EUの「簡素化」した環境・人権規制ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第二十七回)正しい「方法」で進めなくなっても、正しい「方向」が守れるか
前回は飲酒の健康リスク訴求のためのラベル規制のお話
前回は、ワインの健康リスクをもっと訴えなきゃダメだ、というWHOのレポートから、無粋なワインラベルが拡がってくるかもしれない、ヤボだねぇというお話をしました。規制ってのは、当然目的があってやるわけで、健康リスクに限らず、規制の「あるべき論」にはなかなか反論しづらいことが多いわけですが、前提条件が変わって規制が現実に合わなくなってきたり、規制による不利益があまりにも大きかったりすると、いろんな摩擦が起きてくるってことですよね。ワインの発がん性警告ラベルってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん
今回は、EUの規制の修正で「あるべき論」から外れないかという硬い話
今回も、欧州での企業に対する規制が、前提条件の変化と不利益の高まりで修正されることになったんですが、それって「あるべき論」と照らし合わせて大丈夫なんでしょうか?というお話をワイン片手にしてみたいと思います。今回とたぶん次回は少し硬めのお話になります。
EUはルールメイキングで存在感を高めようとしている
このNoteでもいろいろ書いてますが、欧州(EU)は、環境や人権など、いわゆる企業のサステナビリティ(持続可能性)に関するルールメイキングを世界に先駆けて行い、先行して対応することによって欧州企業や欧州経済がグローバルに存在感を高めることを後押しすることを目論んできたように見えます。
環境や人権対応「やるべき」に反論は難しい
地球温暖化ガスは削減するべきでしょうし、各企業の製品やサービスに関わる人達の労働環境を含む人権が保証されてキチンと賃金を支払ってもらったりすることは必須でしょう。で、それが自社だけじゃなくて取引先も含めたバリューチェーン(サプライチェーン)全体で行われるべきである!!ということに面と向かって反論することは難しいでしょう。
あるべき姿を目指してまずは情報開示、は正しい「方法」
ということで、欧州ではあるべき姿を目指してまずは情報開示をしっかりやれ、という話になり法令が整備されました。正しい「方法」です。それがCSRD(企業サステナビリティ報告指令)やCSDDD(企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令)といった開示指令なわけです。また、環境面で持続可能な事業の線引きを行う(タクソノミー)ことを求めたり、脱炭素対応が十分ではない国から製品を輸入する場合に事実上の関税を課すCBAM(炭素国境調整措置)の導入を始めたりしています。
負担するのは企業なんです。無茶苦茶大変なんです
これらの措置は、全て企業の負担です。CSRDは、大企業・上場企業に対し、各社が直面する社会問題や環境問題によるリスクと、事業活動が人々や環境にどのような影響を与えるかについて、定期的に報告書を発行することを義務付けるもの、CSDDDはやはり大企業に対して、自社の活動が人権と環境に及ぼす悪影響をデューデリジェンス(特定・予防・緩和)することを義務付けるものです。EU域内の売り上げ規模などによって日本企業にもその指令が及ぶため、影響が懸念されてます。タクソノミーの規定に従って事業の線引きをするのも、CBAMの対象品目を申告するのも企業です。大変です。
でも反対するのは難しいし
とはいえ、やるべきことをキチンと決めて、それに従って進めていきましょう、というのは正しい「方法」であるとは言えますので、なかなか反対するのは難しかったでしょう。専門家の皆様、乱暴な議論でゴメンナサイ。
いずれにしたって人や時間を割かなきゃいけない
ただ、自社の温暖化ガス排出量や水の使用量とかは分かったとして、取引先がどうなってるかとかはなかなかわからんです。自社で働いている人達が劣悪な労働環境にいないことは(たぶん)分かってますが、原材料の鉱物の採掘現場まで把握してますか?と聞かれたら、知らんがな。になることは十分ありえます。さらに、それを報告開示するなんて、人員や時間も含めてコストがかかってしょうがない。
だから儲からないんだ、って言われたりもする
そんなことに経営資源を浪費するから企業の生産性が落ちるんだ、競争力が無くなるんだ、利益が上がらないんだ、という騒ぎになってきたわけです。それに輪をかけたのがトランプ大統領の返り咲きかもしれません。
トランプ大統領のおかげでEUの規制の意図が薄らいだかも
アメリカ政府が、気候変動問題に対する国際的な取り組みであるパリ協定から離脱を表明したため、EUや欧州企業が先行してまじめに地球温暖化ガス削減に取り組みを続ける(=コストをかける)ことの意味が(企業の利益を高めたり、存在感を高めたりという点では)薄らいできたと言えます。また、再エネ導入をしようとすると再生可能エネルギー関連の設備コストが上昇する一方で再エネ価格自体は上がらず、導入気運がしぼんでいるという面もありそうです。
企業の負担「簡素化」が発表された
ということでいろんな議論がされて、2月26日に正式に開示指令の「簡素化」が発表されました。この中では、CSRD、CSDDD、EUタクソノミーとCBAMについて、対象になる大企業の定義を変更したり、報告の監査の保証を厳格には求めないといったことで大企業の事務負担を25%以上、中小企業の事務負担を35%以上削減することを目標にします。
今年の欧州株のパフォーマンスと関連?
コストかけて環境とか人権とかのサステナ課題に取り組んでも、やってるのは欧州企業だけでアメリカとかアジアとかの企業はやらないよね、だと欧州企業自滅になるのでは、という懸念が株式市場にあったとすると、欧州株のパフォーマンスが今年に入ってから良好な背景の一つは、この足枷が軽くなるという期待が関連しているのかもしれません。
「簡素化」は取り組みの後退ではない、とEUは強調
ただ、規制が「簡素化」されるということは、規制が緩和されて、サステナ課題への取り組みが後退するという危惧にも繋がります。この点について、フォンデアライエン委員長をはじめとして、これは取り組みの後退ではない、脱炭素目標などは維持するということを強調しています。
企業は環境配慮の必要性は認識。「方向」は変わらないが問題はスピード
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