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長男の卒業式。母親としての私がいなかった日

祝福で満ちた体育館の中で、私だけ世界から切り離されていた。
キラキラした子どもたちの中に、寝ぐせがついたままの長男が、ひとり混じっていた。
その姿を見た瞬間、胸の奥が音をたてて沈んだ。
涙も悲しみも出なかった。ただ、白い空洞だけが広がっていた。
あの日の私は、母親である“居場所”すら持っていなかった。


長男の卒業式の日。
私はPTA役員として、来賓席に座っていた。

誇らしいはずの席。
けれどあの日の私は、そこにいること自体が場違いだった。
“母親としての席”から外へ押し出されたまま、
形だけ役員として置かれているような感覚だった。

保護者席には元夫。
その周りには、かつて笑い合っていたママ友たち。
私はもう、その輪の中に入る肩書きも距離感も持っていなかった。

式が始まると、体育館は「おめでとう」で満ちた。
未来への光を浴びた子どもたちが、まぶしい笑顔で前を向いている。

その中に、長男がいた。

寝ぐせのついた髪。
光を宿していない瞳。
周りの輝く子どもたちの中で、ひとりだけ影になっていた。

胸の奥が、静かに沈んだ。

式が終わり、教室へ移動する廊下。
私は他の母親たちと同じ流れに合わせて歩いた。

その時だった。

後ろから、私の髪にそっと触れる手。
ちいさな声で、

「……円形脱毛症かな?」

一瞬、呼吸が止まった。
続けて、その人は言った。

「大変だったね」

優しさの形だけをした、空洞のような声。
慰めでも共感でもなく、
ただ“傷をのぞき込むだけ”の距離感だった。

周りの母親たちは小さく視線をそらした。
ただ、私と関わらないようにする空気だけが流れていた。

教室の中には元夫が立っていた。
私は反射的に笑顔を作った。
ひきつった頬と、うまく動かない口元。

「じゃあ、ここで……」

その一言だけ残し、私は校舎を出た。

外に出ても、世界の音が戻ってこなかった。
風の音も、車の音も、遠くの歓声も届かない。

泣けなかった。
怒りも悲しみも湧かなかった。
感情のどこにも触れられなかった。

家に着いた頃には、
胸の奥に白い空洞だけが広がっていた。

あの日の私は、
母親としての居場所さえ失ったまま、
ただの“無”になって帰宅した。

それが、あの日の私の虚無だった。


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アリス 🎀🐇🫖 あの頃の体験を、誰かと分かち合いたくて書いています。読んでいただけるだけで十分ですが、もし応援までいただけたら感謝でいっぱいです💌