素人のための法学入門 #2


はじめに


第2話目でごんす。前の話はこちら!

自然権があるからこそルールができる


 
先生「では、先ほどの話についての解答なのですが。」
 
学生A「はい。」
 
先生「実は先ほど学生Bさんがおっしゃったことが、ほとんど正解なのです。」
 
学生A「え~。どういうことですか?」
 
学生B「ほらみろ~。」
 
学生A「あんたは黙ってて。」
 
先生「この権利は、私たちが生まれる遠い昔、人類の起源にまでさかのぼって考えます。今と同じように、彼らはお腹が空いたら食べ物を求めます。眠くなったら眠ります。」
 
学生A「そうですね。昔も今も同じところは同じですね。」
 
先生「人間がたくさんいると、いろいろと諍いが起きるのも今と同じですね。例えば、食べ物を巡って争ったり、お互いが殺し合ったりすることもあるんです。」
 
学生A「そんなことが・・・」
 
先生 「はい。人間があまり多くない時は互いに協力しあって食べるものを取っていました。ところが、そこそこ人間が増えてきて、一人当たりの食べ物が少なくなってくると、どうしても他のところから取ってこないと追いつかないのです。」
 
学生A「そうですね。」
 
先生 「日本は飽食の時代にありますから、食べ物を巡って諍いが起こるということはめったにありません。東日本大震災の時でさえ、東北の皆さんは争い合うことがなく、世界から称賛されていました。一方で、お金を払わずに食べ物を取っていく事件がメディアで頻繁に報じられます。」
 
学生B「知ってる!無人販売所で商品を盗んでいく人ですね!」
 
先生 「そうです。近頃は家庭の貧困が問題となり、子ども食堂というものまでできました。食料さえまともに購入して暮らすことができない家庭が目立ち始め、貧困の問題が発生しています。」
 
学生A「そういえばそうね・・・。日本の未来は大丈夫かな・・・。」
 
先生 「今その話はおいておいて、自然権についてのお話です。自然権とは、何でもやっていいことですから、商品を盗むことも自然権の行使です。」
 
学生A「そうなんですか!?」
 
先生 「はい。しかし、自然権はその人のものだけではありません。その商品を売っている人にもあります。お金を払わないでも食べ物が欲しいと思っている人と、食べ物を売るからにはちゃんとお金を払ってほしいという人、二人の人がここでは登場しているわけですね。」
 
学生A「そうですけど。やっぱりお金を払わないとだめですよ。」
 
先生 「結論から言うとそうなるんですが、誰しもが自然権を持つというのがキーワードです。物を盗む自然権の行使が許されているとすると、全ての人に自然権があるので、皆タダで商品をとるようになっていきます。」
 
学生A「そうすると、多くの商品がお金も払われずに持っていかれるってことですね。」
 
先生 「そうです。激しい抵抗にあって喧嘩がはじまることもあるでしょう。自然権はなんでもしていい権利ですから、取られたものを取り返そうとするのも問題ありません。商品というのは、生産者の方達が手間暇をかけて加工したものです。それをただで持っていかれたのでは困りますよね。それに、紛争が頻発するのでは社会がなかなか安定しません。というわけで、ここで自然権の行使に制約を科す必要が出てくるのです。」
 
学生A「制約? ルールのことですか?」
 
先生 「その通りです。『他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。』と刑法235条に書かれています。つまり泥棒したら刑罰を下すってことです。」
 
 
学生A「これなら刑を怖がって誰も盗もうとはしませんね。」
 
先生「ところがそうはならないのです。刑法235条は今でもちゃんと生きた条文として定められています。それにもかかわらず、物を盗む人はでてきますよね。」
 
学生A「あっ・・・。」
 
学生B「その人たちは刑法のことを知らないんじゃないですか?」
 
先生「知らないかもですね。しかし、物を盗んだら警察官に捕まるということは小さな子供でも知っていることです。こんなことは常識中の常識です。」
 
学生A 「・・・そういえば。」
 
先生「こういう犯人は、捕まるかもしれないけれども、あえて盗むんです。」
 
学生A 「つまり、刑法なんて怖くないってことですか?」
 
先生 「そうかもしれません。でも、死ぬよりつかまった方がましという人もいるんですよ。」
 
学生A「お腹が空いて耐えられなくなったっていうことですね。」
 
学生B「どちらにせよ勝手な人だなぁ。」
 
先生 「世界には空腹の人なんて山ほどいます。それは彼ら自身のせいじゃないことが多いのですよ。」
 
学生B 「う~ん。自分がその人の立場に立ったら、お金がないんで恵んでくださいっていうのもかっこ悪いなぁ。」
 
先生 「人はそういう立場になることも嫌なものです。惨めな思いをしたくはないし、お金も払えない。だけど、空腹は満たしたい。とすれば、盗むくらいしかない。」
 
学生A 「じゃあ、刑法なんて全く役に立たないんじゃないでしょうか。」
 
 
先生 「刑法がないということは、ただで取ることを国が認めているようなものです。このような状態になると、全てお金を払わずに済ませようとするかもしれません。」
 
学生A「絶対に盗まれなくなるにはどうすればいいのでしょうか?」
 
先生 「残念ながら特効薬はありません。仕事のない人に仕事を与えたり、刑罰を与えたりすることで、抑制していくしかありません。」
 
学生A「ええ~。そんなぁ。」
 
学生B「自分は、悪人がものを盗むと思っていました。」
 
先生 「犯罪を犯す人のことを悪人というのであれば、それは大きな間違いです。『亜』とは、『第二の、次ぐ』、といった意味なのですが、心が下についていますね。悪人の意味は、私たちが勝手にもったイメージで決められてしまいました。犯罪者=悪人とは限りません。『悪』とは、外観と事実のすれ違いを引き起こそうとする心なのです。第二の心。下心。つまり、表立っては見えない心のことですね。
 例えば息子が犯罪者であることを隠そうとして自分が犯人だと名乗り出る母親も悪人です。私たちが近づきたくもない獰猛で乱暴な人間も、それを包み隠さず外に出しているのであれば、悪人ではありません。それは近づくと危険な人ですね。だって、それが悪いなら、熊も悪いことになります。
 さて、少し話がそれましたが、犯罪者のほとんどは通常の人の中から出てきます。もしかしたらあなたたちが将来犯罪者になる可能性も0ではないのですよ。」
 
学生A 「えっ・・・。」
 
学生B 「まじか・・・。」
 
先生 「大マジです。あなたたちも自然権を持っていますからね。物を盗んだ人も、ひと昔前までは自分がこんなことするなんて考えてすらいなかったはずです。」
 
この章のまとめ
 自然権と自然権が衝突をすることがないよう、あらかじめルールを作っておく。しかし、ルールは絶対に衝突を防げるわけではない。
 

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