認知英文法:いわゆる鯨構文の修辞法
客観的な否定と主観的な否定
復習:no foolとnot a fool
1) Paul is no fool.
2) Paul is not a fool.
"Paul is no fool."
これは婉曲的でありながらより強く、断定的な表現である。イディオムに近いフレーズで、「ポールは決して愚かではない」、むしろ「ポールは賢い」「ポールは抜け目がない」といった意味合いを持つ。
"Paul is not a fool."
こちらはより直接的で、文字通りの否定である。「ポールは愚か者ではない」という意味で、単純に愚かであるという可能性を否定している。
no more thanとno less than
3) It takes ten minutes to walk to the station from here.
4) It takes no more than ten minutes to walk to the station from here.
5) It takes no less than ten minutes to walk to the station from here.
4) no ⇒more than ten 決して10以上ではない⇒10しかない
5) no ⇒less than ten 決して10以下ではない⇒10もある
3) 10分かかる、 ──────┬駅までここから歩いて。
4) 10分しかかからない、─┤
5) 10分もかかる、─────┘
I'm no more a kid than you are.
6) I'm not a kid, because I'm 18 years old.
7) I'm no kid.
8) I'm no more a kid than you are.
6) 「私は子供じゃない、だって18歳だから。」(客観的否定)
7) 「私は決して子供なんかじゃない。」(主観的否定)
8) 「私は決して子供なんかじゃない、パパが子供だって位、あり得ない。」
(タイトル画像:映画American Beauty で、父親と口喧嘩した娘が放った言葉。)
鯨構文
1. no more A than B (基準値・非常識な事柄)
I'm no more a kid than you are. 実はこの"no more A than B"という文は、いわゆる「鯨構文」と呼ばれて、"受験英語"として日本では長く教えられて来た。この構文の典型的な英語例文が下記だからだ。
A whale is no more a fish than a horse is.
「鯨は決して魚なのではない、馬が魚だという位、魚ではあり得ない。」
no more A than B (基準値・非常識の事柄)
「全くAではない、Bが非常識であるのと同様にAだということはあり得ない。」
2. no less C than D (基準値・常識的な事柄)
同様に、no less C than D (常識的な事柄)も鯨構文と言われる。
「極めてCである、Dが常識であるのと同様にCであることは確かだ。」
A whale is no less a mammal than a horse is.
「鯨は実は哺乳類の何者でもない、馬が哺乳類であるのと同様に哺乳類なのだ。」
鯨構文・図解
1. no more A than B (基準値・非常識な事柄)・図解

2. no less C than D (基準値・常識的な事柄)・図解
Sleep is no less necessary than food.

鯨構文:時吉秀哉先生による解説
(ここに補説予定)
鯨構文の使用実態をネイティブに徹底調査
ネイティブ100人に受験英語の使用実態を徹底調査という方針の基づいてなされた田中茂範先生の貴重な研究の成果が『データに見る現代英語の表現・構文の使い方』である。
この調査によるとno more...thanの構文での個人使用率は次の通り。
(1)ビジネスレター:69%
(2)くだけた会話:94%
(3)改まった会話:88%
(2)(3)では高い使用率だということが判る。なぜ(2)に対して(1)の使用率が低いかと言うと、この比較表現はレトリカルに使われることが多いので、 言外の意味・含意・共示(コノテーション)的な意味を生成すると誤解を招きかねないビジネスシーンでは避けらる傾向があるからなのだと思われる。
この調査によって、”鯨構文は、日本の受験英語にしか出てこない、古臭い英語で、現代のネィティブはほとんど使わなくなっている”という意見を覆すことができるだろう。
2chへのこの投稿に付いたレスと返答
レス1. 「そうなんだ。でもデヴィッド・セインという英語本を量産している人もこんな言い方はあまりしない、なんて何かのインタビューで語ってたけどね。」
レス2.「デビッドセインのこんな言い方はネイティブには笑われマース!みたいな本はあんまり鵜呑みにしないほうがいいみたい。セインの偏見で書かれてる指摘も多いし。日本人にネイティブ様が英語のセンスを教えてくれる本だったら、スティビーソレイシーの本が好き。NHK英会話タイムトライアルの先生です。」
返答「実は再投稿したその初投稿には次の自己レスを付けておりました。
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ただし、デヴィッド・セイン氏はライテング・ポイントとして“いわゆる「受験英語」的英語は避けよう”と戒めています。知り合いの日本人に、問題の鯨構文の意味を問われて即答できなかったそうです。少し時間をかければその意味も理解できるし文法的にも間違いではないにしても、このような表現ではなく次のように表現するべきだと言っています
(『英語ライティング・ルールブック』p114)
○A horse is not a fish. In the same way, a whale is not a fish.
○A horse is not a fish, and neither is a whale.
しかしながら、この文は味気ないですね。セイン氏の上記の本は特にビジネスライティングの指南書なのでしょうがないと思いますが、修辞論的な観点は忘れてはいけないと思います。」
レス3.「たったnative speaker100人がsample sizeの調査からそう言うのか。信じられない。そんな考察結果はそもそも参考にならないでしょ。
・母集団は英語圏の人?特定国の人?特定の階級や階層の人?
・そのsample sizeで母集団を反映可能だと著者は考えている?」
返答:「インフォーマントの内、約75%がアメリカ英語を代表しており、残りの10%がイギリス英語、16%がオーストリア、カナダ、香港の英語となっており、従って地域的にはアメリカ英語への強い偏りがあります(shallの使用法に特に注目もしています)。」「教育レベルは96%が大学(70%)あるいは大学院(26%)卒業者であり、残りの4%も大学在学中ということで均一化しており、男女比はほぼ半々に二分されております。」「特に注目すべきなのは、職業として90%以上が英語教育の関係者だそうです。」「こう見ると確かに地域的あるいは学歴的に偏りがあり、地域や学歴変数を考慮した比較は信頼性に欠けるとは言えます。」「しかし、このことを考慮した上で、無作為に50項目(構文・英語表現の項目総数は150)を選び、あくまでも参考のために各変数と各項目の個人使用率、遭遇率、改まり度、自然さ度に関する反応と個人変数との相関関係を見てみると、相関係数は0.4を超えることは皆無であったそうです。従って、地域、学歴、年齢、性別の影響は害して弱いと考えられます。」「とにかく、いわゆる“educated, adult persons”の英語語法に対する意見を代表するサンプルを提供してくれる調査として信頼に足るものであり貴重だと僕は思います。」
鯨構文の修辞法
鯨構文の核心的な修辞性:誰もが異なるカテゴリと認識するものを持ち出す強さ
"A whale is no more a fish than a horse is."という文の強烈な修辞性は、以下の点にある。
明白なカテゴリの相違の利用: 鯨は哺乳類であり、魚類ではない。同様に、馬も哺乳類であり、魚類ではない。「魚類」という共通のカテゴリから、鯨と馬は明確に異なる存在として認識されている。
否定の連鎖と強調: 「no more A than B」という形を用いることで、「鯨が魚でない」という主張を、「馬が魚でない」という誰もが認める事柄と結びつけている。この比較によって、「鯨が魚である可能性」を徹底的に否定し、その否定の度合いを非常に強く強調している。なぜなら、比較対象として持ち出された「馬」が魚である可能性もまた、完全に否定されるからである。
暗黙の肯定: 強力な否定の裏側には、「鯨は魚ではない」という事実が、疑いようのない真実として浮かび上がって来る。直接的に”The whale is not a fish.”と言うよりも、比較対象があることで、その否定の強さが際立つのだ。
鯨構文と仮定法過去文との書き換え
1) A whale is no more a fish than a horse is (a fish).
≒If a whale were a fish, a horse would be a fish.
事実ではあり得ない仮定を示す仮定法過去で表現できる。
2) If he were Irish, I would be the Pope.
≒He's no more Irish than I'm the Pope.
「奴は絶対アイルランド人じゃないよ、俺がローマ法王だって位、あり得ない。」
修辞法的な鯨構文例文集
(ソース:2ch ・実は僕が書いたコメントw)
This is no more a Rolex than this plastic watch is!
「これはロレックスなんかじゃねーよ!このプラスチック時計もロレックスってか?嘘付け。」
He is no more an artist than I am.
「アイツはゲージュツカなんかじゃねーよ。俺もそうだって言ってるのと一緒だぞ。頭冷やせよ。」
He's no more fit for this job than a monkey is.
「ヤツはこの仕事全然向いてないよ。エテ公に仕事させてるようなもんだろ。ダメダメ。」
I could no more lie to you than fly to the moon.
「君に嘘なんてつけるわけがないじゃないか。月にだって飛べやしないのに。」
You do no more beat me than I eat the hat.
「俺をぶちのめすだって、それなら俺はへそで茶を湧かずぜ。」
beatとeatの韻を踏ませている。"eat the hat"は英語の紋切り型表現。『クリ‐シェCliche辞典』で知った。
He is no more a professional guitarist than my granny is!
「ヤツのギターの腕がブロ並みと言うなら俺のばあちゃんだってそうじゃん!」
AIによる評価コメント:
これは面白い例文集ですね!2ch発、そして実はあなたが書かれたという裏話付き(笑)、ありがとうございます。これらの例文は、クジラ構文の持つ強烈な修辞的効果を実に分かりやすく示しています。一つずつ見ていきましょう。
例文分析:クジラ構文の真髄
"This is no more a Rolex than this plastic watch is!" (これはロレックスなんかじゃねーよ!このプラスチック時計もロレックスってか?嘘付け。)
A = a Rolex (ロレックス)
B = this plastic watch (このプラスチック時計)
プラスチックの安っぽい時計がロレックスであるはずがない、という明白な事実を引き合いに出すことで、問題の品がロレックスである可能性を完全に否定しています。「ロレックスである」という主張に対する強烈な反論と、相手への嘲りが込められていますね。
"He is no more an artist than I am." (アイツはゲージュツカなんかじゃねーよ。俺もそうだって言ってるのと一緒だぞ。頭冷やせよ。)
A = an artist (芸術家)
B = I am (俺)
話者は自分が芸術家ではないと認識している(あるいは謙遜している)ことを前提に、そのレベルと比べて、問題の人物が芸術家である可能性を否定しています。「俺が芸術家じゃないんだから、アイツが芸術家なわけないだろ!」という強烈な皮肉と、相手の認識への批判が感じられます。
"He's no more fit for this job than a monkey is." (ヤツはこの仕事全然向いてないよ。エテ公に仕事させてるようなもんだろ。ダメダメ。)
A = fit for this job (この仕事に向いている)
B = a monkey is (猿)
猿が人間の仕事に向いていないのは明らかです。その明白な不適格さを持ち出すことで、問題の人物がこの仕事に全く適していないことを強烈に表現しています。比喩的でユーモラスですが、否定の度合いは非常に強いですね。
"I could no more lie to you than fly to the moon." (君に嘘なんてつけるわけがないじゃないか。月にだって飛べないのに。)
A = lie to you (君に嘘をつく)
B = fly to the moon (月に飛ぶ)
人間が自力で月に飛ぶのは不可能に近いことです。そのありえないことを引き合いに出すことで、「君に嘘をつく」という行為がそれと同じくらいありえない、つまり絶対にしないという強い決意や感情を表しています。ロマンチックな表現にもなり得ますね。
"You do no more beat me than I eat the hat." (俺をぶちのめすだって、それなら俺はへそで茶を湧かすぜ。)
A = beat me (俺をぶちのめす)
B = I eat the hat (俺が帽子を食べる)
帽子を食べるという突飛な行為を持ち出すことで、相手が自分を打ち負かす可能性を完全に否定しています。「そんなことありえない!」という強い反論と、ユーモラスな誇張が組み合わさっています。日本語の「へそで茶を沸かす」に近い感覚ですね。
"He is no more a professional guitarist than my granny is!" (ヤツのギターの腕がブロ並みと言うなら俺のばあちゃんだってそうじゃん!)
A = a professional guitarist (プロのギタリスト)
B = my granny is (俺のばあちゃん)
一般的に、おばあさんがプロのギタリストである可能性は低いと考えられます。そのイメージを持ち出すことで、問題の人物のギターの腕がプロレベルであるという主張を強く否定しています。親近感のある例えで、相手に分かりやすく反論していますね。
これらの例文からわかるクジラ構文の修辞的意味合い
これらの例文は、クジラ構文が以下のような修辞的効果を持つことを改めて示しています。
強烈な否定の強調: 単に「Aではない」と言うよりも、Bという明白にありえない例を持ち出すことで、Aである可能性を徹底的に否定します。
反論や皮肉の表現: 相手の主張や認識に対して、強烈な反論や皮肉を込めて表現するのに適しています。
ユーモアや誇張: Bに突飛な例を用いることで、ユーモラスな効果や誇張表現を生み出すことができます。
共感や納得感の醸成: Bが聞き手や読み手にとっても明白な事実や認識であるほど、否定の強さに共感や納得感が生まれます。
2ch発とは思えない(笑)、非常に分かりやすい例文集でした。クジラ構文は、このように、話し手の強い感情や意見を、印象的に伝えるための強力なツールと言えるでしょう。
AIに要求:
この例文のように他の英文を多く例示してほしい。
承知いたしました。クジラ構文のような、否定を強調することで肯定的な意味合いを強く示唆したり、ありえない比較を用いることで主張を際立たせたりする英文の例をいくつかご紹介します。
「no more A than B」の形式を用いた例文
He has no more chance of winning that race than a snail. (彼がそのレースに勝つ可能性は、カタツムリが勝つ可能性と同じくらいない。)
修辞的効果: カタツムリがレースに勝つことはありえないため、彼の勝利の可能性を完全に否定しています。
That politician is no more trustworthy than a fox in a henhouse. (あの政治家は、鶏小屋の狐と同じくらい信用できない。)
修辞的効果: 狐が鶏小屋で信用できないのは当然なので、その政治家の信頼性を徹底的に否定しています。
This coffee is no hotter than ice. (このコーヒーは氷と同じくらい熱くない。)
修辞的効果: 氷が熱くないのは当たり前なので、コーヒーが全く熱くないことを強調しています。
My old car is no more reliable than a chocolate teapot. (私の古い車は、チョコレート製のティーポットと同じくらい当てにならない。)
修辞的効果: チョコレート製のティーポットが実用性皆無であることから、車の信頼性の低さをユーモラスに表現しています。
Learning that language is no more difficult than learning to breathe. (あの言語を学ぶのは、呼吸を学ぶのと同じくらい難しくない。)
修辞的効果: 呼吸が自然で容易な行為であることから、言語学習の容易さを強調しています。
「no」を用いた強い否定による強調の例文
This is no ordinary day. (今日はただの普通の日ではない。)
修辞的効果: 「普通ではない」ことを強調し、特別な日であることを示唆します。
She is no stranger to hard work. (彼女は勤勉さとは無縁ではない。)
修辞的効果: 「勤勉でない」という状態を否定することで、彼女が非常に勤勉であることを強調します。
He is no fool when it comes to business. (彼はビジネスに関しては全く愚かではない。)
修辞的効果: ビジネスに関して愚かではないことを強調し、むしろ賢明であることを示唆します。
That was no small mistake. (それは小さな間違いではなかった。)
修辞的効果: 「小さくない」ことを強調し、重大な間違いであったことを示します。
It's no secret that they are getting married. (彼らが結婚することは秘密ではない。)
修辞的効果: 「秘密ではない」ことを強調し、多くの人が知っている事実であることを示唆します。
ありえない比較を用いた強調の例文
I'll believe it when pigs fly. (そんなこと、豚が空を飛んだら信じるよ。)
修辞的効果: 豚が空を飛ぶのはありえないため、全く信じられないという強い不信感を表現しています。
He'll be on time when hell freezes over. (彼が時間通りに来るなんて、地獄が凍るくらいありえない。)
修辞的効果: 地獄が凍ることはありえないため、彼が時間通りに来る可能性は皆無であることを強調しています。
Trying to get him to agree is like talking to a brick wall. (彼を同意させるなんて、壁に話しかけるようなものだ。)
修辞的効果: 壁が反応しないのと同じように、彼が全く聞き入れないことを表しています。
She sings like an angel. (彼女の歌声は天使のようだ。)
修辞的効果: 天使の歌声が美しいというイメージを用いて、彼女の歌唱力の高さを強調しています。(こちらは否定ではありませんが、ありえないほど素晴らしいものを比較に用いるという点で類似の修辞効果があります。)
He runs as fast as the wind. (彼は風のように速く走る。)
修辞的効果: 風の速さを比較に用いることで、彼の走りの速さを強調しています。(こちらも肯定的な強調の例です。)
これらの例文は、直接的な表現だけでなく、否定やありえない比較を用いることで、より強く、印象的にメッセージを伝えるためのテクニックを示しています。
