「本を街に解放する」という理想と、私が現場でぶつかった現実「本屋をなくせば本は売れるかもしれない」

「本を街に解放する」という理想と、私が現場でぶつかった現実

「本屋をなくせば本は売れるかもしれない」

この記事を読んで、私は非常に興味深く感じた。

なぜなら、実は私自身も似たような発想を昔から考えていたからである。

料理本は食品売場へ。

ペット本はペットショップへ。

旅行本は旅行代理店へ。

映画原作は映画館へ。

本を「文庫」「新書」「実用書」という出版社や書店側の都合で並べるのではなく、人々の生活の中へ戻していく。

この発想自体には大いに賛成である。

むしろ今後のリアル書店が生き残るためには、そのくらいの発想転換が必要だろう。

しかし、私は過去に似たようなことを実際に考え、試そうとして挫折した経験がある。

理由は単純だった。

棚は作れる。

だが補充ができない。

これが現実だった。



一般の人には分かりにくいかもしれない。

従来の書店は、

・文庫
・新書
・辞書
・ビジネス書
・ベストセラー

という分類で棚が構成されている。

だから新人でも補充できる。

どこに何を戻すか分かるからである。

しかし「生活提案型」の棚は違う。

例えば、

「犬と暮らす人生」

というテーマ棚があるとする。

そこには犬の飼育本だけではなく、

エッセイ

写真集

獣医学

しつけ本

小説

絵本

まで混在する可能性がある。

最初に作ることはできる。

問題はその後である。

売れた本を誰が補充するのか。

新刊が出た時に誰が入れ替えるのか。

そして何より、

その棚の思想を誰が継承するのか。

ここが難しい。



実際には補充担当者が変わるたびに棚が変わる。

担当者の知識で変わる。

担当者の好みで変わる。

担当者の経験で変わる。

結果として最初に作った世界観が崩れていく。

私はこれを何度も見てきた。

だからこの記事を読んで、

「理論としては正しい」

しかし

「運営は想像以上に難しい」

と感じた。



さらに言えば、これは出版業界だけの問題ではない。

日本の多くの組織が抱えている問題でもある。

優れたアイデアは作れる。

優れた企画も作れる。

しかし継続運営できない。

属人的だからである。

特定の担当者がいる間は機能する。

その人が異動すると終わる。

これは企業でも行政でも同じだ。



ドラッカーは組織の条件として、

「仕組みとして再現できること」

を重視した。

私はこの記事の発想は素晴らしいと思う。

しかし実現するには、

「誰でも補充できる」

「誰でも維持できる」

「担当者が変わっても続く」

という仕組みまで設計しなければならない。

そこまで到達して初めてビジネスモデルになる。



書店が衰退した原因は、本を読む人がいなくなったからではない。

本との出会いを設計できなくなったからだ。

しかし同時に、

本との出会いを維持する仕組みも作れなかった。

私はこの記事を読みながら、

理想の正しさと現場の難しさの両方を感じた。

そして今でも思う。

本の未来は確かにある。

だがその未来を支えるのはアイデアだけではない。

毎日の補充であり、棚の維持であり、地味な運営の積み重ねなのである。

本当に難しいのは棚を作ることではない。

棚を生かし続けることなのだ。

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