光粒
-追憶のフラグメント #40 -
会社で掃除当番になり、
玄関を担当することになった。
マットをめくると、
その下に細かい砂がたまっている。
靴で踏まれて砕けたような、
さらさらとした粒。
指で触れてみると、
やけに懐かしい感触だった。
その瞬間、
あの頃を思い出す。
砂に水を混ぜて、
ひたすら丸めていた。
手のひらで転がして、
崩れては、また整える。
最初はうまくいかない。
少し強く握れば割れて、
弱すぎると形にならない。
それでも、
何度も繰り返しているうちに、
少しずつ丸くなっていく。
ある程度かたちができたら、
あの細かい砂を使う。
玄関マットの下にたまった、
ほこりみたいな粒。
それを、そっとまぶす。
すると、
表面が締まって、
少しずつ光りはじめる。
そこから先は、
人それぞれだった。
ひたすら磨くやつもいれば、
途中で満足するやつもいた。
誰のが一番かなんて、
決まっていないのに、
なぜかみんな、
自分のやり方にこだわっていた。
ふと、手を止める。
今は、
同じように砂に触れているのに、
あの頃のように夢中になることはない。
ただ、
あのときの手のひらの感覚だけが、
変わらず残っている。
マットを戻して、
手についた砂を払う。
さらさらと落ちていくその感触が、
少しだけ、やさしかった。
後書き
『光粒(こうりゅう)』
ただの砂だったものが、
あの頃は、特別なものを輝かせる存在だった。
同じものでも、
どう見るかで意味は変わる。
手のひらで感じていたあの粒は、
きっと、何かを形にしようとしていた時間そのものだった。
今は、ただ掃き取るだけの砂。
それでも、
ふと触れたとき、
あの頃の感覚が静かに戻ってくる。
価値は、物の中にあるんじゃなくて、
向き合っていた時間の中にあったのかもしれない。
〜4410〜
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