桔梗ヶ原メルローの垂直テイスティングってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第七十回)長熟可能性のあるワインとの素晴らしい一期一会
前回は「アメリカワイン」ラベル規制が需給改善に役立つ?というお話
前回は、「アメリカワイン」のラベル規制を変えようという動きと、それがワインの供給過剰調整のお役に立つんでしょうか?というお話をしました。アメリカ以外の産地のワインを最大25%使っても「アメリカワイン」と名乗れる現状を、100%アメリカ産ワインにしなきゃいけないように変えてワイン農家を救おう!!という取り組みです。
ただ、それで置き換えられる需要も大したことないし、やっぱり大量生産レベルのワインの供給過剰を調整しないとダメなんじゃないのかな、というのが一応の結論です。実は中間選挙を意識した政治的パフォーマンス?などという妄想も芽生えます。
今回は日本ワインを飲むお話。無料設定です
今回もワインネタになります。アメリカワインは最大25%までアメリカ産以外のワインをブレンドしてよいのですが、わが日本ワインは100%日本産ブドウを使わないといけない規制になっています。一方、お日様たっぷりのカリフォルニアに比べて、日本は雨が多いとか年によって天候が大きく変わるとかで、本来はワイン用のブドウを栽培するのに適しているとは言いにくい状況だったりします。
日本ワインが長期熟成できるのか?
そんな中で作られた日本ワインが長期熟成できるのか?年によってワインの出来栄えに違い(ヴィンテージ差)があるのか?ワイン好きとしては気になるところです。ということで、今回はワインに振りきってみます。
シャトー・メルシャンの桔梗ヶ原メルローの垂直テイスティング
一時期、わこさんはシャトー・メルシャンの桔梗ヶ原メルローを毎年買っていました。桔梗ヶ原のワイナリーには毎年のように行っていて、そこでバックヴィンテージ(長熟したもの)をテイスティングしたりしていますので、自分が買ったものも、長期熟成はできるんだろうと期待はしてました。で、これを並べて飲み比べたらどうなるだろう、という企画をやってみたわけです。同じ作り手の同じ生産地のワインを、生産年を変えて比べることを「垂直テイスティング」と言いますが、それをやったわけです。
2013、2014、2015、2016年の4本
今回は2013、2014、2015、2016年の4本です。2015年だけ格上の「シグナチャー」を買ってしまっていたのですが、その差も含めてそれぞれの年のワインの個性と、10年前後長期熟成した味わいを比較したいということです。
シャトー・メルシャンは、それぞれの年の天候や収穫時期、発酵などの情報を公開してくださっていたので、それを見ながらいろいろと飲み比べていきました。以下、公開されている各年の情報です。字数稼ぎじゃないですが、これを読んで出来上がりのワインがイメージできるでしょうか。
2013年のヴィンテージコメント
2013年は、乾燥した厳しい寒さでしたが、3月は温暖な日が続きました。5月中旬から梅雨明けまで雨量は少なく乾燥状態が続き、その後梅雨明けから8月上旬までは、雨量は多いが日中は晴れて畑の乾く間があるため、生育は順調でした。昼夜の温度差が大きく、着色が促進され、例年同様10月に上質なブドウが収穫できました。
収穫は10月中旬~下旬、発酵はステンレスタンクおよび木桶にて約28~30度で約10日間。オーク樽にて約18か月間育成(新樽使用率100%)、生産本数約1,600本。
2014年のヴィンテージコメント
2014年は厳しい寒さと降雪量が多い冬でしたが、4月は温暖な日が続きました。6月5日の梅雨入りまでは雨の少ない乾燥状態が続きました。梅雨入り後は湿り気により新梢は短期間で伸びました。ブドウの回かは平年並みで、天候に恵まれたため順調に結実が進みました。8月上旬のヴェレゾン(色づき)は昨年と同時期でブドウは順調に生育しましたが、中旬の台風を境に雨が多く日照は遮られ蒸し暑さが続いたこともあり、ブドウの糖度上昇が緩やかとなり、収穫は1週間遅らせ、成熟したブドウを収穫しました。
収穫は10月上旬~中旬、発酵はステンレスタンクにて28~30度で約14日間、木桶にて28~30度で約14日間。オーク樽にて約18か月育成、生産本数約2,500本。
2015年のヴィンテージコメント
2015年は、春の訪れは早く暖かい日が続いた影響でブドウの萌芽、展葉は例年より1週間から10日ほど早まりました。この傾向は6月中旬ごろまで続き、1週間から10日ほど早い6月3日に開花はじめを迎えた。梅雨入りは平年並みで6月8日、開花期の天候は一部のエリアを除き恵まれ結実は良好でした。6月下旬から7月上旬までは晴れの日が少なく、日照時間・気温ともに低く推移しました。7月中旬以降は天候に恵まれ、ヴェレゾン初めは8月7日と例年より1週間ほど早く、収穫時期も早まることが予測されましたが、9月の日照不足が影響し、生育のスピードは平年並みまで落ち着きました。10月に入ると好天に恵まれ糖度も平年並みまで回復し、収穫は例年同様10月上旬から始まりました。
収穫は10月上旬から中旬、発酵はステンレスタンクにて28~30度で約14日間、木桶にて28~30度で約14日間。オーク樽にて約21か月間育成、生産本数約1,400本(シグナチャーじゃない桔梗ヶ原メルローは約2,500本)。
2016年のヴィンテージコメント
2016年は、積雪日数、積雪量は少なく温暖な日が続きました。萌芽、展葉、開花(6月3日)は例年より1週間から10日ほど早く、梅雨期には一時的な大量の降雨がありましたが、梅雨期トータルの降水量は比較的少なく200㎜弱にとどまりました。梅雨明け後は晴天に恵まれ生育は順調に推移しましたが、9月中旬以降収穫までに370㎜を記録した秋雨と日照不足の影響で成熟が遅延しました。収穫目前にベト病の再発と晩腐病が発生し早急な収穫を余儀なくされましたが、病気予防の観点で笠掛けを行った圃場はその効果があり必要な収穫量を確保できました。
収穫は9月下旬~10月中旬、発酵は木桶にて28~30度で約10日間、ステンレスタンクにて28~30度で約10日間。オーク樽にて約21か月間育成、生産本数約2,130本。
ヴィンテージコメントから、いろいろな情報が読み取れます
いかがでしょう。毎年、天候が変化してその時々でケアしなきゃいけないことが変化し、やきもきする様子が伝わってきませんか?
メルローは日本でも良く育ちますが様々な天候の影響を受けます
メルローは雨が多くて保水性のある土壌が多い日本でも良く育つ品種で、晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンに比べると少し早く熟すので収穫期の秋雨の影響を受けにくいなどと言われています。でも、生育局面での病害やヴェレゾンから収穫までの糖度の上昇や風味の凝縮度合い、そして最後は収穫時期の天候や病害でブドウの出来が変わってきます。
収穫時期や発酵期間の情報から感じられるものも
収穫時期が違うとか、熟成期間が違うとかも、その年の良いブドウを収穫して良いワインを作りたいという意図を感じます。収穫時期が早いのは、ブドウの成熟が早いか病害などのリスクがあるかの場合でしょうし、発酵期間が短いのは果実のフルーティーさを残したい意図があるのでは、と読みとれます(普通の酒飲みはそんなことを考えずに美味しく飲んでください)。
ただ、今回の垂直テイスティングご参加の半分はWSET Diplomaホルダーで、そういったところまでわかってくださる方々でした。
テイスティングの順番をどうするか?
ホストのわこさんとしては、このヴィンテージ情報を基に、どんな順番でテイスティングしていこうかと考えます。
まずは、一番難しそうだった2016年から
ワインメーカーさんにとって一番難しかったのかな、と思ったのが2016年。収穫期の秋雨、病害リスクをどうコントロールしたんでしょう。ということでこれを一番手に。第一印象は、チャーミングにまとまってるな、でした。
赤系果実に少し黒系果実の香りもして、作られてから9年経過ですが、まだまだフレッシュ感がありました。クローブのようなスパイスやハーブ感がワインの酸味と合わせて味わいをキュッと引き締めてくれていました。収穫時期を早めて醸造期間をやや短めにしたのはこういった意図があるのかな、などと勝手に納得します。アルコール度数は12.5%でした。
次に収穫時期が一番遅めだった2013年に
次は2013年に行ってみました。収穫時期が一番遅いのと、樽育成で新樽100%、となっていたので、その辺りの違いを感じてみたかったということです。収穫時期が遅いということは、教科書的には凝縮感の強いブドウが期待できるということになります。だとすると、それに新樽100%で育成するということは、ブドウ由来の風味やタンニンを新樽由来の風味や香りと調和させて複雑性を狙っているのか?と読んで、テイスティングしました。
下手の考え休むに似たり。職人技に驚き
確かに、果実味は凝縮して落ち着いた印象になっています。そして、おそらく樽由来のチョコやコーヒーのような香りとしっかりしたタンニンが感じられました。重厚な印象です。あと何年かすると、もっとタンニンが溶け込んで懐の深いワインになりそうな予感はしました。ただ、びっくりしたのは、これがアルコール度数12%だ、ってことです。アルコールに頼らずにこれだけのフルボディが醸し出せる職人技に驚きました。
生産量が少し多めだった2014年が、今飲むには一番という評価
シグナチャーは最後にしたかったので、次は2014年です。生産本数が2013年や2016年より少し多かったというデータなので、そこまで難しい年ではなかったのかな、と勝手に想像してテイスティングしました。
参加の皆さんの間では、今飲むワインとしてはこれが一番、という評価でした。熟成感の入り始めた落ち着いた黒系果実とスパイス、ハーブ、コーヒー、タバコなどの風味が上手くまとまっていて、タンニンも滑らかに全体を支えています。
とても一体感のあるワインでした
他に比べてアルコール度数が少し高めだった(それでも13%)のが、余韻も含めて口当たりの満足感を増してくれたのかもしれません。瓶熟成はまだ期待できますが、とても一体感がある、という表現がぴったりくるワインでした。
樽選抜の2015年を最後に
そして最後は2015年のシグナチャー。桔梗ヶ原メルローの中から、出来の良い樽だけをセレクションしてボトル詰めしたものになります。生産1,400本ですから、225リットルの樽での熟成として5樽が選抜されたということでしょうか。生育環境はジェットコースターのように、あっち行ってこっち行って、という感じでしたが、収穫時期は例年通り、ということで、あとは樽選抜の分期待値が上がります。
サンテミリオンと言われても騙されそう
実際、香りを取った瞬間声が出て笑っちゃいました。フレッシュさを残した黒系の果実味と少しドライフルーツのような果実味が、ヴァニラやナツメグ、チョコ、腐葉土のようなやや控えめな熟成香と旨味が渾然一体となって立ち上ってきました。これ、ボルドー右岸のサンテミリオンと言って出しても10人中8人くらいは騙されます。アルコール度数も12.5%なのに立派なフルボディです。
造り手の皆さん、ご一緒いただいた皆さん、ありがとうございました
このヴィンテージ差、わかっちゃいましたけど、ここまでとは思いませんでした。造り手の皆さんのご苦労に感謝しながら飲まなきゃいけません。シャトー・メルシャンの皆様、ありがとうございました。参加してくださった皆さんも、日本ワインの垂直テイスティングとかしたことない人ばかりでしたが、お楽しみいただけたと思います。
ただ、ホストなのに自分が一番楽しんでいたのかもしれません。
素敵な日本ワイン、たくさんありますが、生産量が少ない
日本ワインにも、こんな素敵なワインがあるんですが、いかんせん生産量が少ないんです。シャトー・メルシャン、日本ワインの大手です。いろんなブランド合わせると直近の販売計画は75万本くらい(輸入ワインとかも含んだ「メルシャン」の1%くらい)らしいですが、今回の桔梗ヶ原メルローは年間2,500本とかで、シグナチャーと合わせても5,000本いきません。ブランド絞って生産しているドメーヌ・タカヒコも全体で10,000本強らしいです。
垂直テイスティング、これからもできますが、ワインは一期一会
日本ワインの垂直テイスティングはこれからもできます!!サステナブルです。ただ、今回と同じ垂直テイスティングは蔵元じゃなければ二度とできないでしょう。
それから、4本とも果実味のフレッシュさを残していて、まだここから瓶熟成します。その意味では、同じラインナップをそろえても開けるタイミングでそれぞれの味わいは変わります。
本当に一期一会でした。これがワインの面白さの一面です。だからワインはやめられないわけですが…
と、今回はグダグダで終わります。

