理想の脱力の鍵は中心軸にある?!

【第二章 理想の脱力】
○「力を抜いて」と言われても…?
楽器を習っている人なら、一度は
「力を抜いて」「リラックスして」
と言われたことがあるでしょう。
しかし、頭ではわかっていても、
身体はなかなか言うことを聞いてくれません。
「脱力しているつもりなのに、先生から『まだ力んでいる』と言われる」
「脱力しようと意識しすぎて、逆に固まってしまったり、抜けなくてよいところまで力が抜けてしまう」
――そんな経験、ありませんか?
実は、本当にやっかいなのは、
自分でも気づいていない深層部の緊張です。
意識できる力みはまだ浅い。
本当の問題は、無意識レベルで常に身体にかかっている過剰な緊張なのです。
⸻
○脱力を深く理解するための4つのテーマ
僕は「脱力」を、ただの「力を抜く」
という言葉で片付けず、
次の4つのテーマに分けて
考えています。
1. どんな状態が理想的な脱力なのか?(有効な脱力とは)
2. 脱力にはどんなメリットがあるのか?(逆に、力みのデメリットとは)
3. なぜ簡単に脱力できないのか?(原因)
4. どうすれば脱力できるのか?(方法論)
この4つを検証していくことで
脱力が単なるダラっとする事ではなく、
身体の使い方全般を左右する、奥深いテーマであることが見えてきます。
⸻
○独学では見えにくい壁
良い脱力がどういう状態なのか、何も手掛かりがないままでは、練習は手探りです。
センスのある人でも、ある程度まで行くと伸び悩み、壁にぶつかる時が来ると思います。
この壁を越えるには――
• 科学的な身体の仕組みを学ぶ
• 達人と呼ばれる人の動きを分析する
こういったことが挙げられるでしょうか。どちらも一筋縄ではいきません。
私も最初から脱力が得意だったわけではありません。
身体論の本を片っ端から読み、
武術や気功のセミナーに通い、
生徒とのレッスンで試行錯誤を長年繰り返してきました。
すると、表現の仕方こそ違っても、
どうやら共通した本質があることが見えてきました。
その中で確信したのは、
脱力のカギは
“重力感知” と “軸” ではないか?
ということです。
「うわー、また何やら難しそうなワードが出てきた、、、😱」
と、思われそうですが、伝わりやすくなる様に脱力しながら頑張ります(笑)
⸻
◯脱力のカギ1:重力と張力
人間は直立二足歩行を選んだことで、“脳”という生死に関わる重要な器官を
「地面から最も高い位置に置く」
という、一見矛盾したリスクを背負いました。
そのため、重力と常に向き合いながら、転倒を防ぎつつ動く能力――
つまり高度なバランス感覚が必要になったのです。
この「高度なバランス感覚」とは、
言うなれば不安定をうまく利用できる状態です。
動くという事自体、身体のバランス配分を崩し、変化させる事ですから。
難しく聞こえるかもしれませんが、
科学的に言うと重心線と支持線を自在にコントロールできる状態、
つまり結果としての “軸” が出来た状態です。
勘の良い方ならピンと来たかもしれませんが、これが先の章でご紹介した
「揺動支点モードの身体」です。
実は、現代日本ではこの軸の質が非常に低下しています。
その原因として、
昔に比べて我々を取り巻く環境が
様変わりした事が挙げられるでしょう。
生活が便利になり、
環境も安全になり、
肉体労働者以外は
日々身体を使う機会が減ったせいで
身体運動の基本である、
「立つ」「歩く」「物を運ぶ」等の
誰でも日常で行う運動自体が
「安定するために土台を固定してから動く」固定支点に置き換えられていることが挙げられます。
首や肩、腰の力みは、その “土台化” の現れです。
⸻
○見た目の「良い姿勢」は罠
・「胸を張る」
・「背中を真っすぐにする」
・「アゴを引く」
・「膝を伸ばす」
これらは社会的には “姿勢が良い” とされますが、
実は動きやすさや軸を奪う原因になります。
それどころか、実は「軸をイメージする」もそうです。
重力の影響を常に受けている身体にとって、その事とどう向き合うかは、実は健康や身体能力と大きく関わっています。
大事なのは
見た目の姿勢の良さではなく、
「重力に対して最小限の筋出力で立てているか?」
これです。
静止状態と動いている状態で全く違うのは当たり前ですが、
手を少し上げただけ、
足の位置をちょっとずらしただけ、
ちょっとオヤツを食べただけでも
重心線の位置は変わります。
とてもとても繊細な世界なのです。
頭で考えて姿勢を調整する、身体に任せないやり方で何とかなる世界ではありません。
見た目だけ整えた姿勢は、余計な緊張と調整を生み、
動きにブレーキがかかります。
こうしたアプローチ自体が「作為的・人工的」と言えるでしょう。
では、放っておけば勝手に良くなるのでしょうか?ーーー残念ながらそんな事もありません。
ただ表面的な力を抜いただけの脱力は意味がないのと同様だからです。
「天に任せる」
という言い方があります。
これも単に放任しただけの様な意味で
使われがちですが、
本来の意味はちょっと違っていたのではないかと思います。
そもそも何故、
「地に任せる」ではなく
「天に任せる」なのでしょうか?
それは、人間は天から吊られた様な状態があって初めて、地球の引力とのバランスが取れるからではないでしょうか?
⸻
◯脱力のカギ2:身体の「吊り下げ感覚」
最近はYoutubeや様々なメディアで、
「軸」「中心軸」「体軸」「センター」
等の存在や重要性の話を
よく耳にする様になったと思います。
しかし、
「今一つよく分からない」
「実感が湧かない」
と感じていませんでしょうか?
だとしたらそれは、
そもそも「軸」という物自体が、
「身体の無駄な緊張を最小限に抑える物」つまり、
「何かやっている実感が無い物」
である、という基本構造にピンと来てないのだと思います。
「軸」という言葉を考える上で、
欠かせないのが「吊り下げ感覚」です。
重りに紐を結んで上からぶら下げると、重力によって紐は自然にまっすぐ垂れ下がりますよね。
ここで、ちょっとした例え話をしましょう。
小学校の運動会の定番「玉入れ競争」を思い出してください。

玉を入れるカゴは棒の先に取り付けられていますが、
もしその棒を支える土台がなかったらどうなるでしょう?
誰かが下をしっかり持っていないと
棒はすぐに倒れてしまいますし、
玉が増えるほど安定させるのが大変になります。
つまり、下から支えるだけでは筋力に頼らざるを得ず、それは「固定支点」の状態です。
ではもし!
フックの付いたドローンを飛ばして、
紐の付いた玉入れの棒を引っ掛け、
上から吊るしたらどうでしょうか?
自然と垂直になり、下端を地面に触れる様に置けば、棒の幅の範囲内なら倒れることはありません。
玉が入って増えて重心の変化が生じても、それに応じて全体が微調整されるため、大きな力で支える必要が無くなります。

自由に場所も変えられる
人間の身体もこれと同じです。
多くの人は足や腰回り等、外側の筋肉で無理に支えていますが
“上から吊られてぶら下がっている”
感覚を持てたら、
支えの役割は自然と内側の筋肉、
いわゆる
「インナーマッスル」
に移っていきます。
これこそが余計な力みを取り除く鍵です。
さて、ここで疑問が浮かぶかもしれません。
「でも人間は、実際には吊られていないじゃないか?」と。
確かにそうです。実際に物理的な紐が上にあるわけではありません。
にも関わらず、
宮本武蔵をはじめ、古今東西の名人達人達やロルフィング等の身体論の分野で、
こうした事を説いている人達が大勢いる
のは何故でしょうか?
実は、吊られている様な浮いている様な感覚を作っているのは、
地面からの反力と、
それを全身に活かせる身体全体の張力(近年ではテンセグリティという概念で説明する方もおられます)であり、
それを感じ取るには、意識、それも深いレベルの「潜在意識」が育たなければいけないのです。
魚類や両生類、または蛇などの爬虫類は、頭部が脊椎を引っ張るように動き、
左右方向に波打つ様に連動して前進することが自然な形になっています。
哺乳類の場合、体温調整のためにも体幹部がより地面より高くなりました。
このため、左右の波動運動よりも前後の波動運動がメインになったのですが、
背骨は前足と後ろ足の間で「吊り橋」の様な状態になったので、
下にたわまないように
後ろ側(背面側)へは曲がりにくく、
前側(お腹側)へは曲がりやすい特徴を備える様になりました。
そして、基本的に人間以外の動物は、
脊椎(背骨)の向きは地面と平行で、
歩行の進む方向と一致しています。
一方、人間は二足直立歩行。
脊椎は垂直方向に伸びており、
進行方向とは直交した状態で歩行するという、非常に特殊な移動形態を取るようになりました。

直立二足歩行の人間の脊椎は
縦に直交している
ここで「上に引っ張られる感覚」がないまま、意識だけで背筋を伸ばそうとするとどうなるでしょう?
一時的には真っ直ぐになるかもしれませんが、それは単に下側から無理に支えているだけ。
先ほどの「玉入れの棒を下で支えている」状態と同じで、
本当の心地よさや安定感にはつながりません。
結果として、ただ立ったり歩くだけで「下からの支え上げ」では猫背になりやすいのです。
【考察ポイント】
我々人類の祖先が類人猿の様な不完全な二足歩行から、完全な二足歩行に進化した経緯には諸説ありますが、
気候変動による森林後退により、物を効率的に運搬したり長距離を移動する必要が生じたためと言われています。
でも本当にそれだけだったのでしょうか。
映画「2001年宇宙の旅」ではありませんが、何か宇宙の神秘的なパワーが働いたのではないか?
と考えるとロマンがありますね。
次回 実践ワーク編へ続きます!
いいなと思ったら応援しよう!
応援よろしくお願いします!いただいたチップはクリエイター活動に使わせて頂きますm(__)m