朝倉慶〜通貨減価インフレ増税政策・株価高騰共同幻想批判
朝倉慶〜通貨減価インフレ増税政策・株価高騰共同幻想批判
経済評論家・朝倉慶の提唱する理論・警鐘する意見について詳解する。
1. 「株はもう下がらない」構造の正体(政策装置としての株式市場)
朝倉は、現在の株式市場が本来の「経済の自由な競争とリスクの場」から、「国家の信用と国力を維持するための政策装置」へと完全に変質したと断言する。
危機のたびに増殖する救済マネー(歴史的背景): 1998年のLTCMショック(約3600億円の融資)、2008年のリーマンショック(AIGへの20兆円投入およびQE1〜QE3)、そして2020年のコロナショック(FRBのバランスシートが一時9兆ドル規模へ膨張)と、金融危機が訪れるたびに中央銀行が供給するマネーの桁が1つ、2つと増大してきた。人類は「大恐慌を防ぐ手段」として「量的緩和(お金を無限に刷る手法)」を定着させた。
崩壊不能構造の確立: 株価指数の暴落は一市場の現象に留まらず、国家の信用危機や政権の崩壊に直結するため、各国当局はETF購入、年金資金の投入、利下げや流動性供給などあらゆる手段で株価を支えざるを得ない。また、S&P500や日経平均などの「インデックス(指数)」は、業績の悪い銘柄を排除し強い銘柄を組み込む「強者生存バイアス」があるため、個別企業の倒産はあっても指数自体は暴落しない「価格安定システム」として設計されている。これが「株はもう下がらない(=暴落は二度と起こせない)」という構造の正体である。
2. 最大の副作用〈上昇抑制不能構造〉
暴落を防ぐシステムを完璧に構築した代償として、世界、特に日本は「上昇を止められない構造」という未知の副作用に直面している。
暴落で滅びず、上昇で滅びる時代: 危機のたびにジャブジャブに刷られた過剰マネーは実体経済には回らず、資産市場(株・不動産・金など)へ滞留し、金融資産インフレを引き起こした。この構造は、お金を下落から救う一方で「マネー(通貨)自体の価値を劣化(減価)させる」ことで成り立っている。
コントロール不能な連鎖: 株価の上昇、円安の進行、インフレの暴走、金利の高騰といった「上方向への動き」に対して、量的緩和という麻薬に依存した中央銀行は抑制する手段を持たない。仮に激しいインフレを抑えるために金利を大幅に引き上げようとすれば、巨額の政府債務を抱える日本などの国は財政破綻してしまうため、金利を上げたくても上げられないというジレンマに陥っている。
3. 通貨減価インフレ増税政策への批判
朝倉は、高市政権などの経済政策(リフレ派・積極財政派)が掲げる「財政再建」や「経済成長」のまやかしを強く批判する。
見せかけの財政健全化と「インフレ税」: 近年、名目税収が過去最高を更新し、プライマリーバランスや債務比率が見かけ上改善しているのは、経済が実質的に成長したからではない。インフレによって物価や名目賃金が膨張したことで、自動的に税収が増えているに過ぎない。これは、国が明示的な増税(税率アップ)を行うことなく、国民が持つ通貨の購買力を実質的に目減りさせて国が富を奪う「インフレ税」という形の実質増税である。
快楽均衡のトリック: 政府はインフレの痛みを和らげるためにガソリン、電気、ガスへの補助金給付や減税(食料品の消費税軽減など)を連発する。国民は名目上のボーナス増や給付金、資産効果によって一瞬「景気が良くなった」と錯覚(快楽)するが、これら需要を刺激するばらまき政策はさらにインフレを加速させる原因となる。インフレはゆっくりと進行するため、国民は実質的な所得の悪化を認知しづらく、自らブレーキの踏めないインフレの無限ループを要請し続けている。
デフレの処方箋をインフレ期に使う自殺行為: 人手不足や供給制約(物流規制、米の供給力不足など)といった供給側の問題で物価が上昇している局面において、需要を煽る「高圧経済(デフレ脱却の処方箋)」を強行することは、インフレの火に油を注ぐ「自殺行為」であり、管理不能な物価暴走の初期段階にあると警鐘を鳴らす。
4. 経済理論と実態の「乖離」とタブー
朝倉は、日銀の政策委員をはじめとする主流派経済学者やアカデミズムが「使い物にならない古い理論」に囚われていると断じる。
ペーパードライバーによる経済運営: 従来の経済学では「実体経済が良くなり、物価と雇用が安定し、その結果として株価が形成される」と教える。しかし現実のメカニズムは逆であり、「ジャブジャブのマネーによる株価の高騰が実体経済(消費やマインド)を決定している」。市場での実戦経験がなく、株の売り買いを一度もしたことがない学者が日銀の委員としてペーパードライバーのように経済を運転しているため、下からの構造変化(最低賃金の大幅引き上げの波及や、海外マネーによる日本資産のバーゲンセール買いなど)に気づかず、政策判断が決定的に遅れるのである。株式市場が政策装置であるという事実は、主流派の経済理論を根本から崩壊させるため、公式には絶対に認められない「タブー」とされている。
5. 高須幹弥らによるカウンター視点(客観的検証)
朝倉慶の熱狂的な論調(宗教的とも評されるメンタル安定効果)に対し、医師・投資家である高須幹弥などは、朝倉理論の妥当性を認めつつも、より多角的で楽観的な道筋(シナリオ)を提示している。
積極財政の「つなぎ」の正当性: 高須は、現政権がばらまきや補助金を行うのは単なる甘やかしではなく、防衛、AI・半導体、造船、エネルギー(原発再稼働・新型炉)などの成長分野へ官民連携で大規模投資を行い、日本の「供給能力・生産性」を根本から引き上げるまでの期間を耐えるための「時間稼ぎ(政権維持のつなぎ)」であると解釈する。
インフレを凌駕する成長シナリオ(ドーマー条件): もしこの積極投資が結実し、5〜10年スパンで実質的なGDP成長率が国債金利を上回り続ければ、インフレ税による強引な帳消しだけでなく、健全な経済成長によって政府債務は自然と目減り(縮小)していく。さらに経常収支が改善すれば、朝倉の言う「通貨崩壊による悪い円安」ではなく、「強い国力に基づく良い円高」へシフトし、日米金利差も縮小できる可能性があると指摘する。
「株はもう下がらない」の例外リスク: 高須は「右肩上がりのトレンド」には同意しつつも、地政学的リスク(台湾有事によるTSMCの破壊やサプライチェーンの完全停止)、巨大自然災害(南海トラフ巨大地震や富士山噴火による国内経済基盤の物理的壊滅)、新興国に対する日本企業の相対的な優位性の完全喪失などの事態が起きれば、さすがに株価は大暴落を免れないとし、朝倉の「永遠に下がらない」という絶対的盲信に対して一定の現実的なリスクヘッジを推奨している。
高須に対する朝倉の反駁
経済評論家・朝倉慶と医師・投資家の高須幹弥による特別対談(「楽待 RAKUMACHI」チャンネルにおける特別対談・前後編)に基づき、高須の主張に対する朝倉の強烈な反駁の論理について詳解する。
1. 「長期的投資による供給力回復シナリオ」に対する反駁
高須は、高市政権の掲げる「責任ある積極財政」を支持し、現在は供給能力が低くとも、成長分野(AI・半導体、造船、エネルギーなど)へ官民連携で大規模な設備投資を継続すれば、5〜10年後には供給能力が向上し、需要と供給のバランスが取れて過度なインフレは抑制されるという見通しを示した。
時間軸の致命的な誤認(タイムラグの残酷さ):
朝倉はこの高須の未来予測を「間違いである」と一蹴する。設備投資によって供給力を引き上げるにはあまりにも膨大な時間がかかる。朝倉は、具体例として「帝国ホテル(の建て替え工事)すら6年も経っても完成しない(足場を組むだけで何も進まない)」という現実や、地方での公共事業入札不調が相次いでいる現状を挙げる。供給力が回復する前に、現在進行形で猛烈な供給不足の波が実体経済を直撃しているという認識である。
「人」という最大かつ解決不能な供給制約:
高須の言う「工場やロボット、機械化による解決」に対し、朝倉は「インフレの根本原因は、機械に代替できない『人手不足(労働力の絶対的欠乏)』にある」と論じる。建設業における大工の数はわずか4年で18%(約2割)も減少しており、これは団塊の世代の大量退職と若年層の流入皆無が原因である。農業、運送、看護など、あらゆる現場で「人がいない」という構造的制約は、政府がどれだけお金を印刷して投資したところで、一朝一夕に解決できる性質のものではないと断言する。
2. 「痛みを和らげる補助金・減税のつなぎ策」に対する反駁
高須は、供給能力が向上するまでの「つなぎ」として、また民主主義国家において高い政権支持率を維持し長期政権を築くための必要悪として、ガソリン代や電気・ガス代への補助金、食料品の消費税減税(1%や0%への引き下げ)を行うことには一定の正当性があるとした。
コンサートの比喩による「火に油」論:
朝倉はこれを「典型的なデフレ期の処方箋であり、インフレ期においては最悪の失策(火に油を注ぐ行為)」であると激しく批判する。供給能力が限界に達している経済(比喩として「1人しか入れないコンサート会場」)に対し、政府が「国民がかわいそうだから」とお金をばらまけば(需要を刺激すれば)、入場できる人数(物資の量)は増えないまま、席の価格(物価)が天文学的に跳ね上がるだけである。
「インフレ税」の逆襲と消費税減税の無意味さ:
朝倉は「お米」の価格を例に引く。数年前まで2000円だった米が、現在は供給不足で4000円に暴騰している。2000円の時に10%の消費税を払えば2200円だが、4000円に暴騰した後に消費税を0%に減税したところで4000円のままである。「消費税を減税して安くなった」と錯覚する前に、ばらまき政策(インフレ政策)そのものが引き起こす「インフレ税(物価暴騰という形の実質増税)」によって、減税分のメリットなどはるかに超える大損害を国民は既に被っているのである。
3. 「日米金利差の縮小と健全な利上げ」に対する反駁
高須は、名目GDPが拡大すれば、日銀もいずれ金利を先進国並み(2%あるいはそれ以上)に引き上げることが可能となり、日米金利差が縮小して健全な為替水準(1ドル=150円程度での安定)へ回帰できるというリフレ派的な期待を述べた。
金利を引き上げられない構造的罠(常にビハインド):
朝倉は、日銀が金利をインフレ率に合わせて引き上げることは「100%不可能である」と断言する。すでに日本の肌感覚のインフレ率は2桁に達し、消費者物価指数も長期間2%〜3%を超えているにもかかわらず、日銀の政策金利は0.25%や0.5%といった超低水準に据え置かれたままである。なぜなら、利上げを本格化させれば、巨額の国債を発行し続ける日本政府の利払い費が爆発的に増大し、財政が瞬時に破綻(国際発行残高の自己崩壊)するからである。
実質金利マイナスの固定化による円安の必然:
中央銀行はインフレを公式に認めると人々の「インフレマインド(期待インフレ)」がさらに暴走するため、常に「物価上昇は一時的で、先々は下がる」と言い訳をしながら、物価上昇率よりも遥かに低い金利しか設定できない。結果として、日本の「実質金利(名目金利 − インフレ率)」は常にマイナス3%といった深い水準に放置される。円を持っているだけで確実に資産が目減りする状態が構造化している以上、実需のドル買い(デジタル赤字や海外再投資)も重なり、円安の進行を止める術はない。政府の行った11.7兆円もの為替介入がわずか1ヶ月も持たずに無効化された事実が、その限界を冷酷に証明している。
4. 結論:朝倉が突きつける残酷な現実
朝倉が最終的に高須に突きつけたのは、「国民全員が豊かになるマイルドな未来など存在しない」という資本主義の残酷な真実である。
高市政権のインフレ政策(量的緩和の継続と財政出動)は、国の名目GDPを膨張させ、見かけ上の国債債務比率を縮小させることには成功するが、それは国民から購買力をむしり取ることで成立するまやかしに過ぎない。インフレ局面で利益を叩き出し、価格転嫁を進められる「大企業(上場企業)」や「実物資産(株・不動産・金)を保有する富裕層」だけが猛烈に資産を拡大(勝ち組へ回る)させる一方で、現金しか持たない一般庶民は「インフレ税」によって確実に泥沼の貧困へと突き落とされる。
朝倉は、かつて1980年代にFRB議長ポール・ボルカーが断行したように、「あえて大不況を作り出して需要をへし折る(金利を20%に引き上げる)」ほどの痛みを伴う治療を行わなければインフレは制御できないとし、それが政治的に不可能な現代の日本においては、「国民がパニックを起こし、限界を迎えて悟るまで、インフレと株高がどこまでも暴走し続けるしかない」という極めて厳しい結論を下した。
結論として: 朝倉慶の指摘は、量的緩和がもたらした「中央銀行による株価絶対死守体制」と、それによって引き起こされる「静かなる通貨価値の破壊(インフレという名の合法的な国家の資産強奪)」の構造を鮮烈に暴いている。世界、とりわけ日本は「暴落で滅びるのではなく、マネーの劣化と物価の上昇によって大混乱を迎える」という不都合な真実に直面しており、個人の資産防衛(現金から株や不動産へのシフト)が必須の時代に突入していると言える。
参考動画・文献:
「株式市場はもはや従来の市場ではない。株価こそ政策の中心を成す政策装置なのです!だから株はもう下がらない。暴落は二度と起こせない。起こさせてはならない。これこそが“新しい資本主義”の正体なのです。 ところがこの体制が生み出した最大の副作用があるのです。それが〈上昇抑制不能構造〉です。株は下がらないが、今度は上昇も止められない。円安も止められない。金利高も止められない。インフレも止められない。暴落で滅びるのでなく、上昇で滅びる時代に突入したのです。これから世界も、特に日本は想像を絶する大混乱が襲ってきます。(「はじめに」より)」
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