プロ野球20球団構想に群がる政治家たち――「本物のスポーツ」を知らぬ者が演じる、名売りのための便乗劇
プロ野球20球団構想に群がる政治家たち――「本物のスポーツ」を知らぬ者が演じる、名売りのための便乗劇
いま、メディアは「プロ野球20球団構想」や、国会議員たちによる「野球の未来を考える議員連盟」の動きを、あたかも球界の救世主であるかのように報じている。
最高顧問に岸田文雄氏、政調会長時代に旗を振った高市早苗氏、そして幹事長の小泉進次郎氏。自民党の有力政治家たちの名前がズラリと並ぶ。しかし、この記事を読んだとき、私は強烈な不快感と白々しさを覚えざるを得なかった。なぜ、球界の未来を語る場に、これほど政治家がしゃしゃり出てくるのか。彼らの魂胆は透けて見える。野球人気や「王貞治」「栗山英樹」という球界のレジェンドたちのネームバリューに便乗し、自らのクリーンなイメージ作りと名前売りに利用したいだけではないのか。
### ドジャーススタジアムで知った「本物」の衝撃
私は50年前、ドジャーススタジアムのダグアウトに立ち、当時のミスター・ドジャースであったスティーブ・ガービー選手と同じ空気を吸った。当時はまだ、日本の「野球」とアメリカの「ベースボール」はまったく違うスポーツだと言われていた時代である。
そのとき目撃した光景は、今でも私の脳裏に鮮烈に焼き付いて離れない。外野手が背後の壁を恐れず、全力でフェンスにぶち当たった。その瞬間、スタジアム全体に響き渡った「ドン!」という凄まじい衝撃音。腹の底まで震えるようなその音を聞いたとき、私はこれこそが、命を懸けて己の肉体をぶつけ合う「ベースボール」という本物のスポーツの凄み、ダイナミズムなのだと魂で理解した。
あの圧倒的な本質を知る者から見れば、今の政治家たちが「タイガースファン」だの「内閣府猛虎会」だのと身内のサークル活動をアピールし、球界の改革を語る姿は、あまりにも軽薄で、おままごとのようにすら映る。今の政治家の中に、若い頃に命を削るような本当のスポーツをやり、あるいはその凄みを五感で体感し、自らの言葉でその本質をはっきりと言える人間が一人でもいるだろうか。
### 欧米の政治家が球団拡張の旗を振るか?
考えてもみればいい。メジャーリーグ(MLB)や欧州のプロサッカーリーグにおいて、現職の総理大臣や大臣クラスの政治家が「球団を増やそう」などと議連を作って大々的にパフォーマンスをするような国があるだろうか。そんなニュースは聞いたことがない。
スポーツの発展やエクスパンション(球団拡張)は、地域の熱量、企業の投資、そして何よりファンの支持という「市場と文化の成熟」によって自律的に行われるべきものだ。国家や政治権力が、景気対策の道具(「日本再生ビジョン」などというお題目)として上から与えるものでは断じてない。彼らが「子供たちの野球離れ」を憂うポーズをとるたびに、政治の点数稼ぎに文化が消費されていることに寒気がする。
### パ・リーグの進化と、セ・リーグの怠慢
日本のプロ野球がここまで歪んだのは、政治のせいではない。球界自身の構造問題だ。
かつて私がnoteに書いたように、パ・リーグがこれほど強くなったのは「ダーウィンの法則(進化論)」そのものである。人気にあぐらをかけない過酷な環境のなかで、各球団が必死に知恵を絞り、地域に根ざし、ファンを獲得するために血の滲むような自助努力を続けて適応してきたからこそ、今の隆盛がある。環境の変化に必死で適応した者だけが生き残るという、冷厳な真理がそこにはある。
一方でセ・リーグはどうだ。「巨人」という絶対的な老人の支配下で、何ら自分自身で努力をすることなく、ただテレビの放映権料と過去の遺産にぶら下がり、思考停止のまま時間を過ごしてきた人間ばかりではなかったか。この体質の差こそが本質であり、それを無視して球団数だけを増やせば解決するという発想自体が極めて浅はかである。
球界自体の地殻変動と自助努力によって動くべき地平に、なぜ今さら政治家が割り込み、手柄の横取りを画策するのか。
### 政治家よ、名前売りのために文化を汚すな
王氏や栗山氏といった球界の偉人たちの危機感は本物だろう。しかし、彼らの純粋な危機感を、政治家が自らの議席や人気の担保にするために「消費」させてはならない。
日本のスポーツ文化に必要なのは、政治家の肝煎り提言などという上滑りのシナリオではない。現場の人間が、命懸けでボールを追う選手たちが、そしてそれを支える地域社会が、いかにして適応し、本物の価値を引き出していくかである。
メディアもメディアだ。大物の名前が出ればすぐに「本気で動いた」と書き立てる。本質を見失い、権力者のパフォーマンスを垂れ流すだけのジャーナリズムは、地方の闇を黙殺する姿勢とも地続きであり、この国の精神的な貧しさを象徴している。
これ以上、政治の点数稼ぎのためにプロ野球を利用させるな。本物のスポーツは、君たちの集票道具ではない。
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