読書記録4:岩波ブックレット、
「ボロ家の春秋」(中公文庫 う 37-2)梅崎春生
目次:Ⅰ黒い花/拐帯者/零子/猫と蟻と犬/ボロ家の春秋 Ⅱ私の小説作法/私の創作体験/わが小説/私の小説作法
「その夜僕は、自分の手が疣(いぼ)だらけになった夢を見ました」(ボロ家の春秋)p206
「他のことは何も信じないでもいいが、これだけはこの職業では信じなくてはならない。自分は才能は貧しくとも、芸術家としては一流でなくても、「ほんもの」か「にせもの」かという点では、断じて「ほんもの」であるという自覚、これが大切である」(私の小説作法)p269 6
「ヴィーナス以前」(中公新書 641) 木村重信
母権制時代の女性(豊穣と出産の女神)の表象が、豊富な画像とともに解説されている。
母権制から父権制に代わったのは約1500年前。それに先立つ1000年間は母権制から父権制への移行期で、その間に西アジア以西では、アブラハムの宗教により女神中心神話は書き換えられた。
人は死を恐れる以前に、生を賛美したのではないか。生の賛美とは出産/再生の賛美。これが母権制が父権制に先行した理由かもしれぬ。動物は出産を賛美しない。父権制の歴史は極めて浅い。
バタイユの「エロスの涙」は男性目線の振り返りかも。8
「ルポ 大阪の教育改革とは何だったのか」(岩波ブックレット 1063)
公立中学校の子どもらは高校受験に際して、テストによる絶対評価で仕分けされる。このやり方は、中学校の教師の能力や権限に「不信感」をもっていた「学力中位層以上の一定の保護者層」に受けているという。さらに教員や学校は、テストとアンケートによる数値で仕分けされ、その結果、学力の低い学校は淘汰され、閉校へ。
義務教育のあり方について、何かいえるような自分ではないが、少なからぬ有権者がこのやり方を支持している、という地域のお話し。他人事ではないけれど…。仕分けられた先に何があるのか? 6
「「障害」ある人の「きょうだい」としての私」(岩波ブックレット 1062)
障害のあるきょうだいがいること、また子や親がいることを、これまでほとんど考えたことがなかった。皆さんが抱えている悩み、そして「きょうだい同士は対等」「社会全体で助け合う」という考え方に、共感できた。しかし、簡単に、自分流に、理解していいわけでないが。
立派な建物やイベントに、ではなく、さまざまな立場にある人々の生存の、幸福追求の、自己決定の権利を守り、強めるために、もっと税金を使うべきだ!と言いたい、納税者としては。5
「いじめ加害者にどう対応するか 処罰と被害者優先のケア」(岩波ブックレット 1065)
●教師の半数近くが加害者を出席停止にすべきと考えている
●いじめられる生徒も悪いと考える保護者が多い
●被害者に対する、学校に行かなくても大丈夫、という優しい排除
●いじめへの対処は、1加害者の謝罪、2加害者への処罰、3被害者の納得
●いじめ加害をスティグマ化する必要性
● 被害者への対応が第一で、加害者の人権や政治的中立性はその後の問題
●学校に様々なことを丸投げする地域の体質
●スクールカーストの上位層を上位層たらしめる特徴はコミュ力
●教師も上位層を恐れる
●いじりはいじめ以外の何ものでもない 6
「「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除」(岩波ブックレット 1058)
●差別とは他者理解という過程で生じる「摩擦熱」のようなもの
●差別は、道徳的で倫理的な知識や規範をいくら連呼しても減少しない
●私たち自身が差別する可能性を認め、それとともにどのように生きていけるのかを、前向きに考えることが必須
●結局は、各人が自分自身で考えるほかないということだろう
●一方、みんながみんな、差別について考えも、考えられもしないことが、差別が減少しない大きな要因ではないか
●差別は摩擦熱のようなもの、という比喩はピンとこない
●当事者がどう感じ、考えているのかも知りたい 3
「シガレット」(エクス・リブリス) ハリーマシューズ著、木原善彦訳
ニューヨークの、お金持ちの、白人の、家族、恋愛、結婚の物語。1930年代と60年代を行き交うストーリーで、構成の妙はあるが、むしろ人物描写やそこに至る地の文章のほうがおもしろかった。
「女が嫌いだと言う男もいれば、女が好きだと言う男もいる。しかし男は皆、始原的な永遠の恐怖を共有している。すべての男は自分を作った女という存在が自分を破滅もさせるかもしれないと、不合理かつ圧倒的な信念を抱いているのだ」p257
ニューヨークといえば美術商に金融業という道具立ては古典的。ラルフ・ローレン着てそう。5
「外国人労働相談最前線」(岩波ブックレット 1061)
日本における外国人差別を知るために読む。
●外国人労働者の多くは「債務奴隷」
●労働法上は日本人も外国人労働者も平等だが外国人には在留資格が必要
●在留資格で定められた活動に従事していないと資格が取り消されることに、外国人労働者が声を上げづらい要因がある
●外国人労働者を取り巻く多くの問題は日本人の下層労働者の問題と共通、連帯の必要性
●多文化共生やSDGsが掲げる目標の実現には、現場での権利主張や闘争によって、企業を動かす必要がある
●第三世界の犠牲の上に営まれる先進国の「帝国的生活様式」の見直しもまた 8
「犬婿入り」(講談社文庫 た 74-1)多和田葉子
今読むと、「ペルソナ」(1992年発表)は今なおアクチュアルで重要な差別(差別感覚)と言葉の問題を扱っていて、きわめて興味深い。
「本当に思っていることを言おうとすると、日本語が下手になってしまうのだった。自分の生まれ育った国の言葉なのに、それどころか、自分自身だと思っているものを生み出してくれた言葉なのに、本当に思っていることを言おうとすると、それが下手になってしまうのだった」(ペルソナ)8/10
「蓬莱島余談;台湾・客船紀行集」(中公文庫 う 9-16)内田百閒
「しかし私は外へ行くのは面倒だから船にいた。何にもする事はないが、する事がなくて時間を空費するのが大好きである」p268
相変わらずの百閒先生。そして、身震いするほどの美しい文章。
「密生している砂糖黍の畑の縁から中を覗く様に眺めると、奥は真暗である様に思われる。日の影と人の行く道を遮って、何千町歩にわたる砂糖黍の長細い葉っぱが海の近い風にはたはたする上に、美しい空が光っている。その辺りの景色を思い浮かべていると、佳里の砂糖黍は大空から生えていた様に私は思い違いをする」p54(佳里=台南の農場) 7
「フォト・ルポルタージュ 福島 人なき「復興」の10年」(岩波ブックレット 1060)
未来を考え生きるために。以下、主要目次
●1章 復興のための復興①人のいない復興の景色②「なかったこと」にさせられる③復興が隠す放射能汚染の実態
●2章 復興五輪狂騒曲①オリ・パラ推進の裏で②偽りの光で消される大切な記憶③地元を置き去りにする復興五輪
●3章 人間としての生を取り戻すために①取り残されるお年寄りの挑戦②自分らしく生き抜いた酪農家の死
●4章 終わらない原発安全神話との闘い①新たな放射能汚染②安全キャンペーンによる被曝③国策による棄民④奪われた時間⑤自分さえも消されていく 6
「新編 閑な老人」(中公文庫 お 33-3)尾崎一雄
「本来私は、生まれて死ぬのではなく、生かされてそして死なされるのだと思っている。私自身の意志にかかわりなく、断固として私を生かし、そして死なす力のあることはわかっても、それが何なのかはわからない。わかりたいと思うが、わかりそうでない。恐らくそれは、小さな人間の頭の中にははいり切らぬものなのだろう。わかっているようにいう人たちもあるが、私はそれを素直に受け取ることはできない。私が愚かな上に疑り深いせいなのかもしれないが」p282
他の小説を読もうと思うが、尾崎の「楽観主義」を、気軽には首肯することはできない。6
「地球星人」(新潮文庫)村田沙耶香
「この人の子宮も、あっちの舅の精巣も、道具なんだな。遺伝子に支配されているだけのくせに、誇らしげにしている。誇りまでコントロールされているのだ。地球星人は可哀想で可愛い生き物だと、なんだか可笑しかった」p242
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、特に愛することなく、敬うことなく、慰め合うこともせず、助け合わず、命ある限り自分の命のためだけに生きることを誓いますか」p264
シリアスとユーモアの果て、怒涛のポハピピンポボピア星人的結末が待つ。6
「実歴阿房列車先生」(中公文庫 ひ 37-1)平山三郎
いつかは読もうと思っていた本。ヒマラヤ山系氏が平山三郎氏であることは知っていたけど、「東京焼盡」や「御馳走帖」の、また百閒全集の編集者であったこと、またご自身でも随筆や小説を書いていたことなど、全然知らなかった! 浅見淵によれば、「平山君と百閒とのつきあいは約三十年に及び、彼は百閒唯一の弟子」である。
唯一の弟子による、百閒一代記だが、どこかで読んだエピソードの裏側を教えてくれたりもしていて、興味深い。
百閒は晩年、シャンパンをストローですすっていた。その場面に感傷的になる。6
「愚か者同盟」ジョン・ケネディ・トゥール著、木原善彦訳
まず、こういう変な本を翻訳・出版してくれることに感謝。
「やば」という語の原語を調べようと、Amazonで原著を「お試し」したところ、単一の語ではなくて、いい意味で驚いた。原著は、さまざまな背景をもつ登場人物が「異なる英語」で交わす会話に、相当のおもしろみがあるだろう。訳し分けるのは難しいが、他言語ではどうしているのだろうか。
ひらがなの促音のポイント(Q数)が大きくみえる。少なくともカタカナの促音よりは大きい。だんだん気になりだして、最後のほうは旧仮名を読んでいるつもりでやり過ごした。やば。7
「横道世之介」(文春文庫 よ 19-5)吉田修一
眠れぬ夜の図書館の電子図書貸出サービス。初めて読む作家でもあり、先入観も期待ももたずに読み始めたが、登場人物の生活する時代の急な転換や、話者がわかりにくい構成などにより、シンプルな青春小説ではないことがわかって、かえって安心して読めた。
「大切に育てるということは、「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやることではないかと思う」という祥子さんの言葉が印象的。「大切なもの」を失わない人は、いないのである。6
「言葉の還る場所で;谷川俊太郎・俵万智対談集」
2021年のコロナ禍に行われたオンライン対談の書籍化。谷川氏と俵氏の、それぞれの詩や短歌に対する考え方がシンプルに記載されている。
もともとお二人は知り合いだったというが、もしも事前に知り合っている関係でなかったら書籍化できる対談になっていたかどうか、また対面での対談だったらどうなっていただろうか、は気になる。
谷川俊太郎は「デタッチメント」(↔アタッチメント)の人。同じ日に読んだ吉田修一「横道世之介」にひょいと「サラダ記念日」が出てきて、このような偶然はなにかうれしいものがある。4
「ブリーディング・エッジ」(トマス・ピンチョン全小説 Thomas Pynchon Complete Collection)
2001年、ドットコムバブルが弾けつつあり、かつ9.11を経験するNYが舞台。9.11の描写はさらっとしているが、その後の権力と人々の変容はしっかりめに描かれる。
フィジカルとバーチャルな世界がミックスされて…という展開は、(フィジカル重視の)自分には共感しにくいところもあったけど、よくもまあ、これだけの要素・人物・エピソードをぶっこんで1つの作品にまとめていて、さすが大作家の仕事と思う。
訳者解説の前に、舞台となった場所の地図が掲載されているが、冒頭に掲載されていれば、いちいちスマホで調べなくて済んだのに…。8
「気候危機」(岩波ブックレット NO. 1016)
科学系の著者による気候危機に関する解説。官僚による政府答弁のような内容で、個人的に知りたいことは「そこ」ではなかった。
目次:1章 革命前夜1ー温暖化の科学と文明の持続可能性/2章 革命前夜2ー極端気象と気候変動/3章 革命勃発ー気候ストライキ始まる/4章 自治体や国家が動くー気候非常事態宣言を宣言し動員計画を立案する 2
「気候崩壊;次世代とともに考える」(岩波ブックレット NO. 1047)
内容は「気候崩壊とは何か」と「気候正義を考える」に大別されるが、「気候正義」の項目が特に興味深かった。
排出権、世代間の配慮、また気候変動を引き起こした責任の所在(と弁済)などについては、なにせ地球は1つきりなのだから、さまざまな立場にある人々が、まあまあ納得できる1つの方向性を得るためには、「弁明可能な無知」「非同一性問題」などの、倫理的な合理的枠組みを踏まえながら検討していくことが必要であるのは、確かであろう。
中高生たちからの質疑応答は、ポイントを突いていて素晴らしい。7
「ザ・ロード」(ハヤカワepi文庫 マ 1-4)コーマック・マッカーシー
「みんなはいつだって明日のために備えをしていた。わしには意味のあることとも思えなかったよ。明日のほうは人間のために備えちゃくれなかった。人間がいることすら知らなかった」p195
「とうとう二人は道端に座り込み前方の光景を眺めた。家々の屋根、木々の幹。一隻の船。ひらけた空と遠くで緩慢にたゆたう不機嫌な海」p318
小説ならでは創造しうる圧倒的な暴力的世界に溺れる。もしも自分がその世界に放り込まれたら、どうして生きていくだろうか、むしろ死を望んでしまわないか。8
「岩波茂雄;リベラル・ナショナリストの肖像」中島岳志
●岩波茂雄はあくまでもリベラルなナショナリストだった。彼にとって、ナショナリズムは、国民主権と密接な関係を持ち、一部の人間が特権的に独占する政治への批判原理だった p122
●天皇主義ナショナリズムと密接不可分な岩波のリベラリズム。五箇条の御誓文が好き p149
●津田事件を発端とした蓑田胸喜の岩波に対する罵詈雑言 p195
●頭山満のナショナリズムとアジア主義への共感 p210
●漱石「こころ」、倉田「出家とその弟子」の出版は自費出版 p66
立派な生涯である。NHKのドラマになったら見てしまうだろう。 5
「生命式」(河出文庫)村田沙耶香
「私は母親の差し出したファイルを見た。そこには食いしん坊で料理上手の山本らしく、ルーズリーフでさまざまな食材ごとにレシピが分けられていた。豚肉、鶏肉、鮭、キャベツ、大根、などの項目の一番後ろに「俺の肉」という項目があった」p35
かなり奇抜でグロテスクなストーリーなのだけれど、時にふふっと、あるいは爆笑してしまうのであった。このバランス感が素晴らしい。「命のざわめきに満ちた世界」(p246)への愛(愛情、愛着)が、根底にあるのだと思う。7
「やさしい訴え」(文春文庫 お 17-2)小川洋子
眠れぬ夜の図書館電子書籍サービス。
「林とチェンバロが君をかくまったんだ」「そう、それから、あなたと薫さんとドナも……」 6
「ストーンサークルの殺人」(ハヤカワ・ミステリ文庫) M・W・クレイヴン
環状列石(ストーンサークル)好きにはたまらないかと思い手に取り、一気に読み終えた。21世紀、ますますミステリーは「探偵」よりも「警察」に傾いている、と嘆いていたピンチョンの登場人物の言葉を思い出しつつ。
ところで、犯人は生きている可能性があるのか? 6
「献灯使」(講談社文庫 た 74-4)多和田葉子
●「これはおいしい」とか「これはまずい」とかそんなことばかり言って、まるでグルメは階級が上なのだというような高慢さで、みんなが同じように腰まで浸かっている問題沼を忘れようとする大人の姿は、子供の目にはどんな風に映っているのだろう p151
●若いという形容詞に若さがあった時代は終わり、若いと言えば、立てない、歩けない、眼が見えない、ものが食べられない、しゃべれない、という意味になってしまった。「永遠の青春」がこれほどつらいものだとは、前世紀までは誰も予想していなかった p193
問題沼は、現実。7
「AIって何だろう?;人工知能が拓く世界」(学校では教えてくれない大切なこと 29)
図書館電子書籍サービス。
●機械学習→教師あり学習、教師なし学習、強化学習
●ディープラーニング
●シンギュラリティ(技術的特異点)
●弱いAI(特化型AI)とチューリングテスト、強いAI(汎用AI)とウォズニアックテスト
●ウォズニアックテストはまだクリアされていない。
なんとなく知っていることを、なんとなく学ぶ。要点を並べたら試験勉強みたくなってしまった…。 5
「その丘が黄金ならば」 C・パム・ジャン
「目には見えない川が地下でさらさらと流れているような、力強さの下に流れる悲しみ」p330
全然悪くはないのだけれど、何かが足りない感じがする…。技巧的に過ぎる感じがあるから? 単に「自分とは合わない」ということかもしれないが、同じ作家の作品は3冊くらい読まないと、いろいろとつかめないと思うので、その意味では、今読むべきではなかった。その意味では、読み手が悪い。5
「第四次産業革命と教育の未来;ポストコロナ時代のICT教育」(岩波ブックレット NO. 1045)
●第三次産業革命(IT 革命)に乗り遅れた日本の凋落 p12
●ベッカーによる人材=人的資本の理論。宇沢弘文は「人間を売買する市場論」と述べ痛烈に批判 p35
●人的資本=商品として教育市場で取引の対象となるのは、すべての子どもたち(途上国、貧困層など)p39
●グローバルネットワークにおける教育のビッグビジネスが「博愛主義」で語られることのワナ p40
●教育の公共性を擁護するには、公共性の哲学と民主主義の哲学に基づいて、学校を共同体と市場のセクターで維持・発展させる仕組みが必要 p72 7
「消えたヤマと在日コリアン;丹波篠山から考える」(岩波ブックレット NO. 1046)
丁寧な調査と考察が印象的。小説のよう。8
●丹波篠山では戦前、硅石(耐火煉瓦の材料)やマンガン(マンガン鋼、兵器の材料)の採掘と、それらを運ぶ鉄道が敷設されたp27
●日本人の若者を兵隊にとられて鉱山労働力が不足し、朝鮮人の内地化が進む p44
●戦後、篠山小学校に朝鮮語や歴史などを教える民族学級が1981年まで設置される。開設期間30年4カ月は兵庫県下最長 p79
●これらの在日コリアンの足跡は、「篠山町百年史」や「篠山小学校創立一二〇周年記念誌」などの、丹波篠山市の公的な記録には一切記されていない p3
