掌編小説「短い旅行記」 周
「短い旅行記」 執筆者 周
2003年深夜3時、私が空港に着いたのは深夜だった。 悪天候で吹雪が顔に当たって痛い。 しかし飛行機に乗ってる途中で引き返さないかヒヤヒヤしたのでなんとか到着してくれただけでもありがたい。 飛行機はひどい揺れを伴いながらも、なんとか無事に着陸した。 着陸時には乗客からまばらな拍手が起こったほどだ。もちろん、私もその中の一人だ。
あたりは人どころか生き物の影もなかった。 真っ暗な中を私は旅行カバンを持ったまま、ほど近い小さなホテルへと向かった。
ホテルの入り口を探して私はずっと10分くらい極寒の中を彷徨っていたが、結局最初に見たスタッフ用の出入り口だと思っていたものが正式な玄関だった事が判明した。
ロビー、というには質素な空間だが、オレンジ色のライトや暖色でまとめられたインテリアは気に入った。 ただカウンターの隣の結構大きい黒い犬の置物は何なのか謎だった。
鍵を受け取り、2階に上がった。 部屋は期待以上でも以下でもない。 白い壁は経年劣化によって黄ばんでいる。 私は荷解きを済ませてシャワーを浴びようと思ったが、なんとシャワーが故障中で冷水しかなかった。でもシャワーを浴びないのは気持ち悪かったので、シャワー室を出ると即ストーブの前でブルブル震えながら私は粉末スープをちびちび啜っていた。
ストーブで部屋は暖まり、やっと一息つける様になった。 外は雪が降っている。 窓の周りはすっかり凍って、怖いほど音がない。 しんとしていて不安になったので私はラジオを付けた。そのラジオも電波の調子が良いとは言えなかったが。 単語を途切れ途切れに聞くに、歯ブラシのcmのようだった。
そうしているうちに段々眠くなってきた。 飛行機でも散々寝ていたが、飛行機でとった睡眠はあまり良質とは言えない。
明日はフライトまでかなりの時間を持て余す。 この辺で適当な料理屋でもあれば良いが、地図を見る限りあまり期待は出来なさそうだ。 少しタイトにはなってしまうが、中心部の方まで足を伸ばそうと思う。中央広場の時計台は、死ぬまでに一度は見たいと思っている。
………………。
「これで終わり?」
ページの一番最後には続く、と書かれていた。
けれどネットで検索したところ、続編は出されていない。 続編を出す前に、作者はあの列車に乗ったまま、もう何十年も行方不明になってしまった。
果たして時計台を見ることが出来たのだろうか? もしかしたら今も、時計台を目指して列車に乗っているのかも知れない。
この作品は文芸誌『朗々』13号に掲載されている作品です。
