サナエノミクスの「ホクホク」と、生活が苦しい理由——株高・政府資産増の裏側で起きていること
サナエノミクスの「ホクホク」と、生活が苦しい理由
——株高・政府資産増の裏側で起きていること
高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」、いわゆるサナエノミクス。
日経平均は7万円を突破し、企業利益は過去最高水準、政府の外貨準備やGPIFの資産も膨らんでいる。表面上は「強い経済」が実現しているように見える。
しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の山﨑慧氏の分析を読むと、別の景色が浮かび上がる。
名目は伸び、実質はほぼ止まっている
名目GDPは680兆円近くまで拡大した一方、物価変動を除いた実質GDPは約590兆円。2017年の水準をわずかに上回る程度で、ここ10年ほぼ横ばいだ。
名目の増加は「経済成長」ではなく、主にインフレによるものだという指摘は、数字の上では妥当に見える。
2022年以降のインフレ要因は、ウクライナ危機によるエネルギー高、コロナ後のサプライチェーン混乱、急激な円安の三つ。これにより日本は「ゼロインフレ経済」から「インフレ経済」へ構造転換した、というのが山﨑氏の見立てである。
企業と政府は恩恵を受け、家計は圧迫される
企業セクターは価格転嫁力のある大手を中心に利益を伸ばし、TOPIXの1株当たり純利益は直近10年でほぼ倍増。円安メリットも加わり、株価上昇を後押ししている。
政府セクターも、円安による外貨準備の評価益や、株高によるGPIF資産の増加で「ホクホク」状態。高市首相自身が外為特会について「円安で今ホクホク」と発言したのは、この構図を端的に示している。
一方で国民セクターは厳しい。消費者景況感と企業景況感の乖離は2021年頃から拡大し、コメを含む食品価格、家賃・不動産価格の上昇が家計を直撃している。家計消費は12年近く伸び悩んだままだ。
ここに「国民の富が企業と政府に移転している」という構造が浮かび上がる。インフレは、価格転嫁できる側とできない側の間で、所得分配を大きく変えている。
低成長の構造的要因は「労働投入」の減少
さらに深刻なのは、潜在成長率を押し下げる労働投入の減少だ。少子化の加速と、これから始まる団塊ジュニア世代の大量退職を考えれば、この傾向は今後さらに強まる可能性が高い。
資本投入や生産性向上だけでは補いきれない「労働力の壁」が、すでに成長の天井を押し下げている。
サナエノミクスは「成長に伴う税収増」を前提に持続可能性を語るが、実質成長がほとんど得られない状況では、その前提自体が危うい。
批判的に見た場合のポイント
山﨑氏の分析はデータに基づいており、名目と実質の乖離、セクター間の景況感のズレ、資産効果の偏在を冷静に指摘している点は評価できる。
一方で、以下のような疑問も残る。
* 「責任ある積極財政」の具体的な成果指標が、株価や税収といった「結果指標」に偏っていないか。実質所得や家計消費の回復が後回しになっていないか。
* 食料品消費税の引き下げは「最低限の手当」として言及されているが、それだけでインフレによる実質購買力の低下を相殺できるのか。
* 労働投入の減少は人口動態によるものであり、短期の財政政策では解決しにくい。移民や女性・高齢者の労働参加率向上など、より踏み込んだ供給側の議論が不足していないか。
* 「ホクホク状態」を享受する政府・企業側に、国民への還元を強制する仕組み(例えば法人税や資産課税の再設計)が、十分に設計されているのか。
「株高=経済好調」という単純な図式は、すでに崩れている。
名目の数字が踊り、実質の生活が苦しいという現状を直視しない限り、サナエノミクスは「一部のセクターを潤すインフレ政策」にとどまるリスクがある。
まずは、国民セクターの実質的な負担軽減を最優先に据え直す必要があるだろう。
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