五つのマリ🎶
抽斗を ひらけば
そこに眠る 五つのマリ
樟脳と 古い絹の匂い
ちりめんの皺に滲む
朱 鶸 萌黄
ほどけかけた花と
ほどけきれない花
そっと
たなごころに のせてみれば
ふると小さく 音がする
その中身を わたしはまだ知らない
夕焼けが ゆっくり
消えてゆく場所で
これはあなたの縫い目
誰のものでもない襦袢
端切を継いで 継いで
継ぎ目こそが 地図になった
縫っていたのではない
針が動いたのでもない
何かがそこを 通っていた
光に満ちた部屋で
あなたは動かない
箪笥の奥から こぼれ出た
最後の一粒
震える指が かたく結んだ
ほどけない玉結び
あなたの体温を 探そうとするけれど
わたしのたなごころが
先に温まってゆく
ふたつめをひらけば 裡の種子が
言葉のように こぼれ落ちる
受け取って忘れ
忘れたことをまた
受け取るような 果てない日々
あなたが縫ったお手玉で
わたしはひとり遊んでいた
遊ぶたびに 胸の裏で
小さな玉結びが
玉留めできぬまま
静かな罪になってゆく
縫われていたのは
あなたではなかった
見えない糸のようなものが
部屋の閾に張られていた
あなたを縫いつけていた
あの頼りない何かを
わたしはまだ
見極められないまま
これはあなたの縫い目
外された嫁入りの色
端切を継いで 継いで
心さえも図学になった
縫っていたのではない
針が動いたのでもない
何かがそう 通っていた
光に満ちた部屋で
あなたを想う
抽斗をしめる
なかで 五つのマリが
またまどろむ
わたしの指は 結べないまま
今も あなたに
縫われている
