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正体を隠して街をゆく。西松屋とUFOキャッチャーと、私の平穏。

子育て中のママの味方、西松屋へ向かう道は、「誘惑の障害物競走」だ。

我が家がよく行く店舗は商業施設の中にある。

大人だけなら5分で終わるルートに、巧妙なトラップが仕掛けられている。

  • 風船で釣ってくるスマホの勧誘

  • スーパーボールすくいで呼び込むイベント

  • お菓子を配る保険屋さん

  • 巧妙に配置された遊び場とガチャガチャ

今回も、ユニコーンの着ぐるみを着た店員さんに券を渡された。

「100円で、UFOキャッチャーが2回できます!」

娘は大喜び。

当然のように、ゲームセンターへ吸い込まれていった。


最近のUFOキャッチャーってすごい。

ぬいぐるみだけじゃなくて、メロンとか玉ねぎとかイチゴとか入っている。

「え、野菜!?」

思わず立ち止まった。

こんなものまで景品になる時代なのか。
いやでも、下のスーパーで買った方が安いのでは?
そもそも、これをやる人はいるのか?

気づけば私は、子どもそっちのけで景品の原価率と在庫回転率に思考を巡らせる「分析モード」に入っていた。

そんなとき、少し離れた場所で、一生懸命ハーゲンダッツのセットと格闘しているおじさんが目に入った。

やっと、取れた。

他人のUFOキャッチャーでも、取れる瞬間を見るのはなんだかスカッとする。

でも、出口に引っかかって取り出せないらしい。

店員さんを呼ぼうとしているのだろうが、見つからず困っている。

「声をかけようかな」

と思って近づいた瞬間、気づいた。

私の同級生のお父さんだった。

そう知った瞬間、別の思考がブレーキをかける。

休日の午後、一人で真剣にアイスを狙う50〜60代の男の背中。

もしかしたら今、彼は
「誰の夫でもない、誰の父でもない自分」
を楽しんでいるのかもしれない。

ここで、

「あ、〇〇さんのお父さん!お久しぶりです」

と声をかけることは、彼の聖域を土足で荒らすことにならないだろうか。

そう思った瞬間、私はサッと視線を逸らして、その場から隠れた。


私はなぜ、知り合いを見ると隠れるのか。

別に悪いことをしているわけじゃない。
向こうだって、普通に休日を過ごしているだけだ。

それなのに、大抵、知り合いを見つけると、とっさに隠れてしまう。

スーパーでも。
ショッピングモールでも。

遠くに知り合いを見つけた瞬間、

「気づかれませんように」

と願いながら、柱の陰へ。

なんなんだろう、この気持ち。

嫌いなわけじゃない。
むしろ話せば普通に楽しいし、思い出話に花が咲くかもしれない。

それでも、見つからないように身を潜めてしまう。

少し考えて、ふと思った。

もしかしたら私は、

“身元を明かさず街を守るスーパーヒーロー”

みたいな気分なのかもしれない。

普段は「普通の母親」として西松屋へ行き、
玉ねぎのUFOキャッチャーに時代の変化を感じている。

でも知り合いに見つかった瞬間、

「……ハッ、正体がバレる!」

みたいな気持ちになる。

もちろん、守っているのは街ではなく、自分(と、あのおじさん)の平穏なのだけれど。


でもきっと、みんな多少はそういうところがあると思う。

完全にオフの顔。
誰にも見られたくない時間。
社会との接続を、一瞬切っている瞬間。

ゲームセンターでハーゲンダッツを狙っていたおじさんにも、きっとそういう時間だったのだと思う。

私だって、子どもそっちのけで玉ねぎの景品を眺めながら、

「利益率どうなってるんだろう」

とか考えていたわけだし。

だから本当は、隠れなくてもいいのだ。


けれど、結局、西松屋で買い物をしている間も、

「またおじさんに遭遇したらどうしよう」

と少しだけドキドキしていた。

もちろん、だから何だという話なのだけれど。

無事に任務を終え、娘と手を繋いで帰路につく。

私は今日も、誰にも気づかれないように正体を隠しながら、この街を生きている。

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