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フィクション *残酷なカフェ*

1人でカフェに行った

店内に一歩足を踏み入れると

抑えめの間接照明は
人の顔にじかに光を浴びせるなんて 野暮なことはしない計算が し尽くされていた

壁も天井も ベージュとも土色とも言いがたい
汚れでも劣化ともつかない まだらでアンバランスな あくまでも自然な色合い
凹凸とまではいかない ざらつきを感じさせる 質感は より一層 光の直線性を複雑にさせている

壁や天井にあたって 屈折してもなお 灯りとして役に立つよう置かれたスタンドが 1人掛けのソファーの横にスッと ある


この店のイメージを一言で言うなら
“あなぐら”  “すあな”  かな
太古の昔のDNAが 今 急に呼び起こされ 反応しているかのように 安心感と休息感に包まれてしまう


まだ 店内に足を踏み入れただけだというのに


ゆったり座ろうか

それとも居住まいを正そうか


ここは この空間に溶け込むように 床になるべく近づいて さもこの店の常連客で この席はいつも私が座っているのですよと言わんばかりに 馴染み 落ち着き 余裕ある風体でいることがよい判断だろう

今しがたまで 誰かが座っていたかのように 人型に形が記憶されている 革張りのダークネイビーのカウチソファー
湿気の多いこの時期 腰を下ろすと 体重をかけた瞬間にほんのりと 革本来の証明を醸してくる


ソレは 嫌いじゃない
そうだ 彼らだって生き物だったのだから
加工され 人の手が加えられて色づけられ この様な姿になってはいるが 今 肌と肌を触れ合わせているようなものなのだから

時を越え 温もりを感じても不思議はない


外はこの時期にしては気温が低く しまい損ねたジャケットを羽織っても十分なほどだ
しかし 来週にはそれはきっと邪魔者扱いされることになるだろう

なんとも人は自分勝手で自由自在に過ごせる世の中になったことか


さて
ソファーで肌と肌を合わせているひと時 何を飲もうか


温かいコーヒーか
それとも 時期に合わせた 氷が入ったメニューか


メニューは店の雰囲気に合わせて カタカナの長い文字が優雅に間隔をあけて並んでいる
フォントまで 美味しさを口添えしているかの様だ

口にしたこともないカタカナの羅列を 自らの口で発声するには 少々練習の時間が必要だし 勇気も必要だ
聞いてくれる人が 心優しい人であることも重要である

間違いのない 安定のコーヒーでやり過ごそうか


外は雨が降り出したのか 長い傘の雨粒を払って畳む姿が目につく

カフェの中に傘立てが準備された様だ


心なしか 店内の湿度が上がる

気温はそれほど 変わらない

なにを頼もうか
そろそろ決めなくてはならないな

氷入りのものは いずれ中身が薄まってしまい残念な事になるので やはりここは 温かい飲み物にしておこう
たとえ冷めてしまったとしても 薄まったそれよりも ただ冷たくなった物の方が 良いと思えるから


こんな小さなことを いちいち考えながら注文する癖は いい加減卒業したいものである



“ご注文の ハウスブレンド ラージサイズ マグカップです
大変お熱いですので お気をつけください
ごゆっくりどうぞ”

早口言葉の早回しのような言葉を 全部聞き取れて 理解しましたみたいな顔をして配膳してもらった

大っきいマグカップに スレスレまで入った
今日のオススメ ハウスブレンド ラージサイズ

トレーに乗せなければ 危険な重さなのだろう
運ぶ人も慣れてはいるだろうが 大変そうだ

ネームカードよりひと回り小さなベージュの再生紙には

    ⭐︎ごゆっくりお召し上がりください☆

と書かれている

こんな量は 慌てたところで すぐには減らないし せいぜいこのソファーで寛がせていただこう
  外の雨が小降りになるまでは。

‥‥紙の裏にも何かが書いてある


お眠りになるお客様は 他のお客様のご迷惑になりますので お声がけさせて頂きます

目をつぶられますと 判断がつきかねますので どうか 目を開けたまま お寛ぎくださいますよう
お願いします       店主


   
残酷なカフェだな




フィクション*残酷なカフェ*

なんのはなしですか