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キャット・パワー@豊洲PIT

2025年3月21日(金)

豊洲PITで、キャット・パワー。
「Cat Power Sings Dylan : The 1966 Royal Albert Hall Concert」。

映画『名もなき者/a complete unknown』の公開でボブ・ディラン(及びディラン楽曲)の再評価・再認識がなされるなか、絶好のタイミングで行なわれたキャット・パワーの「シングス・ディラン」ライブ。自分もあの映画を2度観たことで以前よりもディラン楽曲に対しての気持ちが入っていたので、今このタイミングでこれを観れたというのは大きなことだった。

わりとよく行く豊洲PITが、この日はオールスタンディングではなく席ありだった(そういえばチケットに席番がふってあったが、そのことには入場時に気づいた)。12列目のわりと真ん中。非常に観やすく、また豊洲PITなので音響もいい具合だった(椅子がカタくてちょっとお尻が痛くなったけど)。

予習を兼ねてキャット・パワーの2023年のライブアルバム『Cat Power Sings Dylan : The 1966 Royal Albert Hall Concert』をこの数日でサブスクで2回通して聴いた。この通りにやるというのが事前にわかっていて、それが既にあるのは予習する上で助かる。素晴らしいライブ作品だなと思った。考えてみれば本元のディランのロイヤル・アルバート・ホールでのライブ盤をちゃんと聴いておけば歌い方やアレンジをどう変えているかなどもわかってより楽しめたのだろうが、なぜかそっちを聴くという発想に至らぬまま当日を迎えた。

客層としては50歳オーバーと思しき男性が8~9割。開演前にトイレに行こうと思ったら、おじさんたち(自分もだけど)が長い列を作っていて、ちょっと驚いた。キャット・パワーが日本でこの年代の男性ばかりから熱く支持されているアーティストだとは思えないので、恐らく、いや間違いなくディランに対する思い入れの強い人たちだろう。ディラン曲を歌うというので観に来た人たちなのだろう。

ライブアルバムの通り、前半がアコースティックで、後半がエレクトリック。

前半のアコースティックはアコギ奏者とハーモニカ吹奏者とシャーン・マーシャルの3人だけ。アコギの音色、ハーモニカの音色、シャーンの歌声と、どれも深い響きを持ってこちらに届く。会場の音響のよさもあるが、効果的だったのは照明の加減だ。演色性に優れた白熱電球のような光の加減で、ほの暗い。アコギ奏者とハーモニカ奏者の顔は暗くてほとんど見えない。シャーンですら、センターのマイク前に立っているときはさすがに表情がわかるが、横に動いて歌っているときは暗くて顔が見えない(たぶんそれも意図的なのだろうが、ある曲ではショーンはセンターから横に動いて、その位置で照明の当たらぬまま歌い通していた)。それ故に歌声と最小限の楽器の音だけが深みをもってこちらに響いてくる。そういえば昔…自分が中学生だった70年代のコンサートの照明は今と比べてほの暗かった。60年代の英国の演劇場の照明はまさにあんな感じだったのかもしれない。

アコギとハーモニカを奏者に任せ、歌に徹するシャーンのそれからは、ディラン及びディラン楽曲への敬意と思い入れがとても伝わる。が、ディランの節回しで歌うのではなく、自分の歌い方で丁寧に届ける。ときどき口元に手をあてて声の響きをはかりながら歌を届ける。思いがちょっとした手の動きにも表れる。もうけっこう長いことこのコンサートをやってきているのに、慣れたような歌い方をしない。この日の歌はこの日の気持ちの歌なのだろう。

どの曲もよかったけど、映画を観たばかりということもあって「It's All Over Now, Baby Blue」がとりわけ胸に沁みた。それから「Mr.Tambourine Man」。シャーンはピッチを変えることで旋律の美しさを際立たせているようだった。ディランのそれとはまったく違い、改めて曲のよさを実感した。

「Tell Me, Momma」で始まった後半はフルバンドでのエレクトリック。前半との対比が効いて、大きな音が鳴り出した瞬間から開放的な気持ちになる。シャーンの表情もそんなふうで、終盤ではときおり笑顔も見せた。

バンドの音は迫力もありつつ細やかでもあった。60年代のアメリカン・ロックバンドっぽい音。ザ・ホークス~ザ・バンドの演奏ってこの感じに近かったんじゃないかなとイメージさせられたりもして。ギターと鍵盤の音がとりわけよかった。

ハーモニカのよく聴こえる「I Don't Believe You(She Acts Like We Never Have Met)」にグッときて、「Baby, Let Me Follow You Down」のグルーブと鍵盤音にしびれて、「Leopard-Skin Pill-Box Hat」では立ち上がって揺れたくなった。ブギは最高。

ラストは「Like A Rolling Stone」で、多くの人たちが立ち上がった。♪How Does it feel のところでシャーンは客席にマイクを向ける。大きくはなかったけどシンガロングが起きる。締めにこの曲が来るってわかっていたけど、やっぱりたまらなくグッときた。2025年にこの曲をこんな気持ちで聴くというのは、つい先ごろ映画を観たことも大きいけれど、昔は想像できなかったことだ。

どの曲もそうだったが、シャーンは曲のなかの重要な言葉/フレーズを強調するように歌っていた。なぜ今この曲を歌うのか。それが伝わる歌い方だった。ディランの歌だけどキャット・パワーの歌だった。MCもグッとくるものばかりだった。音楽の魔法を今も信じている人の歌であり言葉でもあった。

帰りの電車でディランのライブを聴き、寝る前にもう一度キャット・パワーのライブ作を聴いた。いい夜になった。





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