希望と不安、半分ずつ:「ARCO/アルコ」感想
「ARCO/アルコ」は近未来を舞台にしたジュブナイルSFだ。気候変動が進み、大嵐や山火事が頻発する2075年。主人公の少女イリスは、仕事で家を空けがちな両親の代わりに育児をこなす家政婦ロボットと赤ん坊の弟と共に暮らしている。イリスは、ある日、空から虹色のスーツに包んだ少年が落ちて来るのを目撃する。彼は時間旅行に失敗してこの時代で迷子になってしまったアルコという未来人だったのだ。彼が元の時代に戻るには、森で落としてしまったひし形の水晶を探すか、虹を人工的に起こすかして、虹のスーツの力を取り戻すしかない。かくして二人はアルコが未来へ帰るために試行錯誤を始めるのだが、徐々に淡い恋心が芽生えはじめる…というお話。
SFの要素として気候変動が全面に出てくる。本作の製作国はフランスだが、EU圏は環境問題への関心が高い。地域性を感じる設定だ。イリスの暮らす時代は常に自然災害が起きていて、それぞれの建物がシェルターになっている。さらにその未来のアルコの時代では、人類に破壊された地球を休ませるため「大休閑」が設けられ、人々は空の上まで大きな木のような建造物を伸ばし、天空の家々に暮らしている。
そして人類が守るべき、豊かで美しい自然へのアニメ的なアプローチは、宮崎駿作品を彷彿とさせる。葉っぱに滴り落ちる露や、苔むした岩の上で鳴くカエルなどのインサートはジブリっぽいなと思った。そもそもの設定も「風の谷のナウシカ」みたいだ。これ以外にもカーチェイスシーンは「ルパン三世 カリオストロの城」、終盤に出てくる空から落下する二人のモチーフは「千と千尋の神隠し」(僕は最初「天気の子」に似ていると思ったが、一緒に観ていた彼女に「千とハクのモチーフだ」と指摘されたので、そちらを採用)を連想させる。どこまで具体的に参照したり影響を受けたりしているかはともかく、宮崎駿的(あるいはジブリ的)な演出は、フランスでも通用するスタンダードなのだと思った。
一方、キャラクターデザインはあまり可愛くない。というか少し気持ち悪い。少年少女が主人公のジュブナイルモノなのに、これといって親近感を持たせる気がないのは、日本のアニメ映画にはないセンスだと思う(もしかしたらフランスの観客はこれが可愛いのかもしれないが)。しかし、虹色のスーツに身を包んで空を飛ぶ独特のダサさと、その違和感ゆえに逆説的に漂う神秘性(この世のものではないという感覚)は、本作にしかない魅力だ。虹、それから落下と上昇のモチーフはこの作品の軸になっており、少々変なキャラクターデザインと相まって、SFらしい異物感のあるビジュアルになっている。映画には必ずその作品ならではの発見があるべきだというのが自論なのだが、僕は本作のこのビジュアルセンスに唯一無二の輝きを感じている。
物語の発端からして、アルコがもとの世界へ戻るであろうことは想像がつく。だからいかにその過程を盛り上げるか?が肝だと思っていたのだが、僕がグッときたのはむしろその後の着地のさせ方であった。
イリスとアルコは虹色のスーツを復活させようと試行錯誤するが、アルコを未来人だと信じてくれない親に警察へ通報され、追われる身となってしまう。時を同じくしてイリスの集落で山火事が発生。学校へ逃げ込んで形勢を立て直そうと図るが、結局山火事に巻き込まれ、大切な友人であった家政婦ロボットのミッキを喪うことになる。一度はアルコと共に未来へ行きたいと願ったイリスは、この喪失を通して、アルコに頼るのではなく自分で生きていこうと決意する。
しかし、一方のアルコを待っていたのはかなりビターな結末だった。山火事が収まり、丘の上で助けを待っていると、虹色の筋が空の向こうからやってくる。アルコの両親と姉が彼を探していたのだ。アルコは家族との再会を喜ぶが、三人の顔には皺が刻まれ、頭は白髪まみれ。彼を見つけるためにあらゆる時代を旅した結果、何十年と時間が経ってしまっていたのだ。アルコは軽い気持ちでスーツを盗んだのに、その失敗の代償はあまりに大きなものだった。僕はすんなりハッピーエンドで終わると思っていたので、この残酷な結末にはとてもショックを受けた。しかし、同時にこのスケールの大きさこそSFの醍醐味であり、ほかのジャンルでは出せない味だとも思う。このオチはなかなかひねりがきいていて良い。
苦いままで終わらせないのもこの映画の好きなところだ。アルコは年老いた両親と姉と共に未来へ帰ってしまうが、エンドロールでは、残されたイリスが猛勉強をし、科学者になっていくことが示唆される。アルコが教えてくれた未来の家を、彼女が実現していく。アルコの伝えた未来を、過去のイリスが現実にするというパラドクスがここに発生する。人類を率いる未来の指導者ジョン・コナーを産む母サラを機械軍の暗殺から守るため、過去にタイムスリップしたカイル・リース軍曹が、サラと結ばれてジョンの父になるようなものだ。これもSFならではの味わいだと思う。
アルコが迷子にならなかったらイリスに出会うこともなく、そしてこの偶然がなければ人類の暮らしは異なるものになっていたのだから、アルコの冒険は未来を変えたのである。一人ひとりの人間はちっぽけで、たいしたことないかもしれないけれど、その小さなことの積み重ねが大きく世界すら変え得ると考えるとロマンがある。未来への不安と希望が半分ずつ乗った、少々ほろ苦いSFだった。

