戯曲 芸人列伝第二伝『贋作・シミキン』
2010年に書いた芝居。
元々がへそ曲がりなのも有り、芸人てせも「エノケン」「ロッパ」等の今までけっこう描かれた人にはいかない。第一電で『贋作・トニー谷』を創ったら次は『贋作・シミキン』エノケンロッパが有楽町に行った後、最後まで浅草に残った清水金一を。色川武大によるとシミキンが舞台に出てくると萩本欽一の何倍も舞台がば゜あっと明るくなったという。ただ、セリフを覚えずアドリブ勝負で、戦時中検閲官に何度も止められ、引っ張られていたという説もある。
戦時中、お客を笑わせているというだけでお上から叱られた時代、今の世の中にもしかしたらちょうどなのかも知れないと。
ちなみに出てくる堺というのは、今の堺正章氏のお父さんの堺俊二氏です。
(有料部分より)
シミキン「別にお国に逆らおうってんで、台本に無い事しゃべってる
んじゃないんですよ。ただ、みんな、他に楽しみが無いじ
ゃないですか
(また殴られる)
そんな、あんた達は、お客から、笑う事さえも奪うつもり
なんですか!
〇 開演五分前
(開演五分前とは書いてあるが、実際には芝居はここ始ま
っている)
舞台中央においてある一台の椅子。
上手には蛍光灯の入っていないスタンドが乗っている
テーブルが一台。
「浅草の唄」が流れる中、風呂敷を背負い、着物を尻
っぱしょりにして前掛け股引姿の役者、客の後ろから
登場して舞台に上がりしゃがむ。
役者「おーい、早く始めろー」
役者、しらっとしている客席(たぶん)を振り返り、
ゆっくりと取り繕う。
役者「(腕時計等を見ても良い)
あ、まだ開演前でございました。本日は「贋作・シミキ
ン」にご来場頂きましてまことにありがとうございます。
私、シミキンこと、清水金一を演じさせて頂きます**で
ございます。
(懐から小冊子を出し、見ながらで良い)
このシミキン、本名清水武雄という男、1924年と言います
から今から89年前、12歳の時に山梨県の甲府から東京へと
一家で出て参りました。六人兄弟の三男として我が儘放題
に育った武雄、細々とやっていた電気屋での御用聞きをし
ておりました。そんな武雄が月に一度の休みに通い続けた
浅草。当時の浅草とは、この
(と手に持つ小冊子、講談社文芸文庫版の文庫本を見せ
る)
ノーベル賞作家であります、あの川端康成氏が書きまし
た、『浅草紅団』という小説に詳しく出ております。
この本によりますとその頃の浅草は、コミックオペラと言
われました浅草オペラ大全盛の時代でありました。当時の
劇場は、飲食オッケーでありましたので、酔っぱらったオ
ペラのゴロツキ、ペラゴロと呼ばれる熱狂的ファンが本番
中でも贔屓の役者に声をかけあい、そして彼らを狙うチン
ピラと娼婦、乞食と浮浪者達が路上にひしめいた、エログ
ロナンセンス全て有りの、とても魅力的な街であったそう
でございます。
辛い奉公の合間をこの浅草で過ごした武雄青年は、ある日
とうとうそのまま店へ帰らずに、この姿のまま当時、大人
気だったオペラ俳優、清水金太郎の弟子になるのでござい
ます」
役者、講談社版『浅草紅団』をテーブルに置くと、風
呂敷を降ろし前掛けを外していく。
役者「あっ、まだ開演しておりませんので、でも、もうすぐ
開演の予定でございますから、もしお手洗いに行かれる方
は今の内にどうぞ」
と、いきなり鳴り出す携帯電話。
慌てて懐から出す役者。
役者「もしもし、あの、これから舞台に出るのよ・・・そう、も
うすぐ始まるの。え?あっ、忘れてた。何時からだっけ?
いや、無理、無理。ごめん。でも俺が出ないと始まらない
からさあ、こっちも。お客さん、待ってるから。じゃあ切
るよ」
と電話を切り、
役者「失礼いたしました。携帯電話などの音の鳴る機器は、
他のお客様のご迷惑になりまので、いえ、何より今みたい
に舞台の上の私が動揺いたしますので電源からお切り頂け
るとありがたいです」
と携帯の電源を切る役者。
役者「さて、師匠から『金』の一字を貰い、清水金一となり
ました武雄でございます。しかし時と共に浅草オペラの人
気にも陰りが出始め、あのエノケン、榎本建一のカジノフ
ォーリーもお客が来ず、劇場は閑古鳥が鳴いておりまし
た。そこへこの・・・
(と、置いた本を取ると、古い初版の時の装丁になって
いる)
『浅草紅団』の中で
(開き読む)
『エロチシズムと、ナンセンスと、スピードとジャズ・ソ
ングと、女の足と』と『東京にただ一つの舶来モダアンの
レビュー劇場』
と紹介された途端、連日押すな押すなの大盛況となりま
す。押し寄せるお客の笑い声の渦の中、エノケン、ロッパ
を始めとして、次々とスターを産み出した浅草のでござい
ます。しかし、彼らは人気と共に有楽町は日劇へと進出し
てしまいますが、そんな中、「ミッターネェったらシャー
ネェ」等の言葉を産み出して、最後まで浅草に残ったのが
このシミキンでございます」
役者、喋りながら着物を脱ぎ、股引、ステテコ姿にな
ると、机に置いてある拍子木を打とうと持つ。
役者「さあ、お待ちどおさまでございました」
と、拍子木を打とうとし、
役者「そうそう、お待ちどおさまと言えば、このシミキン、
大変な酒飲みで、その上時間にもの凄いルーズ。開演時間
になっても劇場に現れず、一時間、二時間遅れるなんて事
がしょっちゅうだったそうでございます。一座の者が、ち
ょうど先ほどの私の様に、
「早く始めろー」
と騒ぐお客さまの前でしどろもどろになりながら
「もう、始まりますので」
と言い訳していると、照れ笑いを浮かべたシミキンが
「遅れてゴメンね」
と登場してくるのです。
お話はそんなシミキン五十四歳、1966年6月、自宅で酔っ
ぱらい、階段を踏み外して死んだ、まさにそのシーンから
始まります。ここはシミキン晩年の自宅でございます」
と、再び電話の音(ジリリーンジリリーン)が鳴るの
で慌てて机の上の携帯を取る役者、携帯を開くが鳴り
やまない。
役者「あ、あっ、あの、もう始まりますので・・・ちょっと楽屋
に置いてきます」
と、慌てて楽屋に引っ込む。
暗転。
電話の音が止み、音楽流れると舞台明るくなる。
ウイスキーの瓶とコップを持ってフラフラと入ってく
る清水(54)。
清水「とんぼ、とんぼぉ…いねえのか。バッカク、バッカク
いねえのか? 守! なんだよ、誰もいねえのか…」
椅子に座ってテレビのスイッチを入れる清水、ぐいっ
とコップの酒を飲み干してまた注ぐ。
清水「あれ、笑点やってねえじゃねえかよ…あ、そうか、今
日は月曜か。まったく体育の日だかなんだか知らねえけ
ど、急に休みにされても困っちまうよ。全くミッターネェ
ったらシャーネェ
(笑いながらテレビを消す)
おーい、守、守! 台所に何かねえのかよ…ああ、そう
か。あいつも出て行ったんだな。鏡子がいねえと何にも出
来ねえんだもんな…俺のがよっぽどミッターネェな…俺と
一緒になってから初めての友達との旅行だ…シャーネェや
な…薄暗くなってきたな…秋の日はつるべ落としたぁ良く
言ったもんだ・・」
溜まらなく注いだコップの酒を一気に飲み干す清水。
清水「甲府じゃ今頃、ダーって葡萄が揺れてるんだろうな・・・
へへっ、ぎゅーぎゅー詰めに入った客、舞台から見てる
と、なんか、ふっと、子供の頃、甲府の山で見た葡萄畑み
たいに思える時あってさぁ、それがみんな、大笑いしてる
んだぜぇ・・・
「キンちゃーん、キンちゃーん」
って。
(話しかけていた脇を見て)
あ、そうか。鏡子いねえんだったな・・・なんだ、暗くなって
きたと思ったら、雨か・・・おーい、二階開いてるんじゃねえ
か! 守! 守! なんだよ、みんな何処に行っちまった
んだよ、しょうがねえなあ」
コップを置いて立ち上がり、階段を上ろうとする。
清水「あっ」
その場に転げる・・・。
ここから先は

芸人列伝シリーズ男性芸人三作合本
芸人列伝の中の「贋作・トニー谷」「贋作・シミキン」「贋作・圓朝」の三作をまとめてお得に読めます。
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!
