見出し画像

印可問答抄-天然理心流の神髄を読む24

「天然理心流 印可」の意訳・解説・原文の紹介です。
 
問答19 楯を捨てる覚悟 一騎討ちにおける心と眼の勝負
また問いました。勝負をする際、古人の教えでは後ろに楯(盾)を持つ(頼る)ことを勧めているが、これは理にかなっているのか?
答えて言いました。大勢が戦う軍陣(戦場)は別として、一騎討ちの勝負では全く事情が異なる。例え敵が自分より弱かったとしても、自分の後ろに楯を置いて(頼りにして)戦うのは非常に危険だ。敵に見透かされやすく、どれほど心を尽くしても、不意の敗北を喫することになる。だから楯を捨てて(頼らず)、戦う時は(敵の動きを)よく見通して、心を通わせて勝負を全うすべきだ。何事においても敵の見通しを外させるようにすべきである。なお、このことについてはさらに多くの口伝がある。
 
解説:後に盾(頼れるもの)があるとは、どういう状況をいうのでしょう。
まず、物理的な盾として、
 ①地形や障害物(岩・木々・堀・壁がある)
 ②後方支援の存在(味方が控えている)
が想定され、心理的な状況では、
 ③型や定法(構え・必勝とされる技)
 ④精神的な支え(家名・名誉・師の教え)
が想定されます。そして、これらの後ろ盾があることで、敵は身体の微細な動き(非言語的サイン)などから、こちらの意図・構え・心の揺らぎを読み取り、不意打ちで敗北を招くことになると指摘しています。不意とは、相手の優れた観察力によってこちらの心理的な隙を突かれること、つまり「読まれた結果の敗北」のことです。そしてこれは、後ろ盾(安全策)に頼ることで、返って動きが鈍り、心が定まらず、敵に先手を取られるという兵法上の教訓を示しているのです。このことは認知心理学の知見で示される、人は「守られている」と感じると、無意識に警戒を緩め、周囲の変化に対する感度が鈍くなり予期せぬ事態への対応力を低下させる、ということに一致します。
だから、盾を捨てて(安全感を廃し)自分の判断力と観察力に立脚せよ、自らがリスクを引き受け意思決定せよ、と説くのです。具体的には、敵の心理状態や注意の向きを読み取り(優位な立場を得て)、その裏をかくように動くよう教えています。これは「一騎」対「一騎」の極限の状況において、ただ守るのではなく、読むことで勝つという、静かなる攻めの姿勢なのです。防御より能動的な観察・予測・心理操作を重視せよという実践的な戦術論といえるでしょう。
 
原文
又問曰、勝負ヲナスニ古人ノ教道ニウシロニ楯(しえん)ヲトルコトヲ教導ス、是ヲ用イテ理アルヤ、対曰、軍陣ハ格別一騎ノ勝負ニノソンテハ大イニ相違セリ、敵我ヨリヲトルトモ我カウシロニ楯ヲ取テ勝負ヲナスコトハ甚アヤウシ、敵ノ見込ヨクシテ我何ホト精心ヲ尽シハタラクト雖トモ不意ノ負ヲ卜ルナリ、故ニ楯ヲユスリ戦時ハ見コミ能心通シテ勝負全シ、何ニテモ見アテヲスヘシ、猶口決多シ
 

いいなと思ったら応援しよう!