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わたしの犬

本日の記事はエイプリルフール仕様になっております。

さてどこからフィクションでしょう


 猫の話ばかりしてきたが、わたしは犬と暮らしていたことがある。シーズー犬という全身毛むくじゃらの犬で、中学三年のときに出会ったのだが、学校でみんなからモップ犬と呼ばれていた。
 彼の名前はルイといって、シーズーの中でも、もちろん犬の中でも世界で一番かわいかった。

 とにかくかわいいのだが、とにかく困ったやつでもあった。
 まず、ソファに置いてあった、わたしの歴史と地理の教科書をガジガジに噛んだ。そのせいで、フジ笑家にはネズミがいるとみんなに笑われた。
 次にわたしが漫画を読んでいたら、遊んであそんでと横で跳ね回った挙句、大変賢いことに、ソファの端まで距離をとってから、側頭部目掛けて飛んできた。犬に噛まれることばかりを恐れていたから、この攻撃は衝撃だった。衝撃の攻撃である。
 さらには、机の上に並べてあったわたしの朝食を、勝手に食べた。
 これに関しては、のちにやってきたすずさん(ねこ)も、わたしの味噌汁や牛乳を勝手に飲む習性があったから、なんともいえない。

 もっともかわいかったのは、雷が鳴る夜中のことだ。彼は犬とは思えない見た目と性格をしていたものの、かわいそうな遺伝的要素によって、雷が大嫌いだった。
 わたしは、かわいいルイと一緒に寝たくて、何度も自分の部屋に連れ帰ってみたのだが、彼は頑なにリビングが自分の城だと言い張った。だから、寝るときは一人だった。あまり遅い時間までテレビを見ていたりすると、はよ帰れオーラを出してくる。
 ただし、夜にリビングで過ごすことにしたのは、二階のわたしの部屋で姉とゲームに興じていたら、泣きながら二階まで登ってきたからだ。彼は階段の登り降りがひどく苦手で、一歩ずつ一生懸命に登らないと到達できなかった。一人で上がってくるなんて、よほどのことだ。
 にも関わらず、一人でリビングで寝ると言い張る。どうやら、夜にはめいめい、一人一部屋に戻って寝るのが正しいと思っていたらしい。間違ってはいない。一階の和室に住んでいたインコたちは一つの部屋にみんなで寝ていたが、それ以外の家族は、父も姉もわたしも、二階で一つずつの部屋に住んでいた。なるほど、空いているのはリビングだから、ルイがリビングで寝るのは真っ当なことだろう。
 しかし、雷が嫌いだった。夜中に雷が鳴りだすと、まずは、姉を呼んだ。ワンワン、ではなく、ヒイヒイ、とか細くないて姉を起こす。理由は簡単だ。わたしは一度寝たら起きない。一階でかわいい犬が泣いていても、気がつくわけがない。
 だから、まずは姉を起こして、呼びつけ、怖いからぱちを呼んでこい、と命じるわけだ。そこで姉がわたしを叩き起こして、ルイはようやく、わたしに抱っこしてもらって、気持ちを落ち着けるのだ。

 姉に抱っこしてもらえばいいのにって?
 そこがかわいいポイントじゃないか。伝書鳩にされている姉はたまったもんじゃないだろうが、そこまでしてでもわたしに抱っこしてほしいなんて、かわいすぎるじゃないか。

 大丈夫だよ、怖くないよ、と言ってあげると、ぎゅっとしがみついてくる。
 普段は、触るな!などと噛みついてきたり、ごはんのおすわりも伏せも、勝手に自分の決めたタイミングで、号令をかけて、誰もよし、なんて言ってないのに食べたり、人の椅子を占領して避けてくれなかったり、わたしのストレッチの時間にストレッチの場所にこれみよがしに座って、絶対のかん!と怒ってくるから喧嘩になったりするのに、である。
 思い返してもかわいすぎて仕方がない。

 さらにかわいかったのは、そうやって撫でてあげていたのに、二階からつくしさん(ねこ)が降りてくると、慌ててわたしから離れて、いそいそ寝床に戻ったところだ!
 弟分である、かわいいねこには、そんな威厳のかけらもない姿は見せられなかったらしい。

 そう。
 ルイはねこが大好きだった。
 犬のことは嫌いで怖くてこわくて、道で犬に会ってしまうと、キャン!と泣いて腰を抜かしたこともある。
 でも、ねこは大好きで、最初のねこ、すずさんが貰われてきたときは、ウザいくらいに喜んだ。というか、ウザかった。
 すずさんが、病気で亡くなってしまうと、ウザいくらいに落ち込んだ。いや、これはウザかったけどかわいそうすぎた。わたしや父が出かけると、もう帰ってこないかもしれない、と不安がるのだ。
 だから、新しくつくしさんがやってきたときの、喜びようはまた輪をかけてウザかった。

 つくしさんは、ルイ兄ちゃんの扱いが雑で、よく、ベッドをあたためさせては、追い払ったり、気に食わないコトがあると、お尻をぎゅうぎゅうに噛んだ。ルイのお尻の皮膚はびよーーーんと伸びた。
 それでも、ルイはねこが大好きだった。
 わたしも、好きなのはねこで、道を犬が歩いていたら泣きたくなるから、気持ちは分かる。が、あんたは犬だろうと、いつも思っていた。

 ルイとお別れをしたのは、今から十五年前の三月のことだ。
 前にも書いたが、ルイを飼ったのは、母が死んでしまったからだった。わたしは母が大好きで、その空いた穴を埋めるために父に頼んで飼った犬だった。そこから、母と同じくらいの時間、ずっと一緒にいて、兄妹みたいに……逆だ、姉弟みたいになかよしだった。何をしてもかわいかったし、ほんとうにほんとうに大好きだった。

 だから、いなくなってしまって、ものすごく悲しかった。会いたくて会いたくてたまらなかった。

 わたしは、絵本を描いた。
 主人公の女の子は、かわいがっていた垂れ耳の犬とお別れをする。ごはんを食べても、お絵かきをしても、本を読んでも、犬のことを思い出して、悲しい。悲しい気持ちのまま、ベッドに入って、でも、一緒に寝ていたことを思い出して、また悲しい。
 泣きながら眠った女の子の夢に、ちょうちょが現れる。色とりどりのきれいなちょうちょが、野原を楽しそうに飛んでいる。女の子も、なんとなくちょっとずつ、楽しい気持ちになっていく。
 夢の終わり、ひときわ大きくて、鮮やかなちょうちょがひらひらと女の子のそばでささやく。


また、会おうね


 ね、絶対にまた会おうね、ルイくん。また生まれ変わって、一緒に暮らそうね。また、ぎゅーってしてあげるね。




 それから六年後のある朝、わたしは窓の外でこねこが大声で泣き叫んでいるので目を覚ました。覗くと、白黒の小さな塊が、体いっぱいに泣いている。
 周りでは、庭のねこねこが困ったようにそれを見ている。

 助けに行かないかん!

 なぜか、わたしはそう思った。というより、気がついたら外に飛び出して、こねこの元に駆け寄っていた。
 何度思い出しても不思議に思う。こねこが迷ってやってくることは多いし、反対に、おやねこが、ちょっとお出かけの間に、と留守番をさせることだってある。
 こねこはその度に泣き喚いていたから、おかあさん、おかあさん、というねこなんて、当たり前だったのだ。
 なのに。
 なぜ、助けに行かなければならないと思ってしまったのか。

 顔が汚れていたので拭いてあげたら、そのせいで、わたしのことをおかあさんだと信じ込んでしまった。本当は、庭に放って、他のねこに世話をさせる予定だったのに、家に帰ろうとするわたしを追いかけて追いかけて、絶対に離れないと泣き叫ぶ。

「もう、お家に入れてあげようや」

 姉がついにそう言って、彼は我が家の敷居を跨ぐことに成功した。

 そう。彼こそが生まれ変わったわたしのかわいい犬である。犬だったので、動きがときどきおかしい。歩き方や走り方も、間違っていて、犬然としている。
 わたしの考えでは、また会えるのは、次の人生だと思っていたから、まさかそんなに超特急で戻ってくるとは思わなかった。だけど、また会えて本当にうれしい。どれだけ嬉しいかは、普段のねこかわいがりぶりを見ていただければ、お分かりいただけるだろう。

 ちなみに、彼は犬だったときの記憶をちょいちょい残している。残しているものの、ルイそのものではない、というところも興味深い。
 帰ってきて、彼が一番所望したのは、わたしが近所のショッピングモールのアジア雑貨店で買ってきた、緑色のチェックの、金糸が入ったかわいい薄布だった。
 彼はこれが大好きで、いつもベッドに敷いてあげていたのだが、とてもお気に入りだったので、これで包んで庭に埋めた。だから、彼本体と共に、庭に埋まっているのだが、どうしてあれがないのか、と最初のうち困惑していた。
 他にも、お気に入りのあおいタオルがあって、これも埋めてしまったからがっかりさせてしまった。

 ただ、ご飯のお皿は置いてあった。赤ちゃんのときから使っていたプラスチックのあおいお皿で、ご飯を食べた後、ガジガジ噛んだことがあったから、ルイの噛み跡がついている。
 ご飯のお皿に敷くランチョンマットはわたしがタヒチアンキルトで作ってあげたものだ。
 今、くじゃくさんは、そのお皿にランチョンマットを敷いて、ご飯を食べている。もちろん、ご飯を掬うための金属の計量カップも残してあったので、それでよそってあげる。

 たまに、自分でもどうしてそんなことをしたのか、と首を傾げていることもある。
 小さい方の冷蔵庫を開けると、お菓子をもらえると思って走ってくる。だが、くじゃくさんはねこだし、一度も彼に小さい方の冷蔵庫を開けて、お菓子をあげたことなんてない。それは、ルイの方だ。走ってきていたのも、ルイだ。
 なるほど、生まれ変わった人というのは、過去の記憶を持っていて、それがどうしてなのか分からないという。まさにそれなのだろう。ねこなので、詳しく聞けないところが残念だ。

 くじゃくさんも、怖いことがあると、ぎゅうぎゅうしがみついてくる。
 くじゃくさんも、異常にかわいい。
 もちろん、くじゃくさんがただのくじゃくさんだったとしても、ものすごくかわいい。別に、犬の生まれ変わりだからかわいいのではない、とは思うものの、やっぱりかわいい。

 また会えてうれしいよ、いっしょに暮らせて幸せすぎるよ。


#なんのはなしですか
#エイプリルフール


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