M9クラスの巨大地震はどこでおこるのか?
なぜ緩いプレート境界でM9地震が起きるのか――東大研究が解いた地震学の逆説
マグニチュード9級の超巨大地震の多くは、傾斜の緩いプレート境界で発生しています。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、プレート境界の傾斜は約10度でした。
2004年のスマトラ島沖地震では、約8度でした。
しかし、これは従来の断層理論から見ると不思議な現象です。
坂道を想像すると、傾きが急な方が物は滑りやすく見えます。
断層でも、傾斜が緩すぎれば、滑らせる方向の力が小さくなると考えられてきました。
それなのに、なぜ世界最大級の地震が超低角のプレート境界で起きるのでしょうか。
原論文
今回の研究は、東京大学の井出哲教授、海洋研究開発機構の古市幹人氏、佐藤大祐氏によるものです。
論文名は、
Ultralow-angle faults produce giant earthquakes
です。
2026年7月1日付でScience Advancesに掲載されました。
世界の地震を傾斜角別に分析
研究チームは、Global CMTという世界標準の地震カタログを使いました。
対象期間は1976年から2024年です。
その中から、
沈み込み帯で起きた地震。
深さ30キロメートル以内の地震。
逆断層型の地震。
を抽出しました。
逆断層とは、断層の上側が下側に対して乗り上げるように動くものです。
海のプレートが陸のプレートの下へ沈み込む場所で、多く見られます。
b値とは何か
小さな地震は頻繁に発生します。
一方、巨大地震はめったに発生しません。
地震の規模と発生数の間には、グーテンベルク・リヒター則と呼ばれる関係があります。
その分布の傾きを表す数字がb値です。
b値が大きい場合、規模が大きくなるにつれて、地震の数が急速に減ります。
b値が小さい場合、大きな地震の割合が比較的高くなります。
今回の研究では、傾斜角が小さくなるほど、b値も小さくなるという明確な傾向が確認されました。
傾斜10度では、b値は約0.65。
傾斜40度では、約1.1でした。
「60倍」の正しい意味
このb値の差を使い、M5級の地震がM9級まで成長する割合を比較すると、傾斜10度の断層では、傾斜40度より60倍以上高くなると推定されます。
ただし、この数字には注意が必要です。
傾斜10度の地域では、M9地震が60倍の頻度で起きる。
明日、巨大地震が起きる確率が60倍になる。
という意味ではありません。
M5級で始まった断層破壊が、途中で止まらず、M9級に相当する広大な範囲まで成長する統計上の割合を比較したものです。
なぜ緩い面で滑るのか
傾斜角と地震規模の関係が分かっても、力学的な疑問は残ります。
傾斜の緩い断層には、滑らせる力が働きにくいはずだからです。
研究チームは、力の大きさだけでなく、向きに注目しました。
扉を開ける場面を考えると分かりやすいでしょう。
蝶番へ向かって押しても、扉はあまり動きません。
取っ手を扉が開く方向へ押せば、小さな力でも動きます。
断層も同じです。
地下にかかる応力の向きと、断層が滑る方向の組み合わせによって、滑りやすさが変わります。
応力の向きが断層面に対して好都合な配置になれば、傾斜が非常に緩いプレート境界でも、破壊は大きく成長できます。
プレートが平らになるわけではない
この研究を、
大地震の直前に、二枚のプレートがだんだん平行になる。
プレートが重なりやすくなったらM9が起きる。
と理解するのは正確ではありません。
プレート境界の傾斜は、基本的には地質構造として存在しています。
研究が重視した時間変化は、主に地下に蓄積する応力の向きです。
もともと緩い断層面と、変化する応力方向が、滑りやすい関係になる場合があるという話です。
地震予知が可能になったわけではない
今回の研究によって、南海トラフ地震の発生日が分かったわけではありません。
低角のプレート境界が、必ずM9地震を起こすわけでもありません。
しかし、将来の巨大地震リスクを考える際に、
過去に最大何級の地震が起きたか。
という統計だけでなく、
プレート境界はどのような形か。
周辺地震のb値はどう変化しているか。
地下の応力はどちらを向いているか。
という物理的な情報を加える道が開かれました。
巨大地震は、単に力が大きくなれば起きるわけではありません。
断層の形と、地下の力の向きが重要です。
平行に近いプレート境界で、破壊が大きく成長しやすい。
これには、閉口するってこった。
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