痛熟
-追憶のフラグメント #38 -
最近、炭酸を飲まなくなった。
健康のことを考えて、
なんとなく避けるようになっていた。
でも、
ふとした拍子に飲みたくなって、
久しぶりに口にする。
一口目。
喉の奥に、
あの刺激が弾ける。
少しだけむせて、
思わず顔をしかめる。
その感覚で、
子どもの頃の、
あの一口を思い出す。
初めて飲んだ炭酸。
強くて、痛くて、
うまく飲み込めなかった。
でも、
なんとなく『大人の味』みたいで、
少しだけ背伸びした気がしていた。
何度も挑戦して、
少しずつ慣れていった。
あの頃は、
飲めるようになることが、
ちょっとした成長だった。
今は、
当たり前に飲めるのに、
そもそも手に取らなくなっていた。
もう、
慣れる必要がないからかもしれない。
それでも、
久しぶりに感じたあの刺激は、
どこか懐かしくて、
少しだけ、
あの頃の自分に戻った気がした。
後書き
『痛熟(つうじゅく)』
あの頃は、
ただ「痛い」と感じていた刺激が、
今では、どこか懐かしく、
やわらかく響いている。
変わったのは、味じゃなくて、
それを受け取る自分のほうなのかもしれない。
背伸びしていたあの頃と、
何気なく選ばなくなった今。
そのあいだに流れた時間が、
ひとつの感覚を、静かに“熟”させていた。
あの一口の痛みは、
きっと、成長の入口だったんだと思う。
〜4410〜
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