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【CITESCoP20】英国による類似種掲載基準の検討提案について

酪農学園大学 遠井朗子

はじめに

 2025年11月24日から12月5日にかけて、ウズベキスタンのサマルカンドでCITESのCoP20が開催された。2025年はCITESの効力発生から50周年という節目の年にあたるが、事前のブリーフィングでは、議案の数が年々増加し、事務局の業務がひっ迫しているとして、効率的な会議運営への協力が求められ、祝賀ムードは希薄であった。

 とくに、事務局の運営費用を賄う信託基金(CITES Trust Fund)については、最大の拠出国である米国が2025年度分を支払わず、当該年度の未払い総額のおよそ7割を米国の未払い金が占めるという異常事態が生じていた(1)。深刻な財政危機に直面する中で、事務局は職員数を削減し、組織運営の効率化を図らなければ、様々な活動が滞りかねないとして締約国会議(CoP)及び動物・植物委員会(AC/PC)の開催頻度の削減を提案し、この提案は受け入れられなかったものの、深刻な危機の認識は会議参加者の間で広く共有されていた。
 この状況の下、保全に関する国際的な議論を主導してきた英国が、類似種(look-alike species)掲載基準の検討を提案したことは、賛否両論の議論を喚起した。この議案は第1委員会で投票(voting)の結果、否決されたが、一定の支持を集めており、英国は再提案の意欲を示している。そこで本稿は、本議案の審議の過程を振り返り、英国の提案が締約国の見解の対立を引き起こした背景と、この提案が今後のCITESの実施に及ぼす影響について検討を行う。

(1)  CITES Trust Fund, Status of contributions as of 30 November 2025, Annex 12, Financial Report 2023-2025, CoP20 Doc.7.2A12. 信託基金への拠出額は国連分担金の分担率に従って定められている。尚、任意的拠出金についても、22025年度の予算額661万5,325米ドルに対し、拠出金額は389万6,528米ドルで(2025年8月31日時点)、徴収率は58.9%に留まっている。CoP20 Doc.7.2.

1.類似種(look-alike species)とは何か

 類似種(look-alike species)とは、国際取引により存続が脅かされ又はそのおそれがあるとして、附属書I又はIIに掲載される種と「外観(形態)が似ている種」を指す。これらについては、規制対象種の誤認又はロンダリングを防止して、法執行を確保するため、附属書IIに掲載することが認められている。条文上、類似種は附属書II掲載種について定められているが(第2条2項(b))、附属書掲載基準に関するCoP決議に基づいて、附属書I掲載種についても、類似種の附属書掲載が認められている(Annex 2b of Res. Conf. 9.24 (Rev. CoP17)。

 規制対象種の法執行を確実に行うため、形態が似ている近縁種を一括して附属書に掲載するという実行は早くから行われている。東南アジア原産の洋ランであるパフィオディルム(Paphiopedilum)については、多くの種が国際取引により絶滅の危機に瀕していたため、1989年のCoP7でパフィオディルム属(Paphiopedilum spp.)に分類されている全種が附属書Iに掲載されて、国際取引が禁止された。また、その他のラン科(Orchidaceae )の植物の中には、ほとんど又は全く国際取引が行われていないものもあるが、花がついていない状態で標本を見分けることは困難であるため、ラン科の全種(29,398種)が附属書I又はIIに掲載されており、ラン科植物はCITESの附属書掲載種の70%以上を占めている(Hinsley et al., 2017)。

 香料や伝統薬の原料として珍重され、高値で取引されているジャコウジカについては、1977年のCoP1で、シベリアジャコウジカ(Moschus moschiferus)が附属書Iに掲載され(2)、商業的取引が禁止された。しかし、密猟や偽装による違法取引が後を絶たなかったため、1983年のCoP4では、「分類学上の論争を回避するため」、インド、ネパールが英国と共同で地域個体群別の附属書掲載を提案して可決され、ジャコウジカ属(Moschus spp.)については、アフガニスタン、ブータン、インド、ミャンマー、ネパール、パキスタンの個体群で既に附属書Iに掲載されているものを除き、全て附属書IIに掲載されることとなった(3)。

(2)  提案国である英国は、ムスク(じゃ香)を実効的に管理するため、一部の亜種を除く全てのジャコウジカ(Moschus spp. )の掲載を提案していた。Prop.116: Inclusion in Appendix II, United Kingdom of Great Britain and Northern Island, Nov. 2, 1976, p.255.
(3)  日本は1980年の加入時に、附属書Iに掲載されていたシベリアジャコウジカ(Moschus moschiferus)に留保を付していたが、1983年の附属書改正に伴って、留保の対象を附属書I及びIIに掲載されているシベリアジャコウジカ(Moschus moschiferus)に修正した。しかし、このような留保の効果には疑義が示されており、ジャコウジカ(Moschus spp. ) の誤記であった可能性が高い。トラフィック・ジャパン『トラフィック・ジャパン・ニューズレター』Vol.1/No.4, 1983, 4頁。1989年、日本はジャコウジカに付していた全ての留保を撤回したが、生体、はく製のみで香嚢は含まないとしていたため、その実質的な効果は限定的であった。トラフィック・ジャパン『トラフィック・ジャパン・ニューズレター』Vol.5/No.2, 1989,14頁。

2.附属書改正基準

 1994年のCoP9で採択され、現在、用いられている附属書改正基準(Res. Conf. 9.24 (Rev. CoP17))では、附属書I・IIの掲載基準として、種の絶滅リスクの科学的根拠と取引規制の必要性という2つの基準が定められ、「定義、説明、指針」(Annex 5)の諸要件の充足も求められている。このように、規制対象種の附属書掲載については厳格な基準が定められているが、類似種の掲載については、「取引における類似種について、非専門家が区別できると合理的に期待できるか否かという点に関する情報の提供」(“to provide information on similar species in trade and whether a non-expert could reasonably be expected to tell them apart”)のみ求められている(4)。そこで、類似種の附属書掲載基準は不明確であり、規制対象種と比べて不均衡であるという点が、英国が提起した問題であった。

(4) Annex 6 of Res. Conf. 9.24 (Rev. CoP17), para.9.

3.英国による類似種掲載基準の検討提案

 「附属書I及びII改正基準に関する決議Conf.9.24(Rev.CoP17)の附属書2Bの「類似種」基準について」という英国の議案は、背景、課題、提案という3部で構成されている(CoP20 Doc.102)。
提案の背景として、英国は締約国及び事務局の負担の増加と関連し、保全を維持する上で、取引の規制が明らかに必要とはいえない種が附属書I・IIに掲載されているとして、上位分類群での掲載や類似種の掲載は不必要な複雑さと行政管理上の負担をもたらしていると指摘し、具体例として、2022年のCoP19におけるメジロザメ科全種(Carcharhinidae spp.)(56種)及びアマガエルモドキ科全種(Centrolenidae spp.)(158種)の附属書II掲載が挙げられた(para.3)。類似種規制は誤認又はロンダリングを防止し、法執行官の確認を容易にするが、附属書掲載基準には最低限度の要件しか定められておらず、規制の実効性も評価されていないと指摘されている(para.5)。さらに、類似種の多くはIUCNレッドリストにおける低危険種(Least Concern:LC)であり、国際取引の実態がないか、大量に取引されている場合であっても、類似種の規制が規制対象種の保全に寄与しているか、疑わしい場合があるという。しかし、類似種として附属書IIに掲載されると、規制当局には輸出許可書の発給、NDF及びLAFの取得、取引の継続的な監視と報告が求められ、本来、規制が必要な種に注意を向けることが妨げられていると指摘する(para.6)。

 このように、英国の提案は、類似種制度は曖昧な基準の下で過剰な規制をもたらして、規制当局に不必要な負担を課しているとの認識に基づいて、基準の適用における指針の策定を提言するものであり、その検討においては、事務局が中心的な役割を担うことが想定されている。同提案では、事務局は、a)締約国に通知(notification)を送付し、類似種掲載基準に関する各国の解釈、運用、規制の利点と課題について情報収集を行い、b)外部資金により、類似種掲載提案と、類似種及び規制対象種の保全における利益について、事例研究を含む研究(study)を行い、c)締約国から収集した情報及びb)の研究の概要を作成し、附属書掲載基準を適用するための一般的指針について所見及び/又は勧告を提示して、常設委員会(SC)及び動物・植物委員会(AC/PC)がこれを検討するものとされている(決定20AA)。AC/PCは事務局の報告書を検討してSCに勧告を行い(決定20BB)、SCは、事務局が作成した報告書及びAC/PCの勧告を検討し、CoP21に勧告するというものであった(決定20CC)。事務局は、20AAc)の検討項目にリスクを含めるという修正案を提示し、議案の採択を勧告した。

4.議案の審議について

 類似種に関する英国提案の議案の審議は、11月25日(火)午後及び11月26日(水)午前に第1委員会で行われ、12月4日(木)の全体会議では、再審議の可否について審議が行われた。

(1) 第1委員会における審議(1) : 11月25日午後

 第1委員会における審議の冒頭で、英国は類似種掲載の重要性及び役割は十分理解しているが、掲載基準が不明確であるため主観的に解釈されているとして、基準の適用指針を策定するための検討であると、議案の趣旨説明を行った。また、事務局の助言を受けて、検討事項の見直しを行い、「類似種掲載の有無が対象種及び類似種の保全、行政、規制、遵守及び執行に与える利益とリスク」(決定20AAc))と修正した。

 オーストラリア、カメルーン、カナダ、コロンビア、コンゴ、DRC、インド、インドネシア、日本、メキシコ、NZ、韓国、ロシア、タンザニアは英国提案への支持を表明した。韓国は類似種の意義には理解を示しつつ、基準の明確さの欠如と負担に懸念を示し、体系的評価において予防的措置と非掲載種の検討を含める可能性に言及した。中国も条約の効果的な実施のための検討であるとして英国案に支持を表明した。日本は、近年の類似種掲載の増加に言及し、多くは規制を必要としておらず、明確な指針が必要であると述べて、ヨシキリザメについては、地域的漁業機関が資源状況は健全と評価しているにもかかわらず、附属書IIに掲載されたため、管理当局の過重な負担となっていると指摘し、類似種は事務局と締約国の負担を増加させており、基準に満たない類似種の削除手続の策定も必要であると主張した。タンザニアは、類似種掲載が不公正で過剰な規制となることに懸念を示して一貫した基準が重要であると述べ、インドネシアもバランスがとれた実効的な規制を目指すべきであるとして、英国提案(事務局修正案)に支持を表明した。

 一方、アルゼンチン、ブラジル、コモロ、EU(27構成国を代表)、ホンジュラス、イスラエル、パナマ、セネガル、セントルチカ、米国は英国提案に反対を表明した。EUは、一般的な指針は必要とはいえず、事務局の資源を優先的に割くべき案件ではないとしつつ、英国の議案への支持が広がりをみせていることを考慮し、検討を行うのであれば、AC/PCという技術委員会の検討を先行させるべきであると主張した。米国も類似種は法執行を容易にするという点で有益であり、基準の検討は負担が重い割にメリットは少ないとして英国の提案に反対した。イスラエルも、類似種は議論の余地のある主題であると認めつつ、類似種の附属書掲載が負担を増大させるという日本の主張とは反対に、類似種は法執行を容易にし、物事を簡単にすることがその本質であると述べ、現在の附属書掲載基準は長年にわたり用いられてきたもので、変更すべきとは考えていないが、基準の検討を行うのであれば、技術委員会での検討を先行させるというEU提案を支持すると述べた。ブラジル、セントルチカも英国提案への反対と、技術委員会での検討を先行させるというEU提案への支持を表明した。

 議長及び英国の確認を受けて、EUは事務局が締約国に通知を行って情報収集を行い、その概要をとりまとめ、AC/PCが検討するという案を提示し、外部資金に基づく研究(study)と、事務局による所見と指針案の策定については削除を要請した。

 このように、EUは、検討範囲及び事務局の関与を制限する案を提示したが、英国は、研究には外部資金を用いるため、事務局の業務への悪影響はないとして、事例研究を含む研究の維持を主張し、カナダ、中国も支持を表明した。米国、イスラエルはEU提案を支持し、イスラエルは研究の範囲に懸念を示しつつ、検討対象には、オブザーバーが提供する情報も含めるべきであると指摘した。
 英国は、投票は望まないとして、外部資金を用いた研究に関する決定20AA b)の取り下げを示唆したが、NZは、AC/PCの検討においては、焦点を絞り込まないと実質的な議論は期待できないとして、通知と事例研究は共に必要であり、外部資金による研究を含む英国の原案を支持すると述べ、日本も事例研究は重要であるとして、b)の維持を主張した。
 検討方法について締約国の意見が分かれたため、議長は本議案については翌日午前に審議を再開すると宣言し、関係国に、明朝までに妥協のための協議を行うよう要請した。

(2) 第1委員会審議(2) :11月26日午前

 翌日、審議は再開されたが、英国はEUとの妥協は成立しなかったと述べて、能力不足のため、事務局の通知に適切に回答できない国もあるため、締約国からの情報の検討のみでは不十分であり、外部資金により事務局への負担は少ないため、事例研究を含む検討が必要であると主張した。トラフィック及びIUCNは、類似種掲載基準の検討は時宜を得たものであるとして、英国の提案を評価し、類似種の附属書掲載は増加しているが、類似種を用いなくても法執行に問題は生じず、上位分類項目での掲載も必要とはいえないとして、指針の策定を支持し、英国の原案が最善であるが、修正案も支持すると述べた。

 EUは、一般的指針が必要とは考えておらず、その検討にリソースを割くメリットは少ないとして、事務局による情報収集のための通知とAC/PCによる検討については譲歩できるが、事例研究を含む研究の削除については妥協できないと述べ、米国もEU案への支持を表明した。さらに、EUは、研究を拒む理由に関するスイスの質問に対し、研究を行うのであれば、AC/PCへの付託事項を明確に定めた上で実施すべきであると応答した。

 このように、EUは「研究」に強い懸念を示していたため、コロンビアは、「研究」(study)を「評価」(assessment)に修正する提案を提示した。事務局は、「研究」と「評価」の区別は明確ではないが、いずれも外部コンサルタントに委託し、「研究」については、締約国から収集した情報だけでなく、事例研究を含む追加的調査も行うが、「評価」は締約国からの情報のとりまとめと分析のみで、軽いタッチであると説明した。日本、ガボン、コンゴ、NZ、豪州、ブラジル、韓国、フィリピン、ボツワナは、研究を含む英国案が望ましいとしつつ、コロンビア修正案への支持を表明した。中央アフリカ、ブルンジ、メキシコ、コートジボワールもコロンビア修正案への支持を表明し、EU案への支持を表明したのは、EU、米国、イスラエル、セネガルであった。

 議長は、英国提案のコロンビア修正案が支持を集め、議場のコンセンサスであるとの判断を示したが、EUは異議を唱え、投票を要請した。投票は、EU提案+議長修正案と、英国提案+コロンビア修正案の2案について行われることとなり、手続規則23に従って、当初の提案から最も遠いEU提案の投票を先に行い、採択されなかった場合には、英国提案の投票を行うこととなった。いずれも採択されなかった場合には、議案は不成立となる。

 最初に実施されたEU提案への投票については、賛成59、反対63、棄権6で、3分の2多数の賛成を得ることができず、否決された。次に投票が実施された英国提案のコロンビア修正案についても、賛成79、反対40、棄権10で3分の2多数の賛成を得ることができず、否決され、第1委員会においてはいずれも採択されなかった。

(3) 本会議(12月4日)

 12月4日の本会議において、英国は第1委員会における長時間に及ぶ議論と委員会の決定を尊重して、再検討(reopen)は求めないと発言し、我々の目的は類似種を否定することではなく、多くの国が意見を述べて議論を行うことであり、その目的は達成されたとして、他国と協力しながら、次の機会までに提案を練り直したいと述べた。
 一方、エスワティニ、コンゴ、DRC、ソロモン諸島は、一部の国が信任状の不備等で投票できなかったことを指摘し再検討を要請したが、EU、イスラエルは第1委員会で審議は尽くされ、次期CoPまでの間、検討を継続するということが締約国の意思だと主張して再検討に反対した。エスワティニとソロモン諸島の要請に基づいて、再検討の可否について投票が行われたが、賛成27、反対98、棄権17で否決され、議案は未成立という第1委員会の審議の結果が承認された。

5.評価

 以上の通り、類似種掲載基準は不明確であり、適用指針の検討が必要という英国の提案は一定の支持を集めたが、検討方法について締約国の意見は一致せず、CoP20において議案は採択されなかった。
改めて振り返ると、基準が不明確であると主観的解釈を許容し、濫用を招きかねないとの指摘は形式的な法律論としては理解できるところであり、種の附属書掲載により、締約国の義務の範囲が変化するため、明確な根拠を欠いた規制の拡大により、規制当局の負担が不必要に増大するという英国の主張には、一定の合理性があるように見える。とりわけ、事務局の財源が大幅に削減され、限られた資源を用いてCITESの機能を維持するためには、業務の効率性を高めるほかはないという危機的状況の下、規制効果を見極めて、真に必要な規制に資源を振り分けるべきとの主張は、時宜を得た提案であるとの印象を与え、CITESの組織運営を熟知しているカナダやNZを含む多くの国が英国案に支持を表明した背景には、こうした危機意識が共有されていたものと思われる。

 一方、このような指摘は、類似種規制の効用を過少評価し、そのリスクのみに焦点をあてるもので、長く運用されてきた制度の評価としてはバランスを欠き、事実認識としても議論の余地があるように思われる。近年、EUは原産国と共にサメ・エイ類等の海産種や高級木材の附属書II掲載を推進し、CITESにおける「持続可能な利用」の主流化の事例として、多くの国と保全NGOの賛同を集めていた。また、英国がEU離脱後も、EUと共同歩調をとっていたにもかかわらず、今般、EUとの間で鋭い対立を惹起する提案を行った点は、いささか奇妙でもある。そもそも、英国は類似種の負の側面を際立たせて、その制限の強化を意図して提案を行ったのか、その真意については疑問も生じ得る。英国は、海産種ついてはEUによる類似種を含む附属書改正提案を支持し、熱帯木材については類似種規制の有効性を認めて、原産国による規制緩和の提案に反対していたためである。

 ヨーロッパウナギ(A. Anguilla)については、2008年、IUCNレッドリストで「深刻な危機」(Critically endangered: CE)と評価され、2007年の附属書II掲載を経て、2009年以降、国際取引が規制されている。しかし、違法取引が後を絶たず、深刻化していたため、CoP20において、EUは類似種であるニホンウナギ(Anguilla japonica)及びアメリカウナギ(Anguilla rostrata)を含むウナギ属(Anguilla spp.)全種(19種)の附属書II掲載をパナマと共に提案した(prop.35)(5) 。本提案に対しては、日本、韓国、中国等の資源利用国が強く反対し、投票の結果、大差で否決されたが(賛成35、反対100、棄権8)、英国はEU提案に支持を表明していた。また、EUはトゲクリイロナマコ(Actinopyga echinites)、クリイロナマコ(A. mauritiana)、チリメンナマコ(A. miliaris)、ハワイナマコ(A. varians)と共に、これらの類似種であるヨコスジナマコ(A. lecanora)とパニングスブラックフィッシュ (A. palauensis)を含め、クリイロナマコ属6種の附属書II掲載を提案し、本提案についても、日本、中国等の資源利用国が反対し、投票の結果、否決されたが(賛成50、反対76、棄権9)、英国はEU提案に支持を表明していた。

 マメ科の熱帯木材であるアフゼリア(Afzelia)については、2022年のCoP19で、規制対象種4種及び類似種を含むAfzelia属の全てのアフリカ地域個体群が附属書IIに掲載されていた。提案国はベニン、コートジボワール、リベリア、セネガルとEUであった。附属書掲載に反対していたカメルーン、中央アフリカ、コンゴ、DRC、赤道ギニア、ガボンは、CoP20においては、野生の個体数に悪影響は生じない、木材については取引名称が確立されており、市場で混同されるおそれはない、中央アフリカ諸国ではトレーサビリティシステムが確立している等の理由を挙げて、Red doussié (Afzelia bipindensis)の附属書IIからの削除を提案した(prop.45)。英国は、EU、米国、カナダと共に、本種は「類似種の基準を満たしており」、これら諸国におけるトレーサビリティには疑義があるとして反対を表明し、投票の結果、提案は否決された(賛成49、反対56、棄権24)。同様にマメ科の熱帯木材であるAfrican padauk (Pterocarpus soyauxii)については、2022年のCoP19で、セネガルが類似種として附属書II掲載を提案し、コンセンサスで採択されていた。

 CoP20においては、アンゴラ、中央アフリカ、コンゴ、DRC、赤道ギニア、ガボンは自国の地域個体群については、資源状況は健全で、持続可能な資源管理が行われている、種の同定のための技術革新も進展していると主張して、附属書IIからの削除を提案した(prop.47)。コートジボワール、インド、ロシアは支持を表明したが、英国はEU、ケニアと共に、「類似種規制を踏まえ」、分裂リストに伴う潜在的な執行リスク、同定技術へのアクセス可能性に言及して反対し、米国は種ごとのデータの欠如を指摘し、同提案については、投票の結果、否決された(賛成51、反対57、棄権20)。

 このように、経済的価値が高い海産種及び木材の国際取引をCITESの監視の下に置き、持続可能な資源管理を促進するという言説の下、類似種を含む属単位での附属書II掲載が進展し、EUは一部の原産国と共にこの動向を積極的に主導してきたが、日本を含む海産種の資源利用国はCITESの規制の拡大に不満を抱き、熱帯木材についても、森林資源の管理及び法執行に課題を抱えているアフリカ諸国が懸念を示し始めている。この状況の下、英国が提案した類似種掲載基準の検討の結果、適用要件の厳格化が認められれば、附属書II掲載により持続可能な利用を促進するという規制アプローチが後退し、経済的価値が高い種をCITESの規制対象から除外しようという動きに弾みがつくことも想定され得る。日本は附属書掲載に強く反対し、留保を付しているヨシキリザメに言及し、附属書からの削除手続きの検討を示唆し、インドネシアも「過剰な」海産種規制に言及していた。海産種規制に慎重な立場をとる日本、中国、韓国、インドネシアと、木材規制の執行に課題を抱えている中央アフリカ諸国はいずれも本提案への支持を表明している。
 このように、類似種掲載基準の検討が、資源利用を重視する諸国によるバックラッシュの契機となりかねない、との危惧を抱いていたとすれば、EUが実質的検討に入ることを警戒し、技術委員会による技術的検討に留めようとしていたことも理由のないことではない。

 一方、類似種規制という議論の余地のある主題について、その正当性を認めている英国が、自国も賛意を示しているEUの提案に不利に働きかねない本議案を提起した点はちぐはぐな印象を与えている。事務局の財源不足と組織運営の効率化は重要な課題であるが、類似種の附属書掲載が事務局にどのような負担をもたらしているかという点は明らかにされておらず、類似種の規制が締約国の負担となっているか、という点について、締約国の評価は分かれている。本提案とCITESの規制の効率化との関連性は未だ明確ではなく、英国は自己矛盾に陥っているようにも見える。

 このような英国のどっちつかずの態度については、EU離脱後の英国の国内事情が影響を及ぼしている可能性があるように思われる。英国においては、EUからの離脱後、移行期間を経て、EUのCITES実施規則(EU Wildlife Trade Regulations(338/97, 865/06)は、政府権限に関する一部改正を伴いつつ、「維持されたEU法」(retained EU law)となり、2023年以降も国内法に「同化された法」(assimilated law)として、引き続き国内的効力を有している(Retained EU law(Revocation and Reform)Act 2023)。執行規則(The Control of Trade in Endangered Species(Enforcement)Regulations 1997(COTES)も同様である。

 一方、2025年4月、DEFRA(Department for Environment Food and Rural Affairs)の規制ランドスケープに関する評価と政府への勧告として、コリー・レビュー(Correy Review)が公表され、英国の環境規制の多くはEU法起源であるが、他国よりリスク回避的であるとして、曖昧な規制を排除し、結果指向で効率的な規制に転換し、経済成長も自然再生も実現するとの方針が示された。2025年9月、DEFRAはCITESの実施に関する改革案を提言し、多様な利害関係者とのコンサルテーションを実施した。改革案は「政府が経済成長と積極的な保全の実現を確保するための環境規制の見直しに関するコリー・レビューの勧告を政府が実現することを支援する」ものと位置づけられ、「CITES実施法を見直し、…明確で、均衡が取れ、目的に適合したものとなるよう確保する機会」であり、「この改革は、野生生物を保護し、持続可能な貿易を支援する、より一貫性があり効果的な制度を構築する機会」であると説明されている。

 国際環境交渉の重要な局面で、著名な経済学者のレビューを公表し、新たな環境政策を推進するという政策手法は英国の十八番であり、気候変動に関するスターン・レビュー、生物多様性に関するダスグプタ・レビューが良く知られている。これらの著名なレビューとは異なり、コリー・レビューは英国の環境規制の見直しを勧告するもので、国際交渉に影響を及ぼすことは予定されていない。しかし、類似種の検討提案は規制効率を重視するコリー・レビューと親和性が高く、英国の提案は、CoPで一定の支持を集めることで、国内政治過程が国際交渉に影響を及ぼすという2-level gameの様相を帯びる。本提案は否決されたが、ウナギ、クリイロナマコの附属書掲載提案は否決され、ボリビアが提案していたチリアンコモンタランチュラ (Grammostola rosea)については、全体会議での再提案により、類似種を除いて附属書掲載が認められたという経緯から、類似種掲載については一定の抑止効果が働いたようにもみえる。

 一方、木材の規制緩和を求めていた中央アフリカ諸国(ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ、コンゴ、DRC、赤道ギニア、ガボン)は、許可書発給に関する決議(Resolution Conf.12.3 (Rev. CoP19))の改正を提案し(CoP20 Doc48)、第2委員会で審議が行われている。提案の背景には、これら諸国が輸出許可書を発給した木材について、EUが合法性に疑義を示して輸入を認めず、6か月以上も待機を強いられているとの不満があった。条文上、より厳格な国内措置をとることは認められ(第14条1項(a))、事務局は、輸出許可書によりLAF(合法入手認定)が推定されるとの提案は締約国の核心的な権利、義務と矛盾すると指摘して、他の締約国もこれを支持したため、提案は認められていない。しかし、このような提案は、原産国のやむにやまれない事情を反映するものであり、EUが推進してきた附属書II掲載により持続可能な利用を促進するというアプローチは、原産国の能力構築を伴わない限り、絵に描いた餅となり兼ねないという現状を浮き彫りにしたように思われる。

 以上の通り、英国の類似種規制の検討に関する提案は、英国の国内事情に基づくものである可能性が高く、検討方法で折り合いがつかず、否決されたため、現段階での影響は限定的であると思われる。また、仮に次期CoPで英国が再提案を行ったとしても、規制制度の調整にかかわる技術的課題として、合理的な適用指針について合意することはさほど困難ではないという可能性もある。しかし、この提案に関する締約国の見解の対立は、CITESの規制の正当性及び実効性に関する異なる立場を反映し、多数国間の議論において、いずれが優勢となるのか、どのようにして均衡点が見出されるか、という点についての見通しは、現段階では不透明である。

(5) 提案文書では、ニホンウナギの資源量の大幅な低下が指摘され、日本はこの点に反論していたが、ニホンウナギとアメリカウナギについては、類似種掲載基準に基づく附属書II掲載の提案である。CoP20 prop. 35, p.3.

おわりに

 CoP20における英国による類似種掲載基準の検討の提案は、賛否両論の議論を喚起し、保全について国際的な議論を先導してきた英国の心変わりともみえる態度に、NGOの間では失望が広がっていた。しかし、英国は類似種の附属書掲載という制度に疑念を抱いているわけではなく、一部の国が示唆するように、海産種規制において濫用されているという認識を示しているわけでもない。「結果指向で効率的な規制の実現」という国内政策に基づいて、また、不必要な規制を精査し、規制の明確化、透明性の向上、及び効率化を図ることでーそれが可能であるかどうかはともかくー、CITESの実施と国内環境規制との一貫性を図るという趣旨であったものと考えられる。すなわち、英国の提案は自国の国内政策過程に動機づけられたもので、脱EUプロセスの一断面でもあるが、CoP20直前に実施されたコンサルテーションに対する政府の公式見解は未だ公表されておらず、明確な方針がたっていないため、CoP20では、他国の反応を確認するに留め、議案の採択を強く求める意向はもとより抱いていなかったのではないだろうか。

 しかし、英国の提案により「パンドラの箱」の蓋は開かれ、「持続可能な利用」を巡る締約国の見解の対立が浮き彫りとなったように思われる。特に、経済的価値の高い海産種を念頭においては、科学的根拠に基づかない過剰な規制が横行し、規制当局の負担が増加しているとの主張が一定の支持を集める一方で、EU、パナマ、イスラエル、米国等は、類似種は法執行のための有効なツールであるとの認識に疑念を挟む余地はなく、見極めが困難な海産種については、全種を含めなければ意味がないとの立場を堅持している。
もっとも、海産種の保全におけるCITESの役割について、CoP20の成果は両義的である。上述の通り、ウナギやクリイロナマコは否決されたが、サメ・エイ類については、一部の種が史上初めてコンセンサスで採択され、およそ70種が新たに規制対象に追加されたことから、歴史的転換点であったと高く評価されている 。この状況からは、海産種の規制の必要性は、科学的評価や経済的価値等を踏まえて個別具体的に判断される可能性が示唆され、類似種に関する指針の検討により、海産種に関する規制アプローチの大幅な転換が生じる可能性は大きくはないように思われる。

 一方、CoP20における熱帯木材に関する議案の審議においては、類似種を含む広範な種を附属書に掲載しても、その実施に困難を抱える締約国が少なくないという不都合な現実が明らかとなった。この状況の下、CITESの実効性を高めるためには、規制対象を絞り込み、テクノロジーを活用して規制効率を高めるというスマートな規制を重視し、各国の最新技術へのアクセシビリティを高めることは実現可能か。あるいは、類似種を活用しつつ規制対象を拡大し、実施プロセスにおける能力構築を多段階で支援するという「持続可能な利用」アプローチが依然として有効であるとすれば、国際的な支援をどのように調達すべきか、という点は課題である。CITESの実効性に関する2つのアプローチのバランスと優先順位については、今後、さらなる議論と検討が必要であるが、いずれについても、詰まるところは規制コストに関する負担の共有が課題である以上、米国の実質的な関与の後退という状況は考慮に入れる必要があるであろう。

PDF https://www.jwcs.org/data/2602TooiCITESCoP20


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