富裕層のマインドから学ぶ―『億までの人 億からの人』からの富を育てるキャリアと習慣
「富裕層のマインド」と聞くと、自分とは別世界の話だと思うかもしれない。生まれながらに資産を持ち、特別な情報や才能によって富を築いた人々を想像しがちである。
田中渓氏の『億までの人 億からの人』を読むと、そのイメージが変わる。
本書が扱うのは、具体的な銘柄や短期間で利益を得る投資術ではない。富裕層のお金に対する考え方、時間の使い方、生活習慣、人間関係の築き方を紹介した本である。
著者はゴールドマン・サックスに17年間勤務した。その間、20カ国以上で300人を超える資産家や超富裕層と交流している。そこから見えてきた共通点を、私たちにも実践できる形で伝えている一冊だ。
参考:徳間書店による書籍紹介
富裕層は、お金より先に「考え方」を変えている
本書を読み始めたときは、知らないことばかりだろうと思っていた。
ところが、読み進めるうちに意外な感覚が湧いてきた。
「これは私もやっている」
そう思えることが結構あったのだ。少しうれしくなり、思わずニンマリした。
私は一日一冊を目標に本を読み、学びを発信している。70歳を目前にしても、大学教員として新しい仕事に挑戦している。健康のために一日一万歩を目標に歩き、将来を考えて投資も続けてきた。
もちろん、資産規模は本書に登場する富裕層とは比較にならない。しかし、学び、健康、時間、資産に対する姿勢には重なる部分があった。
ここに本書の大切なメッセージがある。
富裕層の行動は、資産を築いた後に突然始まるものではない。小さな習慣を続けた結果として、資産や選択肢が増えていくのである。
投資とは、未来の選択肢を増やす行為である
本書を読んであらためて感じたのは、多くの富裕層が投資をしているという事実である。
稼いだお金をすべて消費せず、その一部を未来に振り向ける。資産に働いてもらう仕組みをつくり、長期的な視点で育てていく。
給与や報酬だけに依存していると、自分が働けなくなった時点で収入が止まる。投資には、そのリスクを補う役割がある。
ただし、投資の対象は金融商品だけではない。
知識を得るために本を買う。新しい技術を学ぶ。異なる分野の人と交流する。健康を維持するために運動する。
これらも、未来の可能性を広げる投資である。
キャリアアップという観点では、学びへの投資が特に重要となる。身につけた知識や経験は、別の仕事や新しい役割にも持っていけるからだ。
会社の肩書は退職すれば失われる。しかし、専門性、経験、人との信頼関係は自分に残る。これらは長い時間をかけて価値を生む「キャリア資産」である。
時間は、誰にとっても平等な元手である
富裕層と一般の人では、保有する資産に大きな差がある。一方、一日の時間は誰にとっても24時間だ。
本書に登場する人々は、時間をお金以上に大切な資源として扱っている。何に時間を使うかを自分で決め、重要でないことには必要以上の時間を費やさない。
これは仕事にも応用できる。
忙しい人ほど、依頼された仕事をすべて引き受けてしまう。しかし、目の前の仕事だけで予定を埋めると、自分の成長に使う時間がなくなる。
学ぶ時間を先に予定へ入れる。考えるための余白を確保する。健康を守る時間も削らない。
時間の使い方には、その人の優先順位が表れる。
将来を変えたいなら、「時間ができたら始める」では遅い。未来につながる時間を先に確保する必要がある。
キャリアも資産も、複利で育つ
投資では、利益を再び投資することで資産が増えていく。キャリアにも同じ構造がある。
一冊の本から得た知識が授業や仕事に生きる。その経験を文章にすると、新たな読者とつながる。そこで生まれた縁が、次の仕事や研究へ発展していく。
最初の成果は小さくても構わない。続けることで、知識と経験が結びつき始める。
大切なのは、短期間の成果だけで判断しないことである。
若い頃に学んだことが、何十年もたってから役立つ場合もある。企業で身につけた経験が、大学教育で生きることもある。一見遠回りに見えたキャリアが、後になって強みへ変わるケースも少なくない。
人生は、過去の経験を組み合わせながら価値をつくる長期投資だと考えられる。
お金の先に何を求めるのか
お金を増やすことは重要である。しかし、資産額そのものが人生の目的ではない。
お金の価値は、選択肢を増やしてくれる点にある。
働き方を選べる。学びたいことを学べる。大切な人を支援できる。社会へ経験を還元する余裕も生まれる。
資産を持つ意味は、自分の人生を自分で決められる範囲を広げることにある。
だからこそ、お金と同時に健康や人間関係も育てなければならない。資産があっても、健康や信頼を失えば、人生の自由度は下がってしまう。
富裕層のマインドとは、単にお金を増やす考え方ではない。人生全体を長期的に整える姿勢だと私は受け取った。
明日から実践したい三つのこと
1.すでにできている習慣を確認する
本書を読んでニンマリしたように、自分がすでに実践していることを認識したい。
読書、運動、貯蓄、投資、学び直し、人との交流などを書き出す。できていないことより、続けてきたことに目を向ける。
自分の強みを知ることが、次の一歩につながる。
2.収入の一部を未来へ振り向ける
金額の大小より、継続できる仕組みをつくることが大切である。
金融資産への投資だけでなく、書籍、講座、健康、体験にも予算を確保したい。今日の消費を少し抑え、未来の選択肢を増やしていく。
3.成長のための時間を先に予約する
余った時間で学ぼうとしても、時間はなかなか余らない。
読書や運動の時間を、会議と同じように予定へ入れる。自分との約束を後回しにしないことが継続の鍵となる。
「億」を目指さなくても、富裕層の思考は役に立つ
誰もが億万長者を目指す必要はない。
それでも、富裕層の時間感覚や長期的な視点は、キャリアと人生を整えるうえで役に立つ。
学び続ける。健康を守る。人との信頼を育てる。収入の一部を未来へ回す。小さな習慣を積み重ねる。
こうした行動は、今日から始められる。
本書を読んで私が得たのは、富裕層への憧れだけではなかった。自分が続けてきた行動への小さな自信である。
「意外と私もやっている」
そう気づけた人は、すでに豊かな未来への一歩を踏み出しているのかもしれない。
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