000億ドルを途上国の気候変動対応のために支援するということになっていましたが、2020年には達成できず、ようやく2022年に実現しました。ただ、現状で途上国が気候変動対策で必要としているとされる資金は年間5,000億ドルから1兆ドルとも言われています。1,000億ドル達成!!とか威張ってる場合じゃないです。さらに昨年のCOP28では、追加で気候変動の被害を受けた途上国向けに新しい基金(Loss & Damage Fund)をスタートしたりしましたが、4億ドルくらいしか拠出表明がなかったという体たらく。
先進国が積極的になる理由はある?
ただ、先進国も新型コロナ対応などで財政赤字が拡大しているのでおいそれと途上国支援は増額できないです。国際情勢も変化して、どちらかというと各国内向きの体制になってますので、政治的に国外向けにおカネを使うことには積極的になりにくい状況です。
中国はどうするんでしょう?
一方、前回の目標設定時には、中国の存在感はそこまで大きくなかったので問題にならなかったのですが、今回はどうでしょう?今や世界一の二酸化炭素排出国である中国ですが、まず自分たちは後発で責任は先に工業化した先進国にあるため(と途上国の側に立つふりをして)カネを出す義理はない、と主張するんでしょう。その一方で中国の国益のために「一帯一路」政策は推進しようとしているわけですが。
いずれにせよ国には期待しづらい状況です。
民間資金を巻き込むための見本市?
そうすると、いかに民間資金を巻き込んでカネを出させるか、という話になってきます。最近数年は、環境貢献をしたい民間資金を呼び込むために公的資金を呼び水に使って途上国や環境対応のためのファイナンスをしようなんていうお金の流れも作られ始めています(ブレンデッド・ファイナンスなどと言います)。あるいは脱炭素関連のビジネスを拡大しようなんていう民間企業におカネ貸しましょか、なんてこともあるわけです。なので、この数年はCOPの場所はそうした脱炭素関連の見本市(あるいは商談会)のようになっているようです。
去年のCOP28には大量の参加者
見本市が実際のおカネの流れにつながっていくためには、商業銀行や投資銀行が参加してくれた方がいいわけです。去年UAE(アブダビ)で開催されたCOP28には65000人が参加登録しました。UAEは欧州からのアクセスが良いということもあったとは思いますが、すごい人数でした。原宿駅とか巣鴨駅とかの一日平均乗降客数がこのくらいです(全くわからない比較ですが)。
今年は減りそう
それに比べると今年は減りそうです。欧米の主要金融機関のトップは行かないと宣言してますし、気候変動対策に熱心なイギリスのチャールズ国王も行かないそうです。そんな状況では、トップダウン的に大型のファイナンス案件が決まるとかいう期待は持ちにくいです。なんで行かないんでしょう?遊ぶ場所ないから?ってのは言い過ぎですかね。
アメリカ大統領選次第でもあるし…
もちろん、アメリカの次の大統領次第でスタンスが変わるのが見えている中、このタイミングであえて火中の栗を拾いに行く人はいない、ということです。資金面からは脱炭素祭りの盛り上がりは期待できないでしょう。
その二:緩和と適応
ただ、地球温暖化・気候変動の問題は、身近なリスクになっていることは言うまでもないです。それに対して国や企業、個人がそれぞれやることはなんだろう、という話をするときに出てくるのが「緩和と適応」という考え方です。このキーワードは、今後の環境対応を考えるときにも、ワインを考えるときにも出てくることになります。
省エネしながら熱中症対策をする、という話
つまり、温暖化ガス削減に貢献して地球温暖化の進行を低下させましょうという「緩和」の努力と、そうはいっても温暖化は進むのでそれに対して自分たちがなんとか「適応」していかなきゃいけないですよね、ということです。家庭であれば、エネルギー消費を節約してわずかですが温暖化対策に貢献しながら、ちゃんとエアコンを使って熱中症対策をする、といった話です。
企業の対応を進めるためにどうする
で、政府・企業・家計でいうと、一番温暖化ガスを排出しているのは企業ですので、企業に温暖化ガス削減をしてもらいたい。ただ、カネかかります。そこで企業としてはこの「緩和と適応」をビジネスにできないか、国としては「緩和と適応」に金をつけられないか、ということをベースにいろいろ考えていると整理できます。

エアコンの例
様々な例はありますが、わかりやすいところで、再びエアコン。
エアコン自体の省エネ性能を上げれば、使用電力が減って二酸化炭素排出削減できます。これが「緩和」。で、省エネ性能が上がりました、環境に優しいです、しかも熱中症対策になります。健康のために適度にエアコン使いましょう。これが「適応」です。で、ここにうまく補助金などをつけると国も後押ししたという形になります。
「緩和と適応」の「ストーリー」
再エネを含めたエネルギー関連ではこういう絵が描きやすいですが、そうやって「温暖化の緩和に貢献しながら、一方で温暖化進展に適応していきます」という「ストーリー」が企業に求められています。
日本の上場企業に「ストーリー」が求められている
日本の上場企業は、サステナビリティ課題への対応を求められていて、その中で気候変動に関して「TCFDに準拠した情報開示」をしなさい、という話になっています。普通の人にわかる言葉で言えば、「気候変動の影響が将来的に企業の経営や業績にどんな影響を与えるかを真剣に考えて発表してください」、ということです。
「ストーリー」は中長期の視野を広く持つこと
たとえば、今世紀末の地球の平均気温が産業革命前から2度上がった時にあなたの会社はどうなってますか?それに対してどんな対応メニューがあって、どんなビジネスをしていくんですか?さらに言えばその状況に向けて会社としてこれから何をするんですか?をちゃんと整理してくださいね、ということです。難しい問題ですが、これこそが上に書いた「ストーリー」です。
企業経営は計画通りいかないことを前提にした構えが必要
大体、企業の経営が計画通りいくはずはありません。中長期的には特にです。いろんなことが起こります。ですが、状況の変化に応じてこういったことをやっていきます、というオプション(選択肢)をそろえて柔軟に対応する体制を整えておけば、変化が起きた時に慌てる必要は少ないでしょ?そうすれば中長期的に企業の経営も安定するんじゃないですか?ということが本質だ、というのが私の理解です。
国の「緩和と適応」
国の話に戻ります。
繰り返しですが、国として「緩和と適応」を考えるとすると、政策的に温暖化ガスの排出量を削減することが「緩和」なわけです。この時に、温暖化ガス排出量の多い火力発電所を閉鎖して太陽光や風力発電などの再エネを増やしながら、企業や家計に省エネ努力をしてもらって需要を抑えていく政策を推進するというのが本筋です。先進国は基本この形です。
絶対量削減か比率の低下か
ところが、火力発電所を閉鎖するというのは痛みが伴います。カネもかかるし失業者も出ます。で、どうせ電力需要は伸びるんだから火力発電は削減せずにそれ以上に再エネ発電導入して、火力発電の「比率」を下げて温暖化インパクトを減らしている(とみせかけよう)とする国がいるわけです。それが中国だったりインドだったり産油国だったりします。
今年もインパクト抑制に比重がかかりそう
脱炭素祭りは、年に一度、国連が決めた5地域持ち回りで開催されます。2021年は英国グラスゴー(西ヨーロッパ・その他)、2022年はエジプト(アフリカ)、2023年はUAE(アジア太平洋)でした。そして2024年はアゼルバイジャン(東ヨーロッパ)、2025年の予定はブラジル(ラテンアメリカ・カリブ海)ですが、この3年は産油国ないしその近くでの開催です。
産油国が火力発電の削減に諸手を挙げて賛成すると思います?だって石油収入減るんですよ?そんな状況では、どうしたって再エネ導入を加速して温暖化インパクトを抑えるようにガンバリマショウ!!という方向に比重はかかりますよね。
中国や産油国は再エネ導入増加で温暖化インパクト抑制
で、中国は猛烈に太陽光や風力発電を導入しています。今や毎年の世界の再エネ導入増加分の大半は中国によるものとなっています。ただ、世界の温暖化ガスの3割を排出する中国の総量は減ってません(うまくすると今年来年がピークみたいですが)。中東の産油国も、石油で稼いだ収入を砂漠での再エネ発電拡大に使って、温暖化のインパクトを抑えてる、なんて言ってます(そういえば火力には頼ってないですがノルウェーも石油収入を再エネ導入とかエネルギーシフトに使ってますね)。
今年のお祭りも、どちらかといえば、再エネ導入もっと加速しましょう!!!で、投資を呼び込もう、となる可能性の方が高いのではないでしょうか。そちらの方が前向きだし拡大志向だし。
サステナブルな脱炭素祭りか、サステナブルな地球環境か
ただ、そんなこんな言ってる間に、国連から今世紀末の地球の平均気温は産業革命前に比べて3.1度上昇する、なんて試算が出てきました。一昨年あたりまでは、みんなが頑張ったら1.5度に抑えることも夢じゃない、とか言っていたと思うんですが。やっぱり痛みを伴った形で温暖ガスの排出量の絶対量を減らさないとダメなんですよね。きっと。再エネ投資拡大すると脱炭素祭りはサステナブルになりやすいんしょうけど、痛みを伴わないと地球がサステナブルじゃなくなるかもしれません。
次回はワイン業界での「緩和と適応」の意味を考えてみましょうか。

先週末の収穫のお手伝いでのお話
でもその前に。先週末、長野の東御にあるツイヂラボのブドウ(メルロー)の収穫のお手伝いに行ってきました。病害の見極めの難しい房が多くて、予想外に時間がかかってしまいました。が、気になったのは、夜の気温が下がらなくてブドウの糖度が上がらない、というお話。
夜の気温が下がらないとブドウの糖度は上がらない
植物は昼間の日光で光合成して糖を生産して、夜になるとそれを溜めるわけです。しかし、夜の気温が下がらないと植物の生命活動(呼吸)が落ちないので作った糖を溜めずに使ってしまいます。そうすると結果的にブドウの糖度が上がらない、という形になります。夏バテみたいなもんでしょうか。
温暖化の影響はアルコール度数の上昇だけではない、ということ
まあ、ブドウの糖度がなくても醸造過程でアルコール度数を上げる方法はあるので、お手元に届くワインのアルコール度数が物足りないなんてことはありませんが。温暖化の影響というと、「育ち過ぎでアルコール度数の高い、重たいワインばかりになる」と考えるかもしれませんが、そうではないんですね。ややこしいお話ですが、これが現実。
