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25年勤めた会社を辞めると決めた日、妻がくれた一言

「退職します」

そう上司に伝えたあと、ぼくは思いがけない提案をされました。

会社に残るという選択肢でした。

25年間勤めた会社です。

もし会社に残れば、収入がなくなることもありません。

家賃補助もなくなりません。

これまでと同じように、安定した生活を続けることができます。

正直、迷いました。

ぼくは会社を辞めると決めていたはずです。

それなのに、

「少し考えさせてください」

と答えました。

50歳で会社を辞める。

毎月入ってきた給料がなくなる。

これから何をして生きていくのかも、まだはっきり決まっていない。

そんな時に、

「会社に残る道もあるよ」

と言われたんです。

心が揺れました。

その日の夜。

ぼくは妻に、上司から提案された話をしました。

会社に残る選択肢があること。

条件としては、決して悪くないこと。

でも、なぜか気持ちが晴れないこと。

どうするべきか、迷っていること。

妻は、黙って話を聞いていました。

そして、ぼくに聞きました。

「その仕事、あなたがやりたいことなの?」

ぼくは、すぐに答えることができませんでした。

何と言えばいいのか分からず、黙っていました。

すると妻は、静かに言いました。

「それが答えじゃない」

その言葉を聞いた時、何も言えませんでした。

本当は、分かっていたんです。

ぼくは、迷っていたんじゃありませんでした。

会社に残りたいわけでもありませんでした。

ただ、怖かったんです。

25年間勤めた会社を辞めることが。

毎月の給料を失うことが。

これまでの安定した生活を手放すことが。

だから、会社に残る理由を探していたんだと思います。

「会社から必要とされているから」

「せっかく提案してもらったから」

「家族のためにも安定していた方がいいから」

そう言えば、自分をごまかせたのかもしれません。

でも、答えが分からなかったわけではありません。

答えは、もう自分の中にありました。

ただ、その答えを選ぶ覚悟がなかっただけでした。

今振り返ると、妻も不安だったと思います。

ぼくが会社を辞めれば、収入も家賃補助もなくなります。

これからどうなるのか、何の保証もありません。

それでも妻は、

「会社に残った方がいいんじゃない?」

とは言いませんでした。

「その仕事、あなたがやりたいことなの?」

と聞いてくれました。

その言葉を聞いた時、胸の奥にあったものを、そっと見つけられた気がしました。

もう、自分の本音からは逃げられない。

そう思った瞬間、ぼくの覚悟は決まりました。

もちろん、安定を選ぶことが悪いわけではありません。

安定を選ぶことで守れるものもあります。

家族のために踏みとどまることが、正解になる時もあると思います。

ただ、あの日のぼくは違いました。

安定を選びたかったんじゃない。

怖くて、自分の本音から逃げようとしていました。

人生には、どちらを選べば正解なのか分からない時があります。

そんな時、正解を探す前に、一度だけ自分に聞いてみてもいいのかもしれません。

「それは、本当に自分がやりたいことなのか」

すぐに答えが出なくてもいいと思います。

もしかすると、答えられないこと自体が、心からのサインなのかもしれません。

迷った時こそ、自分の本音から逃げない。

あの日、妻がくれた、

「それが答えじゃない」

という言葉は、今でも忘れられません。

人生は何歳からでも変えられる。

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