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【ショートショート】気まぐれ向日葵は風に吹かれて揺れている

 『トマト、キュウリ、ナス、今夜はこれで何を作ろうか。』

 裏の畑で取れた野菜を眺めながら考える。
 夏の風が俺たちに届けてくれた野菜だ。

 仕事を早期リタイアし都会から田舎へと引っ越してきたのだった。

 パートナーが田舎育ちで良かった。
 野菜の収穫を教えてもらいながらパソコンでリモート作業ができる。
 広大な自然と悠々自適なセカンドライフ、これが田舎暮らしの醍醐味だ。

 取れ立ての野菜は形の不揃いで大きさもまちまちだ。だがそれがいいのだ。取れ立ての野菜の新鮮さに勝るものはない。

 表の庭先で、向日葵が、風に吹かれてユラユラと揺れていた。まるで、笑っているかのよう。

 ああ、そうだ。ここは夏の野菜のカレーにしよう。
 丁度、隣からの御裾分けのズッキーニもあるし。

 トマトとキュウリはお酒のあてにして。自家製味噌をつけて食べると味も2倍おいしいぞ。

 自分の足元で気持ちよさそうに寝そべる犬を見る。
 ここは若干日陰で心地いいのか、傍らに立つ飼い主を見向きもしない。

「なっ、向日葵。」

 我が家の飼い犬、雌三才の名前だ。
 柴犬系の雑種で、めちゃくちゃかわいい。
 
 春先に植えた向日葵の下で見つけたから、その名前を付けたのだ。夏の訪れとともにやってきた向日葵に今やパートナーともどもメロメロになっていた。

 ふわっとどこからかカレーの匂いがした。

 あっ、そう言えば、カレーのルーを切らしていたんだ・・・ 

 向かいのリビングにバスタオルに包まって寝そべる人物に声を掛ける。
 
「リョー、カレールー買ってきて。」

 夜勤上がりのリョーは、めんどくさそうにソファーから起き上がるが、寝起きで頭はぼさぼさだ。二つ返事で頭をポリポリとかきながら買い物へと出かけていった。

 今は向日葵と二人きりだ。向日葵は俺を警戒してか、ふんと鼻先で溜息をつく。ついつい触ってしまうのがお気に召さないのだろう。

 はあ、あの僅かに揺れるふわふわの尻尾を触りたくてしょうがない。ふかふかの背中を撫でてあげたい。

 向日葵に手を伸ばすが、ささっと逃げてしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。

「ただいま」

 リョーが帰ってきた。その足元にはいつの間にか向日葵がいてなかなか離れようとしない。

「どうした?早かったね。」
「うん、ちょっと出かけたら、お隣さんがいてね、なんか安くて買いすぎたからって、カレールーとスペアリブを貰ったんだ。」
「はあ?また?スペアリブ貰うのは2回目だぞ。」
「昨日の夕食もスペアリブだったね。僕は好きだから構わないけど。」

 リョーは、傍で甘える向日葵を片手であやしていた。

「いや、さすがに2日連続となると・・・おとなりさん、、大丈夫かな。」

 リョーは人懐っこく人から愛されるタイプだ。
 初めて出会った頃は、前髪もっさりのオドオドしたタイプだったのに、月日が経つとともにどんどん変貌していった。その自信はどこから来ているのかとつくづく思う。今ではもういい年をしたおじさんなんだが、その魅力はいつまでたっても変わりはしない。

「肉を持っているのが、分かるんだな。向日葵、おすわり。」

 リョーの声に尻尾を飛んでいってしまうんじゃないかと思うくらい振り回しながら、向日葵はその場でピシャリとお座りをする。

 リョーの命令には誰も逆らえない。どんな動物もなぜか大人しく従うのだ。おそらくソロモンのマジックハンドを持っているに違いない。

「よし、いい子だ。一番大きい肉を食べさせてあげるからね。ユウ、ちょっとこれ焼いてあげて。」

 渡された袋には大きなスペアリブと小さなスペアリブが2片入っていた。

 傍には満面の笑顔の向日葵がいる。これが柴スマイルというやつか。

「気まぐれな奴め。結局一番いいところは向日葵が持っていくんだよな。」

 自分の周りで走り回り、転げる向日葵を見ながら、肉を焼いていた。

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