49.パラレルワールド
私は昔、「パラレルワールド」なんて、存在しないと思っていた。
映画や小説の中だけの話。
誰かが考えた空想。
現実とは関係のないもの。
そう思っていた。
でも今ならわかる。
パラレルワールドは、映画や小説の中の話でも、空想でもなかった。
自分の見ている世界が変わること。
それが、私にとってのパラレルワールドだった。
夫は、以前より笑うようになった。
子どもたちと遊ぶようになった。
家族で出かけられる日も増えた。
でも、休日は昼寝を3時間ほどする。
朝もなかなか起きない。
子どもと遊ばずにすぐ寝室でゴロゴロする。
回復の途中であることは変わらない。
以前の私なら、そんな姿を見るたびに不満になっていた。
「また悪くなるなったらどうしよう。」
「回復したんだからもっと子ども達と遊んでよ」
「私が頑張らなきゃ。」
そうやって、現実はいつも「足りないもの」を探す世界だった。
夫は劇的に変わったわけじゃない。
子どもも急に育てやすくなったわけじゃない。
私の置かれた状況も、ほとんど同じ。
なのに、私は毎日が全然違って見えるようになった。
以前の私は、「足りないもの」を探して生きていた。
今の私は、「あるもの」を見つけられるようになった。
以前の私は、夫が元気なら幸せ。
今の私は、夫が寝ている日でも幸せを感じられる。
同じ家。
同じ家族。
同じ私。
でも、生きている世界はまるで違う。
それを強く感じた出来事があった。
友人に我が家の状況を話したことがある。
「そんな風には見えてなかったよ。」
「楽しそうに過ごしてるように見えてたし。」
数ヶ月後、また夫のことを聞かれた。
「相変わらず、大きくは変わらないよ。」
そう答えると、「でも、なんだかんだ楽しそうだよね。」
いや、めちゃくちゃ大変なんだけどな。
心の中でそう思うが、
友人には私は楽しそうに過ごしているように見えるようだ。
一方で、別の友人に深く話さずに状況だけを伝えると、私は一気に「可哀想な人」になる。
同じ出来事なのに。
同じ私なのに。
見る人によって、私の物語はまるで違うものになる。
自分でもわかっている。
私の状況は、どちらかというと”幸せ”ではなく”大変そう”
でも、みんなが思っているほど、私は不幸だとは思っていない。
あの頃の私が見ていた世界と、今の私が見ている世界は、同じ場所なのに、まるで違う。
今日も夫は、昼寝から起きたと思ったら、何も言わずに寝室に戻っていった。
あの日と同じ景色。
でも、見ている私はもう違う。
パラレルワールドは、どこか遠くにある世界じゃなかった。
自分の見ている世界が変わること。
私にとって、それがパラレルワールドだった。
そしてこの世界で、私はまだ、歩き出したばかりだ。

