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「再任用」の先生は、半分の給料でそれまでと同じ仕事をしている。

  私は、60歳で定年退職となった後、「再任用教員」として引き続き勤務しています。

  公務員の「再任用」は、「老齢年金」の受給開始年齢までの生活を賄うための「再雇用」の一種です。任期は1年で、「勤務実績が良好な場合」は年金の受給開始年齢の65歳になる年まで更新されることになっています。引き上げられた年金受給開始年齢までの「つなぎ」という言い方もあります。  
  年収は、定年前の約5割です。いきなり半減はスゴイ変化です。バターはマーガリンに、コーヒーはインスタントに変更を余儀なくされるレベルです。
  自治体に「なぜ5割なのか」と問えば、「国家公務員の制度に倣った」との回答です。「地方自治」とは名ばかりで、職員の待遇を含め、施策はほとんど国の指示通りです。
  同じ問いを国の人事院に投げると、「民間の再雇用の給与水準に合わせた」との回答でした。民間も国家公務員も地方公務員も、定年後の再雇用職員の収入は5割が標準という見解のようです(「雇用保険」の制度では、再雇用後の収入が退職前の75%を下回る場合、生活を支えるために「高年齢雇用継続基本給付金」が支給されるそうですから、ここでは、退職前の5割では不足と考えられているようです)。

  再雇用や再任用は、「定年後の高齢者の非正規労働」です。有期契約ですから民間企業の「契約社員」や「嘱託」に近い語感があります。短時間勤務を選べることもあって、「第一線からは退き、ゆったりと働かせていただいている」、「収入はかなり減ったが生活には困らない」という満足そうな感想もネット上に散見されます(ムムっ、ちょっとサクラっぽい?)。

  老齢年金の受給開始年齢は、2001年度から2023年度までの24年間をかけて段階的に65歳まで引き上げられましたが、一方で、2024年度からは、公務員の定年が、2年で1歳ずつ、8年で65歳まで引き上げられている最中(「もなか」、じゃなくて「さいちゅう」)です。
  この制度の下では、定年延長後の61歳以降の収入は、60歳のときの7割と決められました。2025年現在は、定年が62歳ですから、62歳までは7割、そこから65歳までは5割の給与になります。
 ①60歳まで               =100%
 ②延長した定年(61➡️65)まで  =70%
 ③定年以降の再任用期間(〜65)=約50%
  私の年代は、ちょうど、年金の支給が少しずつ遠退いていく制度と、定年が少しずつ引き上げられていく制度の狭間で、60〜65歳まで完全な無年金、収入は半減(上記の②がなかった)という最も残念な世代ということになります。本来的なあり方ではない、経過的な存在ということで、名称も、わざわざ「暫定再任用」と改められました。「確かに整合性に問題がないとは言えないが、暫定的な制度なので・・・」と、人事院の担当者も(電話での問い合わせに)この名称を使って弁解しました。
  いったん退職した後の有期契約の再任用職員が、責任の度合いも小さい非正規雇用であるのに対して、定年延長の場合は、引き続き正規職員として、それ以前と同様の職責を担うことになる、これが5割と7割の違いの根拠でしょうか。 
  再任用職員の給料は定額制なので、定年時点の給与からどの程度減ったかは人によって異なります。私の場合は、一時金の支給割合の半減も含めて、年収が退職前の51%になりました。
  扶養手当もなくなります。今日、ライフサイクルも多様化していますから、学齢期の子どもをもつ60歳代も珍しくはありません。なぜ、扶養手当をなくすのかと問うと、人事院の担当者は、「扶養手当は、職員のライフサイクルに応じた支援として付与されているものですので、1年毎の契約になる再任用には適用されません。」と答えました。非正規のライフサイクルは考えません、という態度です。
  ここまでは公務員一般の話です。

  教員の場合は、事情は少し違います。
  自治体によって若干の差はあるようですが、多くの場合、再任用教員は、担当授業時間数、校務分掌など、定年前と同じ職務を担います。10人を超える再任用が配置されている学校もあり、その数が全常勤職員の20%近いというような学校もあります。再任用教員は豊富な経験をもつ教員ですから、学校の中では中核的な役割を引き続き担う場合も多く、学級担任はもちろん、学年主任、教科主任、生徒指導主任、進路指導主任、教務主任などを務める場合もあります。
  ご存知のように、多くの学校では、朝や夕方に毎日数時間の超過勤務が常態となっていますが、上記のような中核的な役割を担えばさらに長時間、働くことになります。給与は半減しても膨大な仕事をこなし続けることになります。
  再任用採用のための面接では、「部活動の顧問も担当していただきますがよろしいですね」と念を押されます。「できません」と言えば不採用になりそうですから、「はい」と言わざるを得ません。顧問となれば、「部」によっては、朝、放課後の指導だけではなく、毎週のような休日の指導や引率もあります。
  法で定められた員数(定数)のひとりですから、再任用だからといってその仕事量を軽減すれば、必然的にその他の職員の負担が増大することになります。増して、この数年は教員志願者の減少などにより、多くの学校が慢性的な教員の欠員に苦しんでいますから、再任用だからといって、ゆったりと働いてもらうわけにはいかないというのが実情です。

  60歳を越えた途端に収入は半減し、それまでと変わらない職責と働き方、長時間労働に耐えている再任用教員が、どこの学校にもいるわけです(短時間勤務の選択肢もありますが、この場合は、再任用の給料水準に勤務時間の割合を乗じるので、退職前の30%や20%といった収入になります。これは、実態としてはほとんどアルバイトです)。

  近年、教員は、教員調整手当4%の支給と引き換えに、残業手当もなく体よく際限のない長時間勤務を強いられるブラックな労働環境にあると指摘されてきましたが、再任用教員の場合は、年金が受け取れず働かなければ生活ができない状況を見透かされ、同じ勤務内容でありながら大幅な収入減を強いられます。この制度は、言外に「この条件が不満だったら自分で再就職先を探しなさい」、と言っています。民間で再就職すれば収入はもっと下がることになります。全国の学校で、おそらく5万人を超える再任用教員が、厳しい状況に文句も言わずに教育現場を支えています。

  それにしても、量的にも質的にも、それまでと全く変わらない仕事をしていながら、ある日から給与が半減される、などということが労働法制上許されるものなのでしょうか?
  過日、労働法に詳しい弁護士を訪ね、質問してみました。
  「仕事量や内容が全く変わらないという再任用のケースは、当初想定されていなかったと思われます。(そういう事情は)公務員の中でも教員に限定される問題だと思いますが、全く変わらない仕事量、内容ということになると、労働法の理念から言えば間違いなく違法です。しかし、国はやり方がうまい。ズルいと言ってもいいと思います。雇用の延長という社会的な要請を前に、定年前と同じ給与を払い続ける原資はない。始めの数年は、いくらかは支給される年金もあるので5割でも、と納得させておいて、そのうちに年金は全く支給されなくなる。不当だと訴えようにも、組合も人事院も結託して始まった制度ですから、どこも取り合ってくれません。極々少数の労働者が泣き寝入りを強いられているのが現状ですね。労働法に関わるひとりとして、どうにかできないものかとは思いますが、申し訳ないとしか言えません。」(2025年、11月)


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