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OIV100周年、次の100年もサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第十七回)グローバリゼーションを鏡映ししているワイン産業

今回はOIV(国際ワイン・ブドウ機構)100周年から見える話です

毎回、ワインの話題に行ったり行かなかったりしていて、読んでいただく方には戸惑いもあるかもしれないのですが、私の中では一貫してます。ワイン産業は、産業全体として考えたときには気候変動や雇用者の人権も含めていかにしてビジネスモデルとしてサステナブルにしていくのか、という問題を抱えていて、これは企業経営や様々な経済の動きと共通するところが多いと思っていますので、同じ軸で考えていきたい、といことです。この辺りは第二回で書きました。
ワインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん

伝統的酒造りの世界文化遺産登録、おめでとうございます!!

で、今回の本題の前に、ユネスコが日本酒などの伝統的酒造りを世界文化遺産に登録したというニュースが入ってきました。おめでとうございます。日本酒とワインの比較とかは、きっとこの機会にいろんな方がちゃんと紹介すると思います。なので、私としては書くことによる付加価値を感じないので書きません。

日本酒はワインのような人権問題は起きないのでは

ただ、少しだけ申し上げると、ワインと比べて日本酒のほうが人的要因に左右される部分が大きくて、一方で大量生産品での機械化プロセスもしっかり機能している印象です。結果として工業製品的に価格が安定しやすい、ということになってるのかなと思います。しかも、コメの生産がある意味保護されているので、ワインのような原料栽培における人権問題が起きないのでは、というのは言っておいても良いかな、と思います。

OIV100周年もおめでとうございます

さて、今回の本題です。このNoteでも使っている世界のワイン需給のデータを集計・発表したり、ワイン用ブドウ品種の国際認証などをしたりする国際機関、OIV(International Organisation of Vine and Wine、国際ワイン・ブドウ機構)が今年で100周年を迎えたとのことです。

世界のワイン産業100年を振り返ると、自分の理解不足を痛感

それを記念したプレゼンの資料が公表されているのですが、改めて見ると、自分のワイン産業に対する知識や理解が甘かったのかな、と思わされるところがあります。
https://www.oiv.int/sites/default/files/2024-11/OIV_Conference_29_November-2024_0.pdf

2024年の世界のワイン生産量はピーク比で4割も低い水準

例えば、世界のワイン生産量のピークは、なんと1979年でした。当時の生産量は385mhl(百万ヘクトリットル)で、2024年の予測(後で述べます)は230mhlですから、ピークから4割も低い水準です。消費のほうは、1970年代から80年代にかけて300mhl弱くらいの水準ですから、毎年(年ごとの生産量変動も大きかったので、均して350mhlくらいとすると)50mhl、つまり毎年15%くらいの供給過剰だったということです。

1980年代の供給過剰の程度は現状の比ではなかった

OIVのデータだと、2023年の生産量が237mhl、消費量が221mhlですので供給過剰は7%くらい。私がたびたび騒いでいる現状のワインの供給過剰問題の比ではなかったわけですね。

この百年間の世界のブドウ園面積(棒グラフ)、ワイン生産量(赤)、消費量(黄色)、貿易量(水色)。いろんな想像が掻き立てられるのは私だけでしょうか?

当時の供給過剰問題はヨーロッパの問題

しかも、1970年代はワインの生産・消費はヨーロッパが圧倒的に多かったので、それだけ供給過剰問題はヨーロッパのワイン業界にとって影響が大きかったということです。どれだけ飲んでたんだ?なんですが、思い起こすと1990年代に私が海外出張に行き始めたころは、ビジネスランチで当たり前のようにワイン飲んでました。

ヨーロッパの農業政策や飲酒対策の背景への理解が深まります

こういう話を知っていれば、当時「Wine lake」とかいう言葉が出てきた背景とか、なぜEUが当時ワインの畑を潰すのに補助金出したのか(で、その流れで今も出してるのか)とか、社会的にワイン(アルコール)消費への逆風が強まったとかの流れがもっとすんなり入ってきたのに、と思うところもあります。

アルジェリアとワイン、って私は知らなかったです

それ以外にも、この資料を見ていて思うところがいろいろあります。いくつか取り上げましょう。ヨーロッパ以外の地域の生産量を見ると、第二次世界大戦前はアフリカの生産量が多くて、それが1960年代位から減少してます。なんだろ?
実はアルジェリアなのです。アルジェリアは現在イスラム教国ですから、ワインとは関係ないイメージが強いと思いますが、元はフランスの植民地でした。サッカーで歴史に残る名選手だった、ジネディーヌ・ジダンなどアルジェリア系の人はフランスで当たり前のように目にします。

100年間のヨーロッパを除く地域別ワイン生産の推移。北米(黄)、オセアニア(紫)、アジア(緑)の生産が増えたことはよく教わるのですが、アフリカ(赤)とか南米(オレンジ)の話ってあんまり聞かないですよね。

フィロキセラ禍がフランスワインに壊滅的打撃、はよく知られた話

で、そのアルジェリアとワインです。19世紀後半にアメリカからヨーロッパにフィロキセラというブドウの根に寄生してブドウを枯らしてしまう虫がやってきて、フランスのワイン生産に壊滅的な被害をもたらしました。フランスの生産者はフランス以外の代替生産地を探します。今のワインの教科書だと、それがスペインのリオハなどのワイン生産を発展させた、ということになっています。

アルジェリアはフランスの植民地としてワイン生産の追い風

どうやら、その時に植民地にして支配を強化していたアルジェリアでのワイン生産にも追い風が吹いたようです。地中海性気候だし、ワイン用のブドウ生産に適した気候ですよね。で、そのワイン生産が、アルジェリアの独立(1962年)後、イスラムの教えに従ってなのかは定かではありませんが、フランスとの経済的つながりが弱くなってしまったため落ち込んでしまったということですね。

南米の話はアルゼンチンの強烈なインフレ&経済危機と関連

こんな話は、日本でワインの勉強をしているだけだと全然入ってきませんが、世界の動きを映しているという点で面白くないですか?それでいうと、1980年代以降南アメリカ大陸のワイン生産・消費量も落ちているのですが、これはアルゼンチンのインフレと経済危機の影響が大きいようです。アルゼンチンの人たちが強烈なインフレのおかげで安ワインがガブ飲みできなくなり、国内消費が落ちました。その代わり、量から質重視に変わり、輸出市場を指向するようになった、というのはDiplomaの教科書にも書いてありました。

世界のワイン貿易量も1990年代から大きく上昇

世界を目指すということだと、世界のワイン市場に占める輸出の割合が1980年代からじりじり上がり始め、1990年代から大きく上昇しています。2021年にいったんピークをつける形になっていますが、世界のワインの半分弱が国境を越えて旅をして異国の人々を楽しませてくれるようになっています。

Internationalisatin indexと言ってますが、要は生産量に占める貿易(輸出)量のことのようです。まあ、それだけワイン産業が国際貿易に依存しているということの現れですね。

グローバリゼーションとの関連

背景は、需要面と供給面の変化で整理できるわけですが、大きな流れとしては、国際貿易が発展するという、グローバリゼーションと関連していると言えます。様々な形で自由貿易が広がり、二国間・多国間で貿易の自由化が進みました。アルコール飲料は、各国がそれぞれの社会情勢や政治情勢に応じて様々な規制をかけます。ただ、所得水準が上がるにつれて消費者のニーズ、いろいろな産地のいろいろなお酒を飲んでみたい!!というニーズは高まります。またそこにうまくマーケティングしていくやつらがいるんだ(で、付け込まれて飲むワシらもいるわけですが)。

自由貿易の拡大と輸送技術の発達

自由貿易が広がるということは関税が下がったりして貿易にかかわるコストは下がるので貿易しやすくなるし、冷蔵など輸送技術が向上して質を落とさずワインを輸送することもできるようになりました。こうやって世界のワイン市場に占める輸出品の割合が上昇しました。ということで、我々は世界のワインを日本に居ながらにして楽しめるわけです。

100年間の大きな変化がデータから見える

OIVの100年間のデータは、ワイン産業を取り巻くこうした大きなトレンドの変化を鏡映ししてくれているわけですね。データの変化からストーリーを読み解く、なんてのは以前のお仕事しているときの得意技だったので、そんなのを活かしたお話でした笑

ワイン産業がサステナブルならOIVも

まあ、ワイン産業がこうやって世界の情勢を反映する形でこれからも動いていくということであれば、地球温暖化や消費者の嗜好の変化なども含めて、国際的なワインやブドウの生産や消費動向をウォッチしてまとめていくOIVは100年後もサステナブルなんでしょう。毎回、タイトルを「~ってサステナブルですか?」で統一しているので、ちょっと苦しい流れにはなりましたが、何とかまとまりました。

2024年の世界のワイン生産量は前年比2%減

次に、このプレゼン資料にも含まれている、2024年のワイン生産量の予想値についてです。OIVによると、2024年のワイン生産量は231mhl(227~235mhlの中間値)と予想されています。これは、2023年比2%減で、1961年の220mhl以来の低水準になるとのことです。異常気象の影響が各所に出ているというのが最大の要因として挙げられています。最近もボジョレー・ヌーヴォーの話をしたときに、ブルゴーニュとボジョレーを合わせて前年比3割減の見通しなどとご紹介しました。

イタリアが世界一奪還と予想

EUの生産量は全体で139hml(前年比-3%)と予想され、昨年世界トップを奪還したフランスは、悪天候の影響を大きく受けて生産が前年比-23%と予想されています。一方、イタリアが昨年の大幅な落ち込みから盛り返して前年比+7%、スペインも同様に前年比+18%と予想されています。2023年はイタリアで大雨、スペインで大旱魃が起きて、この両国の落ち込みの影響が大きかったのですが、今年はさすがにそこまでの悪天候にはならず、ということのようです。結果、イタリアが世界一の座を一年で取り返すことになるとOIVは予想しています。

イタリア(世界1位)、フランス(2位)、スペイン(3位)の過去5年生産量と今年の予想です。イタリア、トップ奪還ですが、一昨年までの水準には戻らないですね。

アメリカの生産は3%減

世界第4位の生産国、アメリカは前年比-3%と予想されています。カリフォルニアの天候要因は全体にさほど悪くない(パソロブレスあたりで春の遅霜とかいうニュースはありましたが)と伝えられています。前年比-3%(ただし5年平均並み)と予想されています。

南半球は平年並みだが状況は国による

一方南半球では46mhl(前年比-2%)で、過去10年平均並みとの予想になっています。ただ、国によって状況がかなり異なり、チリが前年比-15%、NZが同-21%と大きな落ち込みになっています。チリについては春の寒さで生育に影響が出たことと首都サンチャゴ周辺(ということは産地としてはマイポバレーですね)やビオビオバレーなど一部地域の洪水の影響が指摘されています。NZでは、マルボロ地域での春の霜害が原因として挙げられています。

南半球主要国の生産量と予想。左からアルゼンチン、オーストラリア、チリ、南ア、NZ、ブラジル。チリの減少の仕方が気になります。

チリのトレンド変化が気になります

毎年天候要因で収量が変動するのはしょうがないのですがチリのトレンドはちょっと気になります。チリの生産量は3年連続減少で5年平均値に対して21%下ぶれています。天候要因以外の何かが起きている可能性があります。OIVのレポートでは指摘されていませんが、ワイン用ブドウよりも金になるさくらんぼやキウイ、柑橘類の生産が増えているという話もあります。

チリのワイン産地としての立ち位置が変わる?

その一方で、大ワイナリーによる大量生産志向に対して小規模生産者がクオリティ志向を強めている動きも出てきているようです。ここから量と質が変化して、チリに対して一般に抱かれているワイン産地のイメージ(たとえば、自転車マークのエチケットのボトルに入った、「ザ・チリカベ」のようなお手軽でわかりやすいワインの生産地)が変わるのかどうか、注目したいです。

世界の需給バランスはどうなる?

さて、2024年の世界のワイン生産量が減るということで、ワインの需給バランスが改善するのでは?という話にも注目したいと思います。2023年の世界のワイン消費量は221mhl(生産量は237mhl)でした。今年の消費量はまだわかりませんが、全体としては弱含み横ばい(これ、相場用語ですよね笑)。つまり、基本横ばいだけれど、どっちかというと少し減少というイメージじゃないでしょうか。

世界の消費量が増える感じはないですよね

景気に合わせて考えると、ヨーロッパは(トレンドとしてはワイン消費が減少している中)景気沈滞ムード。北米は、(2024年以降トランプ新大統領の政策の影響がどう出るかですが)景気は多少は上向きなので、減りはしないかな。で、中国はお上の汚職撲滅綱紀粛正の影響で、引き続き減るんでしょう。日本は、円安の影響がどう出るかですが、残念ながら世界の需給バランスを変えるほどの市場サイズではないので、もっと頑張りましょう。です。

量と価格の二極化?

一方、2024年の生産量が増えるのは、2023年に大きく落ち込んだイタリアの大量生産地域とかスペインとかなので、どちらかと言えば低価格帯の供給量が増える気がします。量の面でフランスのブルゴーニュとかが落ち込んでも、この辺は価格を上げてもある程度売れるので、ワイナリーのダメージはそんなに大きくなく、困るのはブルゴーニュ好きの消費者でしょう。

全体として考えると、需給バランスがクリアに改善するというよりは、低価格帯は供給量も増えて価格は上がりにくく、一方で高級価格帯は供給減で価格が上がりやすく、という二極化になる可能性の方が高いんじゃないかと思います。

普段飲みにはお財布が痛まないかな、と希望的観測

ということで、2024年ヴィンテージ(「新酒」以外のものは南半球産が2025年以降、北半球産は2025年後半ごろからお店に出てきます)、プレミアムワインはプレミアムのままですが、ある程度産地を知ったうえでお家で楽しく飲む分にはお財布は(円安次第ですが)そんなに痛まないんじゃないかな、という希望的観測を年末年始に向けて抱くわこさんでした。

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