蒼天航路 勝手に解説⑧ 蒼天航路の説く 『天下』とは何か

蒼天航路は、三国志の物語である。大抵は蜀の劉備が主人公になる話が多いのだが、この物語は曹操を主人公とした異色の物語となっている。

この漫画のテーマはこれだ。『悪人は本当に悪人だったのか』

この漫画を読めば、世界に名を轟かせた悪人 『董卓』さえも、非常に合理的で頭の切れる存在として描かれ、しかも史実とその根拠は一致しているため、人々が人物に下す評価がいかにずれているものかがよくわかる。

蒼天航路を読んでも、董卓は表面的にめちゃくちゃな人物に見える。こんな人が実際にいると、怖いだろうなと思う。

さて、それはともかくとして、この物語で語っている一つの重要なテーマがこれだ。

 『天下とは何か』

三国志の英雄たちが天下を目指す!と言っているが、スラムダンクでいう全国制覇とどう違うのだろうか。共通するところは、その目標が人の気持ちを引き付けてやまないところである。醒めている人間にとっては、はいはいがんばってね~というものでもあるのだ。

私たちも何となくわかった気になっている。『天下』。なんていうか、秀吉の天下統一。つまり、全ての国の武力制圧をして、自分の政治を全国に及ぼすための座に就くことなんじゃない?という感じだ。

確かに客観的にはそうだ。でも、それぞれの英雄が思い描いている天下はまるっきり違う。ここには、蒼天航路の『文学』がちりばめられている。

曹操にとっての天下とは何だったのか。

それは、『自分を人間たらしめるもの』である。

なぜ曹操は、郭嘉の文句に言われるように、すぐに天子の座につかなかったのか。そのため、何故戦の世を長引かせたのか、という答えもここにある。

曹操は『人間』であることをやめるつもりは、毛頭なかったからだ。

天子になるということは、逆に言えば、『人間』をやめることになるのだ。

曹操のとらえた『人間』というものは、非常に文学的で、すごい!天才だ!と思うような捉え方であり、あらゆる英雄にとっての天下のとらえ方の中で、群を抜いた慧眼といってもいい。

例えば、日本の文学では、太宰治が全く同じ視点から、『人間失格』という物語を描いている。『人間』とは何か。そして、それに失格するというのはどういうことか。

この記事だけで、人間とは何か、天下とは何かをイメージするのは難しいだろう。私が一人で分かった気になり、そして興奮してこの記事を書いただけのようにも見えてくるだろう。

でも仕方がない。『天下』を理解できた人は、文学を理解できた人。天下のとらえ方が、その英雄の命運を分けたのではないかと思うほどだ。

例えば、袁術にとって、『天下』とは『すごろくのあがり』であった。
袁紹にとっては、『母親の腹の中』あるいは、『母そのもの』であった。

劉備にとっては、『嘘つき野郎のいくところ』それが「天」であり、徳の高い実直な存在がそこにとって代わることを目指した。

孫権にとっては、『動物の精神』であり、彼は動物を飼いならすことに長けていたため、彼が天下に行くことは、天下を飼いならせると思わせた。

董卓にとっては、天下とは弱い人間たちが勝手に都合よく定めた善悪の基準(特に形式を重んじすぎて中身が空っぽになってしまった形骸的な伝統)を超えた王の座に就くことであり、今の濁った天を地へ叩き落し、全てを浄化して新しく優秀で理知的な人間のみにより構成される清らかな天を作り上げようとした。しかし、弱い人間たちの粘着的な悪い噂により評価は地に落とされたうえ、反乱を招いたり王允と貂蝉の奸計により呂布が裏切り命を落としてしまう。(逆に、呂布の裏切りがなければなかなか倒せない相手であったともいえる。つまり、スキのない男なのだった。)

諸葛亮孔明にとっては、天下とは淫靡なるものであり、人々を惑わす淫魔であった。意外に思われるかもしれないが、この諸葛亮孔明のとらえ方も、群を抜いて優れた卓見である。

劉表にとって天下とは諸葛亮孔明がとらえた天下でありながらも、その正体に気が付かず、自分自身を陶酔させる理想の夢であった。つまり、マスターベーション、自己陶酔の対象だった。

『天下』というものに疑問を投げかけていたのは、孫権だ。『天下』とはなんじゃぁ~~・・・。

結論から言えば、天下とは人によってとらえ方が全く異なるものであり、唯一絶対の答えではない。皆それぞれの天下の形を胸に抱いていて、実はそのどれもが正解なのである。

すなわち、彼らが天下というものをどのようにとらえてきたかを私たちが読み込むことにより、天下がどのような性質を持っているのかが理解できるのだ。

さて、この文章だけでは、確たる回答はしていないと思うけど、読者は『天下』とは何かがわかるだろうか。

知ったかぶりしてんじゃねぇの~?って思われているかもしれませんが、そんなことないですよ。ただ、ちょっと言いにくいだけですよ。

 




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