見出し画像

『見えるか保己一』—偉業の影から考える、キャリアに必要な「見えないものを見る力」

単なる伝記ではない。才能、執着、孤独、そして周囲を傷つけながら進む人間の業を読む。

見えるか保己一』を読み終えたあと、しばらく心がざわついた。
これは単なる偉人伝ではない。全盲の国学者・塙保己一が、巨大叢書『群書類従』という偉業へ向かっていく物語でありながら、その光の部分だけを描いてはいない。

むしろ、本書の読み応えは、偉業の裏側にあるドロドロした影にこそある。

才能がある人間は美しい。
努力を続ける人間は尊い。
逆境を越えて成果を出す人間は、多くの人に勇気を与える。

しかし、その一方で、才能や執着が周囲の人を置き去りにすることがある。
努力が、他者への鈍感さを正当化してしまうことがある。
「自分には使命がある」という強い思いが、家族や弟子や仲間の痛みを見えなくしてしまうことがある。

本書は、その苦さを容赦なく突きつけてくる物語である。

私は大学教員として、多くの学生や社会人のキャリア形成に関わってきた。
その立場から読むと、本書は「偉人の生涯を知る本」というより、成果を出す人間が何を見落としやすいのかを考える本である。

キャリアにおいて、私たちはどうしても「何を成し遂げたか」に目を向ける。
資格を取った。昇進した。論文を書いた。事業を立ち上げた。賞を取った。社会的に評価された。

もちろん、それらは大切である。
だが、本書は問いかけてくる。

その成果の隣で、誰が黙っていたのか。
その努力の陰で、誰が傷ついていたのか。
自分が「見えている」と思っていた世界は、本当に見えていたのか。

この問いが、読後も重く残る。

この本を3行で要約すると

『見えるか保己一』という本のポイントは、全盲の国学者・塙保己一の偉業を、単なる美談としてではなく、人間の執着や孤独とともに描いた点にある。
『群書類従』という巨大な仕事の裏で、妻、娘、弟子、友人たちとの関係が歪み、保己一自身の「見えなさ」が浮かび上がる。
本書は、目が見えるかどうかではなく、他者の痛みや沈黙を見ようとしているかを問う物語である。

読後に残った感覚

心が苦しくなる部分が何度もあった。
保己一の努力や才能には圧倒される。しかし、その圧倒的な才能が周囲の人間を幸福にするとは限らないところが、本書の怖さである。

偉人として語られる人物にも、弱さ、傲慢さ、執念、嫉妬、不信がある。
そして、その人を支える周囲の人にも、それぞれの人生がある。

本書は、そこをきれいごとにしない。
だからこそ、読み応えがある。

私は読み終えて、直木賞はこの作品だと確信した。
それほどまでに、物語としての力、人間描写の濃さ、読後に残る問いの深さがある。

ここから先は、ネタバレを含めて、本書をキャリア形成にどう活かすかを考えていく。

ここから有料エリア

ここから先は

4,397字
このマガジンで得られることは3つ。 1. キャリア形成に効く本の要点が短時間でわかる 2. 読んですぐ試せる小さな行動ヒントが手に入る 3. 3か月後には「行動できる自分」に変わる 読書を“知識”で終わらせず、キャリアを前進させる“実践力”に変えていきます。 初月無料、500円/月です。現在でも有料記事をご覧になれます。是非、購読ください。

このマガジンで得られることは3つ。 1. キャリア形成に効く本の要点が短時間でわかる 2. 読んですぐ試せる小さな行動ヒントが手に入る…

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?