よくわかる法律入門 #4 憲法第10条について

学生A「権利や義務、そして自由、責任。今までなんとなくわかっていた言葉の意味がわかりました。」
 
先生「そうですね。あらゆることは、人間に理解可能なんですよ。だから、皆さんも考えることを放棄しないで、物事を理解することに頭を使っていってくださいね。そうであれば、あなた達も立派な学者です。」
 
学生B「そうですね。考えることが楽しくなってきました。」
 
先生 「この本は、憲法を学習するために書かれた本です。前著は、憲法成立前の自然権の知識。今回は、憲法成立後の、憲法の内容に入っていきます。自然権は、基本的人権のことでした。この基本的人権は、第三章の、『国民の権利と義務』に規定されています。第10条から始まる章です。
 さっそく、権利と義務という言葉が出てきていますね。ですが、『国民』とは何でしょうか。」
 
学生B「国に自然権を信託した自然人の集合体を指していう言葉じゃないんですか?」
 
先生「正解です!よく理解していますね。では、次の章から、『国民』とは何か、ということについて、憲法の条文を根拠として論じていきたいと思います。」

国民とは 憲法第10条
 
先生「Bさんがおっしゃるように、国民というのは、日本という国に自然権を信託している自然人を、集合的に呼称したものですね。これを、「日本国民」と規定し、そのように呼んでいます。また、単に「国民」と言えば、日本国民を指しています。とすれば、一時的に日本に滞在している外国人は、国民ではないということになりますね。」
 
学生A「そうなるんでしょうね。外国人は、別の国に自分の自然権を信託しているから。でも、日本国籍を持っている元外国人もいますよ。見た目だけじゃ、日本人か外国人かわからないんじゃないでしょうか。つまり、日本に自然権を信託してくれている元外国人もいる、ということですよね。そして、自然権の信託、っていうのは、あくまでも仮定の話でしたよね。そして、その信託は結局みなしであって、実際にそんなことが行われたわけではなかった。そんな中で、外国人と日本人をしっかりと見分けるにはどうすればいいんでしょうか。」
 
先生「それは、憲法第10条で書いてありますね。「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と書いてあります。自然権を基本として考えると、別の国民になる権利を自然人は持っています。私は今日本人だけど、5秒後にはアメリカ人になる権利を行使できますし、10秒後には中国人、15秒後にはスウェーデン人になることが出来る権利も持っているのです。」
 
学生B「た…確かに。自然権はなんでもやっていい権利ですからね。」
 
先生「はい。ですが、これだと私がどの国の国民であるのかということがいつまでも確定しません。これは、信託先の国からすると困るんです。なぜかというと、国側が都合の悪いことをした途端、国民たちが、「あっ!日本国民やめた!私たち、あの国(自分達にとって都合のいい国)の国民になります!」なんて、信託を自由に取り下げられても困るからです。つまり、国と国民の間柄をある程度固定してもらえないと、現実的に、国自体が成り立たないのですよ。」
 
学生B「なるほど・・・でも、面白いですね。消費税が10%になった瞬間、日本国民やめようかなって思ったし。」
 
学生A「あんた、現金よね。」
 
先生「これは、国民が国へ自然権を信託したことによって、国民の自然権が制約される一つの例と言ってもいいでしょうね。で、国民であることの要件は法律で定めると書いてあるのですが、答えを言えば、国籍法によって定められています。私もお二人も、日本国籍を持つから、日本国民なのですよ。」
学生A「そんなの取った覚えないんですけど。」
 
学生B「俺も。」
 
先生「国籍法の第2条にこう書かれています。『子は、次の場合には、日本国民とする。1.出生の時に父又は母が日本国民であるとき。2.出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。3.日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。』です。ね、あなたのお父さんもお母さんもきっと日本人でしょうから、1で既にあなたも日本人とされます。」
 
学生A「ええ~。こんなのがあるんだ。知らなかった!」
 
学生B「じゃあ、日本国籍を他の外国籍に変更すれば、先生がさっき言われたように、別の国民になるんですね。」
 
先生「その通りです。自然権と信託を原則とすれば、信託先を変更するだけで別の国民となれるはずです。しかし、それだと私がさっきしたように、秒速で別の国民に早変わりすることもできてしまうのです。それだと国と私の関係が安定しませんから、国籍法という法律を作り、目で見て分かるようにするとともに、そう簡単には変更できないようになっているのです。」
 
学生A「でも、これだけだと、本当に日本で生まれたことの証明にはならないんじゃないですか?例えば、私が生まれた時、父と母は中国人でした、って今私が嘘でもついてしまったらどうするんですか?」
 
先生「大丈夫ですよ。結局、戸籍法が役に立つんです。あなたが生まれた時、市役所へ行って出生届を出します。すると、あなたが両親の戸籍に入ることになります。産まれた日、産まれた場所も明記されます。当然、お父さんもお母さんも、そこに登録されています。そこにあなたが加わるということです。そうしてあなたは日本国民として認定されますからね。だから、結局は戸籍を見ることで確認ができるのです。」
 
学生A「なるほど・・・。道理で何もしなくても国籍があるわけだ。お父さんとお母さんが私の出生届を出した時に、当然のように私は日本国民になっちゃってたんだ・・・。」
 
先生「詳しいことは国籍法を読んでください。明確に定められていますから、法律に疎い人でも理解できるはずです。そんなに条文も多くないし。数年前、大阪なおみさんという有名なプロテニスプレーヤーが、アメリカ国籍を選ぶか、日本国籍を選ぶかで話題になったことは記憶に新しいですね。このことは、国籍法第18条を読んでみてくださいね。ただ、戸籍法はややこしいですね。改正も多いし。」
 
学生B「わかりました。(メンドクサイ・・・。)」
 
先生「はい。これで自然権と『国民』がつながりました。国民である要件は国籍法で定められ、実際には戸籍に記載されることによって確認できるのでした。自然権からすれば数秒ごとにでも信託先を変化させ、別の国民になることができたり、或いは一気に万国の国民になれるのですが、それは信託を受ける国側からすれば不都合なので、自然権の調整を行うべく、法律でこれを調節し、安定させる必要があるのでした。ここまではよろしいですね。」
 
学生A/B「はい・・・。」
 
先生「このようにですね、憲法っていうのは、国の自然権と、国民の自然権の調整を行う法律であるともいえるのです。前回の話では、国が自分達が信託した自然権を好き勝手に使わないように調整するための法律、という書き方をしました。しかし、もう一つの役割があることがわかります。それは、個人が自然権を自由気まま、勝手に使わせないようにするための法律、と言う側面もあるということです。国⇔個人の関係で、お互いの自然権を調整する役割があるのですよ。」
学生A「なるほど!確かにそうですね。国民⇔国の対応関係が、これでようやく完成するわけですね!」
 
先生「繰り返しますが、憲法とは、自然人の信託によって成り立った集合体である国の自然権が、放任されないように法律で制限をかける。これが前回の話。それとともに、その国の自然権と、国民の自然権を調整するためにも存在する法律ということになります。これが今回の話。確かに、どちらが自由すぎても、調整がとれなくなりますからね。国側の自然権を抑え込むのと同じく、国民側の自然権を抑え込む。そして、国籍法と言う法律が作られる根拠として、憲法の第10条があるということにもなります。『何で国籍法なんか作ったんだ!』と自然人たちが文句を言うと、『そりゃ第10条があるでしょう・・・。だから作っていいんですよ。』ということになるわけで、『その第10条があるのはなんでなんだ!!!』と文句を言うと、今のように、『勝手に国民の信託を別の国へと秒速で変化されたら困るからだ!』という理由があるからです。本当にこんなこと考えているのは、私だけかもしれませんが。仮に国籍法や、それに代わる法律がないのであれば、私の言ったことができてしまうはずなんですよ。1秒ごとに国籍を変えることなんて、ちょろいもんです。」
 
学生B「ふむふむ。なるほど。一度信託を預けた以上は、ある程度制約されることを覚悟の上で預けたんですからね。そして、個人も国ですから、私たち個人個人も、個人国として自分の自然権を自由気ままに使わせないようにしている、ということでもあるんですね。」
 
先生「そうです。特に私がしたように、無節操な信託先の変更ですけどね、これは、別にやっちゃだめだと言われているわけじゃないんですよ。自然権からすれば、全く問題ない権利の行使なのです。ですが、どうですか?本当にこういうことをされると嫌だと思いますよ。このようにね、その人には、その権利を使うだけの資格があるんだけれども、他の人が困るような使い方をされると困る、という事情が出てくるんです。国籍法がたとえできたとしても、1日ごとに国籍を変える人が現れたら、一体どうするんでしょうね。」
 
学生A「さぁ・・・。」
 
先生「この話は、いい例とは言えません。それをしたからと言って、その人に何らかのメリットがあるかというと、何もないと思います。する人自体がいない。自然権の内容を充足するのは、その人の欲求を満たすためですからね。国籍変更にそうした目的がない限りは、そんなことを現実にするとは思えませんから、ただの空論にしかすぎません。ですが、あえてそれを行うことにメリットがあるとしましょう。その仮定に立って話をします。そのような使い方を、権利の濫用と言います。第12条を見る時に言及します。」
 
先生「ちなみに、国籍を離脱する手続はここに書いてあります。
https://www.moj.go.jp/ONLINE/NATIONALITY/6-3.html
で、以前の章の復習なのですが、国籍を変更したいという自然権を行使するための自然義務は、私が国籍変更の意思を示すことでした。自然責任はないといってもよかったですね。あるとすれば変更後に自分が受けるものを引き受けることでしょうか。これが原則です。しかし、それだと国側が困りますから、国籍法にのっとって、手続を作りました。ですから、私たちはその自然義務を行使したければ、国籍法に基づき、手続を取る必要があるのです。」
 
この章のまとめ
 
自然権はなんでもやっていい権利なので、秒速で国籍を変更することも可能。つまり、信託先を変更することも可能。
 
しかし、それだと国と個人との関係が安定しない。従って、その地位をある程度固定する必要が生まれる。
 
そのため、国籍というものを作り、その国籍を持っている間は、その国の国民であることにし、国籍を変更する手続を取るまでは国籍を変えることはできないというルールを作る。
 
これは自由に国籍を変更しまくることの出来た国民の自然権に対する制約を意味する。このように、憲法は、国民側の自然権の行使を抑制する根拠にもなりえる。つまり、前著で学んだ、国側の自然権を抑制すると言う役割がある一方で、他に、国民側の自然権を抑制するという役割を持つ。そのことにより、両者の関係と秩序を保つことに寄与するのである。
 
国籍の変更は、手続にのっとれば、自由にしてもよい。
 
国民である要件は、国籍法で定められている。出生したとき、戸籍に登録されるはずなので、そこで日本人であることが確認される。
 
例え国籍変更が自由だからと言って、変化させまくるのは権利の濫用となる可能性があるが、これは現実に行う人がいるとは思えず、いい例とは言えない。
 
また、憲法学では、外国人の人権はどこまで認められるのか?ということが論点になります。

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